富樫勇樹

「積極的に行こうという思いは常に持ってやっている」

男子日本代表にとっての東京オリンピック初戦は、世界王者のスペインを相手に善戦しながらも77-88で敗れる結果となった。

第2クォーター後半の5分間、ここで2-22と相手の時間帯を作られ、止められなかったのが響いた。ハーフタイムを挟んで立ち直ったものの、20点差をひっくり返すのは簡単ではない。試合後にはどの選手もこの時間帯を敗因に挙げ、ワンプレーをきっかけに一気に試合の流れを持っていかれるビッグマッチの怖さを語った。

富樫勇樹は「前半の終わり方にすごく課題があった」と語る。彼自身はセカンドユニットで出て日本に良い流れをもたらし、16分のプレータイムで8得点を記録。サイズがない富樫はディフェンスで狙い撃ちにされてもおかしくないが、大会前の強化試合でそうだったようにBリーグでの普段のプレーよりもインテンシティを上げてディフェンスの穴を作ることなく、そしてオフェンスで違いを生み出した。

富樫のハイライトプレーは第1クォーターの最後に決めたフローターショット。3ポイントラインから一気にスピードを上げ、カバーに入るインサイドの相手選手を越すシュートだった。「時間がなかったので、あのプレーしかなかったと思います。そういう状況で、決まって良かったなと。積極的に行こうという思いは常に持ってやっているので、それが繋がった」と富樫はこのプレーを振り返る。

八村塁と渡邊雄太の『NBA組』に依存していては日本の勝利はない。そういう意味では富樫を筆頭にBリーグのトッププレーヤーによる活躍が欠かせないのだが、富樫のフローターは『Bリーグのいつものプレーが世界で通用する』ことを証明する意味で、価値のあるものだった。

富樫勇樹

日本代表でプレーする難しさ「コーチにも自分から行っていろいろ話した」

不動の先発である千葉ジェッツとは違い、日本代表での役割はセカンドユニットで、限られた時間でチームに勢いを与える、特にオフェンスが上手く行っていない時に打開する役割が求められる。それ自体が簡単ではない上に、東京オリンピックというプレッシャーのかかる舞台だ。その難しさを富樫はこう語る。

「Bリーグのファイナルが終わってすぐに合流して、疲労ではないんですけど、ワールドカップにも出ていないので、2年ぶりに近い代表活動で、なかなか自分のプレーというか、チームの役割をコートでできなかった時間が多く、正直コーチにも自分から行っていろいろと話したりもしています。その中で切り替えて、このチームに自分がいる意味をしっかり考えてプレーできたかなと思います」

どんな状況でも淡々と、そして飄々と目の前のプレーに集中して結果を出してきた彼にとって、こういったニュアンスの発言は珍しい。それだけ困難な状況とプレッシャーと向き合っているのだろう。それでも、敗れたとはいえ初戦から自分らしいプレーができ、それがスペイン相手に通用したという事実は彼にとっては大きなプラスになる。明日のスロベニア戦でも、富樫らしいアグレッシブなパフォーマンスに期待したい。