藤田秀彰

香川ファイブアローズは2006-07シーズンにbjリーグに参入したチームで、2016年にスタートしたBリーグではB2を戦っている。過去5シーズンで勝率が5割を超えたのは一度だけ。その2019-20シーズンは新型コロナウイルスの影響で打ちきりとなってしまい、昨シーズンはワイルドカード3位、惜しくもプレーオフ進出を逃した。実質的な親会社がいるわけではなく、大企業が多い都会のチームでもない。地域に根差しながらプロクラブとしての存在価値を高めるクラブは今後どう進むべきなのか。新たなクラブ理念、『決してあきらめない、全ての可能性を』を発表した藤田秀彰社長に『バスケット・カウント』プロデューサーの稲葉繁樹が聞いた。

稲葉繁樹(いなば・しげき)
1981年生まれ、福岡県出身。『バスケット・カウント』プロデューサーにして運営会社である株式会社ティーアンドエス代表取締役社長。デジタルコンテンツ、映像、広告、音楽、イベントなど、ジャンルを問わず多角的に活動する。草バスケプレーヤーであり、20年来のブルズファン。お寿司大好き。

「Bリーグ自体の構造的問題、大きなスポンサーがなければ結局は勝てない」

──まずは、東京で会社経営をしている藤田さんが香川のプロバスケットボールクラブの社長になった経緯を聞かせてください。

北陸高校で40年以上教えて佐古賢一さんなど多くの選手を育てた津田洋道先生が、もともとファイブアローズの総監督的な立場だったのですが、その津田先生との縁で、私と今のオーナーであり取締役の山本彰彦がチームが資金難になった時に助けたのがきっかけです。私たちにはそれぞれ別の仕事があり、スポンサーという形でファイブアローズにかかわったのですが、その年の夏にヘッドコーチのパワハラ問題が起きました。当時の代表が責任を取る形で退任して後任の人材がおらず、私と山本に「お願いします」と話がありました。

私は隣県の愛媛出身で、スポーツは嫌いではないので「ではやりましょう」と引き受けたのですが、その数カ月後には新型コロナウイルスの影響が出始めたこともあり、ここまでは思っていた以上に厳しかったですね。今も自分の会社をやりながらファイブアローズの社長業をやっています。東京と香川を行ったり来たりしながら、今はどちらの仕事もオンラインでやっています。

──東京と行き来しながらも香川にしっかり向き合えているのですから、新しい働き方のモデルになっていますね。

たまたまそうなったのですが、結局は仕事がやれるかどうかですから、香川に住むのが前提である必要はないと思っています。逆に少し離れていた方が見えてくるものもあるし、そうやって力が発揮できれば良いですよね。

──今日は地方クラブのあり方、プロスポーツクラブが地域にある意義を話したいのですが、藤田さんはどう考えていますか?

私はまだここに身を置いて2年ですが、Bリーグがやっていることの正しさを感じることは多々あります。スポーツは田舎に行けば行くほど、生活に占める割合が多いと思うんですよ。私も子供の頃は野球をやっていて、友達はマラソンをやったり水泳をやったり、田舎の方がスポーツ漬けの比率が高いんですよね。都会と比べてエンタテインメントがないので、自分がプレーヤーになってスポーツをする。その環境にプロがあればと思うんですよ。私は愛媛で野球をやっていましたが、県内にプロ野球チームがあれば、また違った経験ができたと思います。トップレベルのプレーを自分の目で見て、上のレベルを目指すことが現実的に想像できます。ちゃんと稼いで生計を立てることができれば、親御さんの見る目も変わってきます。そういう意味で、プロスポーツクラブが稼ぐことができれば、経済効果という意味で地域貢献もできます。

香川ファイブアローズ

「いろんなバスケの事業がそれぞれ成り立つ多角化をやりたい」

──香川には実質的な親会社がいるわけではなく、地方クラブはスポンサーを集めるのが簡単ではありません。新型コロナウイルスの影響で集客も今まで以上に厳しいはずです。『プロスポーツクラブで稼ぐ』をどう成り立たせていきますか?

正直、今のままでは地方クラブは簡単には生き抜けないという実感があります。私は業界の人間ではないので、逆にBリーグ自体の構造的問題に見えるのですが、大きく言うとクラブはスポンサー収入とチケット収入で成り立っており、大きなスポンサーがなければ結局は勝てないという感じです。

親会社を探しましょう、そのためにクラブの価値を上げましょう、となるのですが、それは「地域密着って結局は何ですか?」という話になります。地方のクラブに大きな親会社が付いた場合、どうやってメリットを提供するのか。今のBリーグを見ていると、スポンサーが上でクラブが下、クラブはスポンサーの言うことを聞いて喜んでもらいましょう、みたいな印象を受けます。

──確かに難しい問題ですね。大きなスポンサーの満足度を優先すると、地域に向き合うことが後回しになります。

そこで私があるべき姿だと思っているのは、香川ファイブアローズはBリーグライセンスを持ってBリーグに参入してプロバスケの興行をやりますが、会社全体としてもっと広い意味でエンタテインメントを作って事業化することです。Bリーグの試合だけじゃない収益構造を自分たちで作る。要はスポンサーだけに頼らない、『自走するクラブ』を目指したい。もちろん地域のスポンサーは必要ですが、メリットをしっかり返せることで対等な関係を作りたいです。

──地方だとスポンサー集めに限界がある、全国区のスポンサーを、できればオーナーを探さなければ、というのが地方クラブの考え方だと受け止めていて、「スポンサーに頼らない企業を目指したい」と言う経営者の方には初めてお会いしました(笑)。

今のところはそう思っているだけです(笑)。それでも、5年かかるか10年かかるか分かりませんが、長期的なスパンで地域との関係を作っていきたいです。これからBリーグのチームは育成組織を持たなければいけないので、我々も育成事業に向き合い始めたところですが、企業はトップチームより育成であれば「子供たちの未来のために」と考えてお金を出しやすい。ここから力を入れて、トップチームの試合だけじゃない柱に育て、最終的には学校まで作れるぐらいの教育ビジネスにするのも面白いと思います。

U15をスタートさせましたが、いずれは3×3も女子もやりたい。バスケは男女両方あるスポーツなのに女子の活躍する場がないので、地域の皆さんからそういう要望を実際にいただいています。観戦するだけじゃなくバスケをプレーしたい人もいると思うので、市民の皆さんが参加して応援できる、アローズカップみたいなものも作りたい。そこにアートを絡めたりグッズを作ったり。いろんなバスケの事業がそれぞれ成り立つ多角化をやりたいです。

藤田秀彰

「うどんと渡邊雄太だけじゃないぞ、次のステップがあるぞ」

──新B1ライセンスをどう考えますか? 香川はB2ライセンスしか持っていません。新アリーナができると聞いていますが、売上12億円と平均入場者数4000人という新B1ライセンスの基準は相当高いですよね。

1万人収容の県立体育館が新たに作られます。この話はずっとあって、このタイミングでできるのは我々にとってはありがたいのですが、ただ12億の作り方が問題です。目標としては新B1を掲げていますが、もしかすると新B2を選ぶかもしれません。Bリーグの実行委員会でも言いましたが、今の香川の構造で年間売上12億円は絶対に無理です。チケット単価2000円で5000人を入れても1000万円で、ホームゲーム30試合で3億円です。あとの9億をどうするのか。これを地方でやるのは現実的に難しい。大企業がバックに付くことでクリアできるかもしれませんが、さっきも言った話で地方のクラブとして「それでいいのだろうか」とは思っています。

現時点で12億に届いているのは4クラブか5クラブでしょう。その他のクラブは2026年までに他の事業を積み上げるのか、スポンサーを探すのか。地元の上場企業に親会社となっていただき、継続的に支援していただくとなれば、やはりハードルは高くなります。だからこそ支援いただくことをメインに考えるのではなく、自分たちで地道に事業を作り出して積み上げた方が良いんじゃないかと私は思います。

──アメリカでは『エリアステイツ』という考え方があります。地域によって経済規模も平均収入も全く違うので、地域によってクラブに求めるハードルが変動して、地域性による有利不利をなくすシステムです。今のBリーグのやり方で12億円は相当難しいし、「12億12億12億!」で突き進んでも歪みが出ます。今はまだいいですが、来年や再来年に「やっぱり新B1には行けません」と宣言せざるを得なくなれば、ファンもスポンサーも地域もシラけます。ここからあえて、もっと多様性のあるスマートな方向に価値を見いだしていくのは面白いですね。

香川の人たちに、今までなかった価値をファイブアローズが見せてあげたいと思いますよね。うどんと渡邊雄太だけじゃないぞ、次のステップがあるぞ、と言えなければ私たちがここにいる意味はありません。ただ、スポーツはそれが可能だと思うんです。売上が2億ぐらい、そんな小さな会社はいくらでもあります。でもプロスポーツクラブというだけで注目されて、ニュースになります。他の企業にはない性質があって、そこは経営をしていても面白いところです。もちろん大変ですが、やる意義は大きいですね。

──大事なのはビジョンですね。しっかりしたビジョンがあれば夢はかなうと思います。

今はまだ夢ばかりで、本当に香川でできるのかとも思います。それでも続けていくことで地域貢献になっていく。2年やってきて最近ようやくそれが見えてきたように感じます。我々はこの7月1日に新しいクラブ理念を発表しました。『決してあきらめない、全ての可能性を』です。香川は日本で一番面積の小さな県ですが、私たちは日本一大きなバスケットボール経済圏を目指します。

──バスケの地産地消、あるいは地域生産地域発信ができていくといいですね。いまだにgoogleの検索窓に「香川ファイブアローズ」と打つと、サジェストで「パワハラ」が出てきます。これをポジティブな、たくさんの柱を作って変えていきたいですね。

なんとしてもグッドニュースで変えていきたいですね。ある意味、それでもニュースになること自体がスポーツの強みだとも思いますが、香川ファイブアローズの取り組みを知ってもらい、香川に住んでいる人だけじゃなく全国にいる香川県出身の人、香川に縁のない人まで、香川が何かやっているね、頑張っているねと思ってもらって地域を盛り上げていける存在になりたいです。