文=小林まりを 写真=Getty Images

最下位からプレーオフへ、ストームには実りあるシーズンに

9月、シアトル・ストームは3年ぶりにプレーオフの切符を手にした。開幕前、若い選手が多いチームが結果を出すには時間が必要だとジェニー・ボウセック監督は考えており、チーム形成にも常に長期プランを念頭に置いて、選手育成を心掛けていた。

シーズン終盤の7勝3敗という好成績はチームに自信をもたらし、調子もピークを迎えてのプレーオフ入りとなった。ボウセック監督就任2年目、前年度最下位のストームにとって、プレーオフ出場は開幕前からの目標だった。最終的にプレーオフの初戦で敗れ、シーズン終了となったが、新星ブリアーナ・スチュワートを筆頭に若手が大半を占めるストームにとっては快挙と言っていいだろう。

シーズンを振り返り、監督も選手も自分たちを支えてくれたファンに感謝し、リーグ前半では負けが先行したにもかかわらず、後半爆発的に調子を上げプレーオフまで辿り着いたことで、チャンピオンシップへの道に手ごたえを感じたようだ。

大学時代から先輩後輩の間柄で、ブリアーナとのプレー経験が長いカリーナ・モスクエダ=ルイスは、「オリンピック遠征後の連勝、プレーオフ出場の勢いはストームの将来を予見させるものだった」と語っている。

またこの1年、若手にとってはチームとして経験を積む時期でもあった。キャプテンのスー・バードも認めるように、前年度チャンピオンのミネソタ・リンクスなど上位チームはほぼ同じメンバーで4、5年戦い続けている。そういった要素を踏まえてチーム全体を見ると、ストームの伸びしろはまだまだ大きく、来シーズンの成績は数段上を行くと、ファンのみならず選手もすでに期待をふくらませている。

『順当』に新人王に輝いた超大物ルーキー、ブリアーナ

日本代表であり、シアトル・ストームでプレーする渡嘉敷来夢にとっては苦しいシーズンとなった。ルーキーイヤーだった前年の成績は平均20.6分の出場で、8.2得点、3.3リバウンド。一方、2年目の今シーズンは平均13.0分、5.3得点、2.5リバウンドと数字を落としている。

ただし、リオ五輪の中断期間を経たシーズン終盤には急速に調子を上げて信頼を勝ち取り、プレーオフでは20分のプレータイムを得ている。そして、今シーズンの収穫は何と言っても、新人王に選ばれたブリアーナ・スチュワートと肩を並べ、一番近い関係でプレーできたことだ。

開幕前から「WNBA界のレブロン・ジェームズ」と噂され、ファンも選手も大いに期待を寄せたブリアーナ。彼女のプレーはその期待を微塵も裏切らず、シーンズ開幕から毎月「月間新人王」を取り続け、結果をチームにもたらした。

高さ、スピード、スタミナ、どれをとっても引けを取らず、なんといっても気負いしない精神面も新人らしからぬ逸材だ。大学リーグ4冠、4年連続最優秀選手と、すべての賞を総なめにしてきたブリアーナ。前シーズン最下位のストームに所属が決まり、シーズン開幕当初は今まで一度も味わったことのない負け試合が続いたことで、戸惑いもあっただろう。

ブリアーナにとって一番衝撃的だったのはシーズン開幕戦。女王ミネソタ・リンクス相手に30点差での大敗を喫したのは、学生時代には味わったことのない完敗であり、感情的にどう対応すれば良いのか分からなかったと語っている。

大学リーグとは違い次々にやって来るWNBAのゲームスケジュールに、前の試合を振り返る時間もなかったが、とにかく前を向き、次のプレーに気持ちを切り替えることを学んだ。戸惑いながらもアジャストし、どんな場面でも結果を出した結果が新人王だ。1試合平均得点18.3、リバウンド9.3の成績を残し、新人王だけでなくMVP投票でも6位となった。

ブリアーナがボールを触れば何かが起こる、とまでチームメートに信頼される存在にまで成長。WNBA1年目にして最強のマルチプレーヤーと各メディアでも上げられた。そしてシーズン終了を迎え、ストームは前年度の最下位から6位(全12チーム)にのし上がった。ホームゲームの平均入場観客数も7230人まで伸び、WNBAで一番の人気チームになった。

ブリアーナがストームに「嵐」(ストーム)を呼び起こしたのは間違いない。結果も重要だが、ブリアーナの謙虚でありながら常に勝ちに貪欲な姿勢はファンにも愛され、ドラフトからわずか半年、今やブリアーナなしではWNBAは語れないほどとなった。

ストームの12選手のうち8人が休むことなく海外でプレーする

新人王を獲得して、ブリアーナは次のように語っている。「獲得したことに特別驚きはないが、新人にとってこれほど光栄な事はない。今シーズンは自分が予想していた以上の結果が残せた。チームに素早く慣れ、ストームとWNBAに貢献できたことは大きな出来事だった。プレーオフ出場の目標も達成でき、やれることはすべてやった。来年はさらに上を目指し、チーム全体が高い志で挑んでいくつもりだ」

シーズンオフ、ストームの12選手のうち8人が海外で休むことなくリーグに参加する。ストームから見れば、日本に戻りWリーグでプレーする渡嘉敷も、来るべきWNBAの2017年シーズンに向けた鍛錬の場なのだろう。ブリアーナはWNBAトッププレーヤーも参戦する中国リーグで、クリスタル・ロングホーン、ジュエル・ロイドとともにさらなるスキルアップを目指す。アビー・ビショップ、カリーナ・モスクエダ=ルイスはフランスへ、アリーシャ・クラークはトルコへ、モニカ・ライトはオーストラリアで、それぞれ国内リーグに参戦する。

各地で経験を積んだ彼女たちは来年またシアトルに集結する。新たなストーム(嵐)がWNBA界に旋風を巻き起こすことを予感しているのは本人たちだけではないはずだ。