文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

「正直なところ自信を持って臨んだんです。ところが……」

Bリーグ開幕の週末、バスケットボールファンを最も驚かせた結果は、NBL王者の川崎ブレイブサンダースの連敗だろう。三遠ネオフェニックスとの連戦は2試合とも大接戦に。昨シーズンのプレーオフで『勝負どころで真価を発揮する』その特長を遺憾なく発揮し、タイトルをもぎ取った川崎らしからぬ戦いぶりで、接戦を2つとも落としてしまった。

キャプテンの篠山竜青は「情けない試合をしてしまいました。NBL王者として相応しくない、恥ずかしい試合をしてしまって残念です」とうつむく。

篠山は開幕直前まで日本代表の一員としてイランに遠征し、『FIBA ASIAチャレンジ』を戦っていた。篠山だけではない。川崎はBリーグで最多の4人を代表に送り出していた。チームとしての組織力を高めるべき開幕直前の数週間、主力4人が不在だったのは痛手。特にチームを操るポイントガードである篠山が、他の選手と連携を高められなかったのは大きい。

一番の敗因は4選手を代表に取られていたことなのでは? と率直な質問をぶつけると、「準備期間はなかったですが、それはやっぱり言い訳ですから」と篠山は言う。「ウチはメンバーが昨シーズンから変わっていません。そこは強みであって、正直なところ自信を持って臨んだんです。ところが蓋を開けてみれば2試合とも序盤からリードされてしまい、慌ててしまったような展開になりました」

土曜の初戦は立ち上がりに8-0のランを浴びて第1クォーターから14-26と出遅れた。続く日曜のゲームでも立ち上がりから3-13と大きく出遅れた。

「出だしでミスが続き、そこから追い上げなければならない展開になって、余裕が持てずにバタついてしまいました。代表がどうこうよりも、ゲームの入り方が非常に大きいと思います」

「個人個人がもうBリーグのプロ選手なんですから」

本来であれば日本代表として得た自信と経験を、チームに持ち帰るはずだった。今回のイラン遠征に参加したのは若手中心の代表チームで、特に篠山は目立った活躍を見せていた。『FIBA ASIAチャレンジ』で得た手応えについて篠山はこう語る。

「長谷川(健志)ヘッドコーチに長いこと使ってもらいました。日本はファストブレイクで得点を取っていかなきゃいけないチームなので、ボールをプッシュする部分を意識してやれました。その中でピック&ロールを使ってアシスト、得点ともに数字を伸ばせたので、そこは自分の中でも手応えがありました。落ち着いて相手を見て判断する感覚もつかめて、自信をつけて帰ってこれたと思っています」

技術面での収穫に加え、国際経験を積んだことでの自信も得られた。そこでの成長を川崎でも生かさなければならない。篠山は言う。「川崎はもちろん、辻(直人)とニック(ファジーカス)が得点源ですけど、自分ももっと得点とアシスト、それから『アシストのアシスト』も、自分が起点となるプレーを今シーズンは増やしていきたい」

その得点源の一人である辻は、代表での故障あり、三遠との連戦には出場できなかった。「痛いとは言いたくないですけど、痛い部分もあります」と篠山は言う。「でも、そこは辻だけじゃなく栗原(貴宏)さんの不在も結構ありますし。3ポイントは打ててはいるので、そこは僕も含めて一人ひとりが決めていかないと。そこは個人個人がもうBリーグのプロ選手なんですから、そういう部分でメシを食っていかなきゃならないです」

日本代表のせいにはしない。だが、問題にはしっかりと目を向け、課題を修正していかなければならない。「あまり数字には表れていないですが、ディフェンスの部分とかチームルールが徹底できていない部分があります。そういう部分のフラストレーションは多少ありました。でも、もちろん今がベストじゃないですし、成長していかなければいけないと思います」

「理想は自分が成長して活躍して、それで優勝すること」

篠山の思いは、Bリーグ開幕ということで豊橋まで応援に駆け付けたファンへと向けられた。

「やっぱり結果が大事です。プロとして負けていい試合なんてありません。川崎からも全国からも、たくさんのファンが応援に来てくれていました。その中で2連敗というのは非常に申し訳ない気持ちです。そこで辻がいなかったからとか、栗原さんがいなかったからとか、代表から帰って来てすぐだからとか言わず、ベクトルを自分に向けてこの2試合をしっかり反省しないと。それができれば成長していけると思います」

日曜の試合後、北卓也ヘッドコーチも「「私にとっても初めての経験で難しいところがあったのは事実です。ですが、それを言えば言い訳になる」と同じことを言っていた。「若い選手が緊張してなかなか良いプレーができなかった。これからの練習で連携を上げていくしかない。最初は連敗とつまづきましたが、ここから上向きます」

そう、リーグ戦はまだ2試合を消化しただけ。この連敗を受け止めて成長への起爆剤にできれば、後になって「結果的に、開幕週での連敗が良かった」と言えるかもしれない。NBL王者のBリーグ初シーズンの目標は、優勝以外にあり得ない。

篠山は言う。「代々木の開幕戦はテレビで見ました。Bリーグは本当に注目されて、メディアでもこうやって扱ってもらう機会が増えています。やっぱりスポーツをやっている以上、輝いて結果を残して、応援してくれる人たちに恩返ししたいという気持ちが強いです。初年度に優勝したいのはもちろんですが、一番の理想は自分がどんどん成長して活躍して、それで優勝することです。日々成長できるよう、そして優勝に貢献できるように頑張っていきたいです」

そう語る篠山はもう下を向いてはいなかった。失敗を糧として、さらに強くなろうという『プロの顔』がそこにはあった。リベンジの機会はすぐに訪れる。川崎の選手にとって幸いなことに、1日早く訪れる。川崎のホーム開幕戦は金曜ナイトゲーム、とどろきアリーナでの開催。果たして川崎ブレイブサンダースは、中4日という限られた中で、どれだけ個々が成長し、チームとして完成度を高めた姿を見せてくれるのだろうか。