笠井康平

文・写真=鈴木栄一

「これ以上は挑戦を先延ばしにできない」

アーリーカップ東海大会、名古屋ダイヤモンドドルフィンズはチームの中心選手であり、オフェンスの舵取り役である笹山貴哉を故障で欠いていた。それでも優勝できたのは、テンポ良くパスを散らし、手堅いゲームメークで笹山の穴を埋めた小林遥太、笠井康平の奮闘が大きい。特に笠井は尽誠学園でウインターカップ準優勝、その後は青山学院大学へ進み、学生時代はトップレベルで活躍していたが、過去2年間は日本実業団連盟の四国電力でプレーしていた。プロの世界に飛び込んだが、レベルの違いを感じさせないプレーを見せた。

笠井が安定した会社員生活を捨てたのは、バスケットボールへの情熱が抑えられなくなったからだ。「本当は就職して1年経った去年の春にも、Bリーグに挑戦したい気持ちがありました。でも、大学卒業時、固い決意をして就職を選んだので、バスケットが今やりたいというだけで、こっちの道に来ると、おそらく後になって後悔するからと一度は留まりました」

それでも笠井はこの夏、名古屋Dの一員になった。「そこから1年かけて、Bリーグでやってみたい気持ちがどんどん強くなっていきました。今年25歳で、3年空いたらこのトップレベルの戦いに戻るのは本当に大変だと自分の中で決めつける部分もありました。この2つを考えて、これ以上は挑戦を先延ばしにできないと考えました。最後までしっかりバスケットを、満足いくまでやりたいと思ってプロの世界に入ってきました」

学生時代の実績は申し分ないが、2年間のブランクもある中で笠井がプロ生活のスタート地点に選んだのは名古屋Dだった。「めちゃくちゃ最初は不安がありました」と言うが、それでもB1でプレーできるチャンスを逃すつもりはなかった。

「まずはB2のチームで身体の面などブランクを戻し、自分の力でチームをB1に昇格させる、と言う思いもありました。ただ、B1というレベルの高い場所でプレーできる話があるのは幸せなことです。最初からそこでプレーできるのは何かの運だったり、これまで自分がやってきたことが、どこかで評価されたのだと考えました。まだ新人なので、結果を出すことを意識しすぎず、B1の舞台をしっかり経験したいです」

笠井康平

「アグレッシブにプレーすることがまずは大事」

同じ名古屋のポイントガードはチームの顔である笹山、笠井にとって大学の先輩でもある小林だ。「笹山さんは得点力があり、小林さんはしっかりと周りを使いながらゲームの流れを読める選手で、本当にバランスが取れています」と、2人からプレータイムを獲得するのが難しいことは承知している。それでも「とにかくガムシャラに、アグレッシブにプレーすることがまずは大事。ルーズボールにダイブしたりするのが強みなので、そういったところは続けていきたいです」と、自身の目指すプレーを語る。

笠井のプロ転向については、同世代の選手からの応援も大きな力となった。「こっちの世界に行こうか考えている時、富樫(勇樹)君だったり、田渡凌だったり、同い年の活躍している選手に会う機会がありました。そこで『プロになるべきだと思う』と言ってもらいました」

彼の背中を押してくれた人物には、尽誠学園の1つ下の後輩である渡邊雄太も含まれている。「ちょいちょい連絡を取っていて、プロに行くべきか悩んでいるような話をしていた時、『本当に挑戦できると思うし、した方がいい』とポジティブな言葉を言ってくれました。みんなの後押しもがあって踏み込めた。周りの声が自分に影響を与えたのが正直な答えです」

笠井康平

NBAに挑む後輩に「謙虚にあいつの背中を見て」

図らずも渡邊とは同じタイミングでのプロ生活をスタートさせることになる。渡邊がグリズリーズと2ウェイ契約を結んだのと、笠井の入団発表はほぼ同じ時期だ。「そうですね、上手いこといってますね(笑)。雄太は自分の良いニュースがあったにもかかわらず、僕の入団をすごく喜んでくれました。素直に雄太には活躍してほしいです」

さらに笠井は、「小さい頃は自分が年上として自分の背中を見せて、というところもありました。今は舞台も違いますけど、謙虚にあいつの背中を見て少しでも追いつけるように、一つの良いモチベーションの材料にしていきたいと思っています」と、日本バスケ界の歴史を変えようとしている後輩への思いを語った。

来るべきルーキーシーズン、笠井はまずは目標を次のように設定する。「去年より、チームの成績が良くなること。個人としては1分でも1秒でもいいので全試合に出場することを最低限の目標として、毎試合チームに貢献していく。まずはそこからコツコツと積み上げていきたい」

カテゴリーとしてはB3より下の競技レベルとなる実業団連盟からB1挑戦のステップアップが成功するか、笠井の挑戦もアーリーカップ優勝で弾みをつけている名古屋Dで見逃せない要素だ。