「アイデアとカネだけ出して、誰かに任せるつもりはないよ」
NBAの2019-20シーズンは新型コロナウイルスにより途中で数カ月の中断となり、レギュラーシーズン終盤戦とプレーオフは『バブル』と呼ばれるディズニーリゾート内の隔離エリアで行われた。狭いエリアに閉じ込められて長い時間を過ごした選手たちにとって一つの憩いの場となったのが『Big Face Coffee』だった。
このコーヒーショップを開業したのはヒートのジミー・バトラーだ。ホテルの自室にコーヒーメーカーを持ち込み、良質なコーヒー豆を仕入れて、ドアの前に手書きのメニューを貼り出した。サイズにかかわらず1杯20ドルとなかなかのお値段だが、退屈な生活に彩りと香りを提供するバトラーのアイデアは多くの選手に歓迎され、何事にも本気で取り組み、細部にまで気を抜かないバトラーの作るコーヒーは好評だった。この時点で、彼は『Big Face Coffee』の商標登録を済ませている。
あれから1年、バトラーは『Big Face Coffee』を正式なビジネスとして立ち上げた。『INSIDER』の取材でバトラーは「オフシーズンに旅先で知らない人と交流する時、そこにはだいたいコーヒーがある。ただ座って話をするだけでも、僕たちの間は一杯のコーヒーという共通点がある。それに気付いたのが、コーヒービジネスを始めるきっかけだった」と語る。
『バブル』でのテスト出店で手応えを得た彼は、今オフにコスタリカを始めとしたいくつかの国を回り、コーヒー農家と語り、様々な産地のコーヒー、様々なローストを試飲して、自分が提供すべき味を見いだしたそうだ。
今のところバトラーの『第一の情熱』はバスケに向けられており、コーヒーはあくまで副業だ。『CNBC』のインタビューで彼は「朝起きてまず考えるのは練習のこと。その次に、帰って来たらコーヒーを淹れる練習をやろう、と思う」と語る。
「でも、僕はこの事業に多くの時間と労力を割いている。アイデアとカネだけ出して、誰かに任せるつもりはないよ。僕にとってはとても大事なことなんだ」
それはビジネスのオーナーとしてだけでなく、バリスタの技術習得にも注がれている。「バスケと違って他の誰よりも上手くなろうとは思っていないけど、すごく楽しいよ。たくさんの映像を見て研究したし、いろんな国を回って多くの人のやり方を見て、それを真似ている。毎日、朝昼晩と自分で飲むコーヒーを淹れていて、練習すればするだけ上達すると感じている。かなり美味しいコーヒーを淹れられるようになったよ。ラテアートだけはひどい出来だけど、いずれバリスタの大会にも出る。僕のひどいラテアートが最下位になってみんなに笑われても、それはそれで楽しいだろうね」
32歳のバトラーはヒートのチームリーダーとして新たな開幕を迎える。彼は今夏にヒートとの契約延長に合意しており、2025-26シーズンまでは契約が続く。つまり、コーヒーの世界に軸足を置くのはまだまだ先のことだ。それでも、彼は今から引退後の人生を明確にデザインしている。
「引退後はマイアミかサンディエゴのコーヒーショップにいると思う。いずれ誰かが『そういえば、ジミー・バトラーって今は何をしてるのかな?』って話す時、そのコーヒーショップのカウンターの後ろで僕はコーヒーを作っているのさ」