今オフ、アルバルク東京はライアン・ロシターとセバスチャン・サイズ、ジョーダン・テイラーに安藤周人と、Bリーグで申し分のない実績を誇る選手たちを次々と補強した。戦力アップは彼ら新戦力だけではない。昨シーズンは故障で後半戦を休んだアレックス・カークの復活がある。インサイド陣ではチーム戦術を誰よりも理解し、その献身的なプレーでゴール下の要として王座奪還に欠かせないビッグマンに、オフシーズンの過ごし方、新シーズンへの決意を聞いた。
「僕自身の復活のためには日本に残るのがベストでした」
──まず、昨シーズンの長期離脱から順調に回復していることへの手応え。このオフにアメリカへ帰国することなく、日本に残ってリハビリを続けた理由を教えてください。
昨シーズンに負った厳しいケガからコンディションを取り戻し、チーム練習に合流できました。何の問題もない状態で開幕戦でプレーできると思っています。日本に残ったのは、それが自分にとって最善の環境だと思ったからです。今のコロナ禍でアメリカに帰国した場合、どこでいつワークアウトと身体のケアができるのは不透明な状況で、日本ならチーム施設の近くに住んでいて、ジムを毎日利用でき、トレーナーにケアをしてもらえます。僕自身の復活のためには日本に残るのがベストでした。
──ホームシックにはなりませんでしたか?
父とゴルフができないのは残念でした。家族、愛犬、ガールフレンド、友人に会えないのは寂しいです。本当に辛くて、孤独を感じることもありました。だからこそ、いろいろと忙しくするようにしていましたし、オンラインでよく話していました。幸運にも夏の間、バスケットボール、ゴルフなどいろいろと面白いスポーツゲームをたくさん見ることができました。NBAのプレーオフはすべて見ました。ただ、やっぱり大変なことも多くて、初めて経験する梅雨には驚きました。あれだけ長く雨が降り続く中、チーム施設まで歩いて通うのは大変でした。
──後半戦をほぼすべて欠場することになった昨シーズンの振り返りをお願いします。
僕と(田中)大貴がケガをして、2人のコンボがなくなったのは大きなダメージでした。ただ、小酒部(泰暉)は成長し、安藤(誓哉)と(小島)元基は強いプレーを見せてくれました。(竹内)譲次、(菊地)祥平、ザック(バランスキー)、須田(侑太郎)とみんな奮闘しています。過信と言われたくはないですが、自分たちがプレーオフを逃すとは思っていませんでした。
天皇杯準決勝の宇都宮ブレックス戦で、残りシーズン全休となるケガを負った時は本当に落ち込みました。あの試合、自分のコンディションは50%くらいでした。相手のグッドファウルを受けた後、ずっと痛みを感じていました。試合終了後、自分には手術が必要で、これでシーズン終了だと分かっていたので感傷的になり、涙も流れました。自分の失敗でなくとも故障によってチームを落ち込ませてしまった。そのことを受け入れるのは大変でした。家族も落ち込ませてしまい、プレーできないことで自分を誇りに思ってもらう機会を失ってしまったのはとても辛かったです。
「チームは、とてもワクワクする素晴らしい補強をした」
──今オフ、チームは積極補強に打って出ました。今回の補強について、率直な感想を聞かせてください。
まず、僕は移籍が活発なNBAのオフシーズンが好きです。日本で過ごしたことで、地元にいる時と違って誘惑がないので、誰がどのチームに行くのかと毎日チェックしていたし、噂を聞くのも楽しかったです。
チームは、とてもワクワクする素晴らしい補強をしたと思います。ただ、これからもベストフレンドの一人である安藤が移籍したのは寂しかったですね。安藤は日本人選手ですけど、チーム1年目からずっと冗談を言い合う関係で、外国籍選手のように付き合っていました。カナダとフィリピンでプレー経験があって、外国籍選手たちとも親密でした。だから、彼がいないことを受け入れるのは簡単ではなかったです。
もちろん彼以外のチームメートが去るのも辛いです。僕が加入してからの4年間、アルバルクは基本的に選手の入れ替えが多くはありませんでした。安藤、譲次は4年間チームメートでした。特にアルバルクのように一日ずっと練習場で過ごすようなチームにおいて、これだけ長く一緒にいると家族のようなものです。僕よりも詳しいと思いますが、譲次は日本バスケットボール界の歴史に残るビッグマンで、素晴らしい人柄です。彼は35歳、36歳になっても毎日、本当にハードにトレーニングしていました。その姿は僕に練習を頑張るための大きなモチベーションを与えてくれていました。
──新加入選手たちについて感想を教えてください。特にライアン・ロシター選手とはこの4年間、ライバルチームの中心選手として激しくやりあっていました。
とても驚きましたが、ライアンのような優れた選手の加入はシンプルにうれしいです。彼のおかげで、チームは外国籍のポイントガードを獲得できますし、それによって大貴や元基がオフェンスをコントロールする負担を減らせます。彼はこれまで8年間、日本でトッププレーヤーとして活躍し、宇都宮を毎年のようにプレーオフへと導いてきました。何よりも彼は勝者です。そして、彼のように闘志を前面に出す選手をウチは求めていました。ただ、今はこれまで試合で激しくやりあっていた記憶が練習中にフラッシュバックして、熱くなりすぎないように気を付けています(笑)。また、安藤周人は昨シーズンに少し欠けていたピック&ロールから仕掛けられる3人目の選手として、チームを助けてくれるでしょう。
「優勝候補のプレッシャーを楽しんでいます」
──大型補強でアルバルクを優勝候補の筆頭に推す声も少なくないです。これはプレッシャーになりますか。
これまでも日本人選手には大貴、安藤、譲次がいるリーグ屈指のタレント集団と見られていて、好成績を収めて当然と見られていました。リーグ全体がレベルアップしていますが、引き続きアルバルクはそう見られるだろうし、そのプレッシャーを楽しんでいます。ただ、今のアルバルクが優勝候補の筆頭だとは思いません。ライアン、安藤に加え、ファイナルMVPのセバスチャンも加入しました。それでも自分たちの力を証明する必要があり、優勝への道のりは遠いと感じています。
──ロシター選手、サイズ選手がいることで、インサイドにおけるカーク選手の負担は減ると感じていますか。もう30分以上プレーする必要はないですね。
1試合で35分プレーするのは、あまりハッピーなことではないですね(笑)。ライアン、セバスチャンともにプレータイムをシェアした経験があるので、あとは僕がこの起用法にアジャストする必要があります。ただ、故障から復帰する僕にとっては良いことです。特にアルバルクのようにコートを走り回り、オフェンスでは大貴とのピック&ロールのスクリーンを何度もかけないといけないセンターが、35分出場することは本当にタフですからね。
──ルール変更によって、外国籍のガードが増えたことは、ビッグマンとしてどのように見ていますか。
昨シーズンに(ディージェイ)ニュービル、(シャノン)ショーター、(レイヴォンテ)ライスとマッチアップしたことは、大貴が日本代表として世界の強豪と戦うための助けになったと思います。日本人のガードにとっては、よい質の高いプレーをするチャレンジができる環境です。育成の面では素晴らしいことです。
Bリーグについては、(アメリカ最大のオープントーナメントである)TBTで解説者が「Bリーグはアジアだけでなく、世界中でも有数のリーグになっている」と言っていました。実際、僕が日本に来てからの4年間でもリーグは大きく成長していると思います。
「勉強を楽しんでいるし、みんなと日本語で会話するのは本当に楽しい」
──話は変わりますが、チームスタッフから日本語を熱心に勉強していると聞きました。
まだ日本語は自信がありません。ただ、この夏はホームシックにならないよう予定を詰め込んで、日本語のレッスンを受けました。日本語が分かるようになれば日常生活が過ごしやすくなります。人々が何を言っているのかは前に比べると分かるようになったのですが、漢字と敬語はとても難しいです。でも勉強を楽しんでいるし、みんなと日本語で会話するのは本当に楽しいです。これからもっと話せるようになれたらいいです。
最初の3年間、日本人選手たちと話すことはなかなかできなかったです。会話ができるようになって一番うれしいのは、大貴を笑わせることです。祥平とは毎日のように話しています。今よりもっと日本語が下手だった頃は、会話の相手をするのも辛抱強くないといけなかったと思いますが、祥平はずっと付き合ってくれて感謝しています。みんな祥平ほど我慢強くなくて、中でも安藤は僕が日本語で話しかけると、英語で返してきていました(笑)。そうやってチームメートと触れ合うことができるのは本当に楽しいです。
──沖縄アリーナに乗り込んでの、琉球ゴールデンキングスとの開幕戦に向けての意気込みを教えてください。
100%は難しいかもしれないですが、できるだけ良い状態で臨みたいです。練習を重ねるごとにコンディションは良くなっています。琉球はこれまでも強かったですし、新シーズンはさらに強力になって、西地区の優勝候補です。もちろん2試合とも勝ちたいですが、結果はどうあれチームをさらに良くするための絶好の機会になると思います。
──それでは最後に、ファンへのメッセージをお願いします。
昨シーズン、僕たちはチャンピオンシップを逃しましたが、悔しい思いはファンの皆さんにとっても同じだと思います。皆さんも僕たちと同じように、勝利へのモチベーションをより強く持って新しいシーズンを迎えるでしょう。まずは立川で、そしてアウェーゲームで勝利を積み重ね、3度目の優勝を果たすためファイナルの舞台である横浜に戻りたいです。これまでと同じようにサポートをお願いします。