スピードで世界と勝負する女子日本代表
東京オリンピックに出場する5人制バスケットボール女子日本代表(FIBAランキング10位)はグループBに入り、7月27日にフランス(5位)、30日にアメリカ(1位)、8月2日にナイジェリア(17位)と戦う。
サイズでは世界に勝てない日本代表だが、その分スピードを生かした速いバスケットで世界と戦い前回大会のリオオリンピックではベスト8に入り、アジアカップは4連覇中と結果を残している。
日本代表の指揮を執るトム・ホーバスは2017年にアジアカップ3連覇を成し遂げた直後の帰国会見で『オリンピックでの金メダル獲得』を目標に掲げた。しかし、オリンピックの開催が1年延期したことにより、チームの主力と目論んでいたベテラン勢の引退、さらに絶対的エースである渡嘉敷来夢の負傷離脱とチーム状況は大きく変わっている。それでも、ホーバスヘッドコーチはスモールラインナップへ切り替えて、よりスピードで勝負するチームを作り上げた。
対戦相手は強豪チーム揃い。それでもホーバスヘッドコーチが作り上げた世界と戦うための日本のバスケをどれだけやり切ることができるかが重要だ。金メダル獲得を目指す日本代表の12名のメンバーを紹介する。
PF 0 長岡萌映子(183cm75kg)
高校時代にウインターカップ決勝で50得点を挙げ、17歳で史上2人目となる高校生での日本代表入りを果たすなど早くから注目を集めてきた。オリンピックはリオに続き2大会連続の出場となるが、前回は主力を休ませる繋ぎ役。しかし、トム・ホーバス体制下では、2度のアジアカップ、ワールドカップ、オリンピック最終予選とすべての主要大会でプレーしてきた。今回はチームを支える中心選手として、そして先発として大会に挑む。
長岡の持ち味は、コンタクトの強さを生かしたドライブにゴール下でのタフなディフェンス、3ポイントシュートを打ててファストブレイクに参加できる機動力を兼備しているところ。日本が展開する超高速スモールバスケットボールに欠かせない要素を持つパワーフォワードだ。年長組となった今では、闘志を前面に押し出して味方を鼓舞するリーダーシップも目立つ。リオでは初戦のベラルーシ戦こそ20分出場もその後は出番を失い、平均7.9分の出場と不完全燃焼に終わった。チームとともに5年前からステップアップした姿を世界に見せる時がきた。
C 8 髙田真希(185cm74kg)
ここまでWリーグで通算9度のベストファイブ、6度の得点王が示すように、日本女子バスケ界を代表する名センターとして10年以上に渡りトップレベルで活躍を続けている。名実ともにチームを支える大黒柱は、吉田亜沙美と大﨑佑圭の引退、渡嘉敷来夢の負傷欠場もあり、前回リオの主力で東京オリンピックにも出場する唯一のメンバーとなる。現在31歳、東京のコートに立つと2004年アテネ大会の濱口典子(30歳7カ月9日)を抜く史上最年長でのオリンピック出場となる。
現代表では不動のキャプテンを務め、巧みなポジショニングが光る堅実なディフェンス、ミドルレンジからの精度の高いジャンプシュートに的確なドライブと、コート内外で大きな存在感を発揮している。若いチームにあって唯一の30代だが、運動能力の陰りを全く感じさせない。日本は世界最速のトランジションバスケットボールを展開するため、インサイドの選手もガードと同等の運動量を求められるが、それにも難なく対応でき、ゴール下における攻守の安定感は替えが効かない。それだけに最年長であっても、チームで最も長い1試合30分以上のプレータイムが予想される。金メダル獲得で歴史を作るには、いかに髙田が良いコンディションを保って戦い抜けるかが重要だ。
SG 12 三好南穂(167cm57kg)
リオ大会ではここ一番での3ポイントシュート要員として、アジア予選には未出場ながら代表入りを果たした。限られた出番ではあったが、予選グループのフランス戦で終了間際に3ポイントシュートを沈め、役割をきっちり果たしている。しかし、その後はFIBA公式大会への出場から遠ざかり、2018年のワールドカップでは開催地スペインに現地入りした後でメンバー落ちし一人で帰国するなど、代表候補で止まる悔しさを味わい続けた5年間を過ごしてきた。
しかし、2020-21シーズンはWリーグでチームを優勝に導き、自身初の日本一を達成と勝負強さを増しステップアップに成功。ここ数年、3×3でも代表活動に参加していたが、今年の代表活動スタートに際し、自ら5人制を選択し、それが間違っていなかったことをオリンピックメンバー選出で証明した。今年に入ってトム・ホーバスは三好の3ポイントシュートの安定感を買い、6月、7月の強化試合では先発で起用してきた。リオでは合計5分の出場だったが、今回はその何倍ものプレータイムを得るのは間違いない。代表屈指のシューターとして、得意の長距離砲でチームに勢いをもたらすことに期待したい。
PG 13 町田瑠唯(162cm57kg)
視野の広さと鋭い戦術眼から正確無比なパスを繰り出し、アシストを量産する日本が誇る正統派ポイントガード。リオでは吉田亜沙美の控えとして大舞台で貴重な経験を積み、トム・ホーバスの下でも代表の常連として国際大会のメンバーに選ばれ続けている。2018年のワールドカップでは平均6.7分の出場に留まり、2020年の五輪最終予選もポイントガードの3番手とあって、プレータイムを確保するのに苦労してきた感は強い。その中でも自分の役割を遂行し続けることで指揮官の信頼をつかみ、今回は先発ポイントガードとしてオリンピックを迎える。
ポイントガードは3人体制。このうち本橋菜子と宮崎早織は自ら積極的にドライブを仕掛けて守備を切り崩していくタイプ。一方で球離れが良く、速いテンポでボールを散らしてオフェンスのリズムを生み出していく町田の存在は、2人の持ち味をより生かすためにも重要だ。ホーバスがかつて町田を評する時、「瑠唯は瑠唯」と語ったように、その卓越したパスセンスは他の選手には持ち得ないオンリーワンの武器となる。明確なエーススコアラーは存在せず、5人で攻めるのがモットーの日本にとって、町田のゲームメークはオフェンスの潤滑油として欠かせない。
PG 15 本橋菜子(165cm57kg)
代表選手たちの大半は、高校時代から注目され世代別代表を経てWリーグの強豪チームに入団し、主力選手として活躍して日本代表に選ばれる。だからこそ、そういった歩みとは無縁でWリーグでも上位進出のない東京羽田ヴィッキーズに所属していた本橋が2018年に代表に選出されたのは大きな驚きだった。だが、初の国際大会となった2018年のワールドカップで、本橋は全4試合で20分以上プレーして、日本代表における立ち位置を確固たるものとする。3ポイントシュートに加え、電光石火のドライブで相手ディフェンスを切り裂く攻撃型ポイントガードは、翌年のアジアカップではともにチームトップとなる平均17得点、5アシストを記録。チームを大会4連覇に導きMVPを受賞した。
日本代表で順風満帆な道のりを進んでいた本橋だが、昨年11月の強化合宿で右膝前十字靭帯損傷の大ケガを負ってしまう。東京オリンピック出場へ暗雲がたちこめたが、「間に合わないんじゃないかって思う余裕もないぐらい、毎日必死にやっていました」と懸命のリハビリで、ギリギリながら間に合わせた。大会前最後の強化試合となったプエルトリコ戦では、本橋らしいドライブ、アグレッシブなディフェンスを披露しており、代表に大きな追い風となる復活ぶりだった。
SG 20 東藤なな子(174cm65kg)
2019年のU19ワールドカップで中心選手として活躍し、2019-20シーズンのWリーグ新人王に輝くなど順調なステップアップを続けている。最年少の20歳で、まだフル代表でのFIBA公式大会出場がない中で、オリンピックメンバー入りを果たした。高校時代からスコアラーとして結果を残している東藤だが、トム・ホーバスが最も評価しているのは当たり負けしない激しいディフェンスだ。チーム事情から185cmの赤穂ひまわりをこれまでの2番から3番ポジションへと変更することで、世界との対峙で2番におけるサイズ不足が生まれてしまった。そのサイズの不利を補うのが東藤だ。ポジションに関係なくチーム全員でリバウンドを取りに行く日本において、U19ワールドカップでは平均12.3得点に加え、チームトップの4.9リバウンドを記録。そのリバウンド力も頼りになる。
また、オフェンスではフィジカルの強さを生かした突破力のあるドライブで、相手ディフェンスを収縮させることを期待したい。振り返ればリオ大会でこのスラッシャーの役割を担っていたのは、東藤にとってあこがれの存在である、同じ札幌山の手高出身の本川紗奈生だった。目標とする先輩と同じ、思い切りの良いプレーで代表に勢いを与えてほしい。
SG 27 林咲希(173cm67kg)
所属チームでの活躍ぶりが評価され招集を受けるのが代表入りの一般的なルートだが、林の場合は異なる。エースとして白鴎大を2016年インカレ制覇に導いたが、WリーグのENEOSに加入してからは2シーズン続けて出場機会に恵まれずにいた。それでもトム・ホーバスは林を代表に呼び、2019年のアジアカップで代表デビューさせた。実績面で懐疑的な声もあったが、彼女をENEOSに入れたのは当時の指揮官だったホーバスだ。自身のバスケットボールにフィットする人材として厚い信頼を寄せていて、その慧眼が正しかったことはすぐに明らかとなった。
2019年のアジアカップ、中国との決勝戦では12分の出場で3ポイントシュートを3本沈めて優勝に貢献する。その存在感をさらに高めたのが2020年2月の五輪最終予選だった。ベルギー相手に3ポイントシュート13本中8本成功の24得点と大暴れ。続くカナダ戦でも21得点と、世界の強豪を相手に2試合続けて結果を残し、代表での地位を確固たるものとした。2021年の代表活動ではなかなか3ポイントシュートが入らずにいたが、最後の強化試合プエルトリコ戦では6本中4本成功と本領発揮。クイックリリースから放たれる彼女の長距離砲は、このチームでNo.1の爆発力を持っている。
PF 30 馬瓜エブリン(181cm79kg)
桜花学園では2年連続で高校三冠を達成し、Wリーグでも代表経験者も多いタレント集団のトヨタ自動車で中心選手を担っている。リオ五輪後にトム・ホーバス体制が発足すると、それまでの実績から順当に選出され、2017年のアジアカップのフル代表デビューからここまで主要大会ではほぼすべて選ばれている常連選手だ。その特徴は180cm以上のサイズがありながら、自分より一回り小さい選手たちと同等、もしくはそれ以上の機動力、瞬発力を持っていること。日本代表の根幹である攻守の素早い切り替えによるトランジションのフィニッシャーとして頼りになり、このクイックネスを生かしたドライブで相手をかわした後、ファウルを受けつつシュートまで持っていきフリースローを獲得できるのも大きな魅力だ。
スモールバスケットボールで3ポイントシュートに大きな注目が集まる代表のオフェンスだが、ホーバスはペイントでの得点、フリースローとバランス良く点を取ることを重視している。オリンピックを前に最後の強化試合となった7月の2試合、最もフリースローの得点が多かったのは計14本中10本成功の馬瓜だった。3ポイントシュートの威力をより高めるためにもインサイドを攻めることは重要で、エブリンの強気なアタックは欠かせないものとなる。
PG 32 宮崎早織(167cm54kg)
オリンピックが延期になったこの1年間で一気に評価を高め、2020年夏の時点では全く代表に縁のなかった状態から本大会への切符をつかんだ。聖カタリナ学園高を卒業後、ENEOSに加入したが吉田亜沙美、藤岡麻菜美らの厚い壁に阻まれプレータイムが少ないシーズンが長らく続いた。しかし、2人がチームを去ったことで不動の先発ポイントガードを任されると、運動量を生かしてコートを縦横無尽に走り回るプレースタイルでチームを牽引し、常勝軍団の中心選手に相応しいパフォーマンスを見せる。特に皇后杯では絶対的なエースである渡嘉敷来夢を大会途中にケガで失うアクシデントを乗りこえて優勝する立役者となった。
一気にトップギアへと入る加速力と独特のリズムを生かしたペネイトレイトが最大の武器。代表ではベンチから出場し、ドライブからのレイアップや、キックアウトで3ポイントシュートを生み出すなど、相手ディフェンスをかき回す役割が期待される。また軽快なフットワークによる密着マークを得意としており、日本にとって守備の大事なオプションであるフルコートプレスを仕掛ける際にも頼りになる。そしてボール嗅覚にも長け、ベルギーとの強化試合では8得点7リバウンド7アシストを記録した。国際舞台の経験が皆無ということは対戦相手にとってデータが少ないわけで、日本の『秘密兵器』としてコートで躍動してもらいたい。
SF 52 宮澤夕貴(183cm72kg)
高卒入団から2020-21シーズンまで在籍したENEOSでは吉田亜沙美、渡嘉敷来夢と『ビッグ3』を形成し、前人未到のWリーグ11連覇を達成する原動力となった。Wリーグではベスト5の常連でプレーオフMVP、皇后杯MVPなど数多くの個人賞も獲得しており、名実ともに日本女子バスケ界を代表するフォワードだ。
リオではプレータイムをほとんど得られなかったが、その悔しい思いを糧に当時の彼女にはなかった3ポイントシュートを徹底に打ち込み、今では自身の代名詞となる武器に磨き上げた。そして、激しいトレーニングの積み重ねで築き上げたディフェンスは、ガードからインサイドまで難なく対応できる。こうして宮澤は2番から4番ポジションまで高いレベルでこなせる一流の3&Dプレーヤーへと成長を遂げた。日本代表でもエースとなったが、2020年以降は度重なる故障に苦しんでいる。大会前の強化試合でもプレータイムを制限せざるを得ない状況となっているが、最後のプエルトリコ戦では3ポイントシュートを決めるなど明るい兆しも出ている。宮澤のコンディションがどこまで戻るかは、代表の命運を握る鍵となる。
SF 88 赤穂ひまわり(185cm72kg)
トム・ホーバス体制となってからの4年間で最も成長を遂げた選手を挙げるとすれば赤穂だ。父は元実業団の一流選手、姉のさくらはデンソーのチームメート、双子の兄である雷太は千葉ジェッツと、日本を代表するバスケ一家の生まれ。早くから頭角を現し、2017年のU19ワールドカップでは3×3代表の馬瓜ステファニーらと一緒にチームを4位へと導いた。Wリーグでは1年目の2017-18シーズンからデンソーで活躍し、新人王を受賞。2018年のワールドカップではA代表入りを果たす。2019年のアジアカップでは主力となり、2020年の五輪最終予選でも平均30分のプレータイムと、22歳にして不動の先発を務める中心選手になっている。
赤穂の最大の魅力は、185cmのサイズながら2番ポジションをこなせる機動力、外角シュート、ボールハンドリングを備える多才さだ。その希少性はオフェンスだけでなく、スイッチを多用する代表のディフェンス戦術において、どのポジションの選手に対してもミスマッチを発生させることなく守れることで重宝される。相手に走り勝つのが日本の必勝スタイルで体力の消耗は激しいが、髙田とともに1試合30分のフル稼働が欠かせない。それくらいの代表の要であり、ワールドクラスのオールラウンダーだ。彼女の活躍なくして、日本代表が躍進することはない。
PF 99 オコエ桃仁花 (182cm88kg)
渡嘉敷来夢の故障離脱、大﨑佑圭の引退で選手層が薄くなったインサイド陣において、髙田真希、長岡萌映子の先発コンビをサポートする役割を担うのがオコエだ。機動力が持ち味のパワーフォワードで、もともとトム・ホーバスの目指すスモールバスケットボールとの相性が良かった彼女は、2018年のワールドカップでフル代表デビューを果たすとスペイン戦、中国戦でそれぞれ2桁得点と、初の大舞台で上々の結果を残した。Wリーグでは2019-20シーズンにデンソーから移籍加入した富士通で大きくステップアップ。中心選手として起用され、濃密な経験を重ねたことで心身ともに成長し、プレーの安定感を増している。
自分より一回り大きい選手に対してもコンタクトで負けないオコエの力強さは、190cm台の選手も少なくないオリンピックにおいてゴール下の肉弾戦で頼りになる。さらには大会前の強化試合では3ポイントシュートを確率良く決めているのが心強い。4番、5番でプレーする彼女が効果的に長距離砲を沈めることで、相手のインサイドをゴール下から引きずり出すことができ、ガード陣がドライブするスペースを作り出せる。大黒柱の髙田を休ませる時間帯に、アウトサイドシュートを得意とし走れるオコエを投入することで日本は得意のスモールバスケットをさらに加速できる。相手をより消耗させるジョーカーとして、彼女の存在は楽しみだ。