いよいよ東京オリンピックがスタートする。3人制バスケットボール『3×3』は7月24日に開幕し、5日間の日程で行われる。日本代表が世界と戦う上で常に課題となるのが体格の差だが、4人のエントリーメンバーに160cm台の篠崎澪と山本麻衣を入れる日本は、サイズではなくスピードと機動力で勝負するスタイル。5月末のオリンピック予選で世界の強豪を相手に出場権を勝ち取った彼女たちには、間違いなくメダル獲得の可能性がある。身長165cmと一際小さいが、スピードと得点力を兼ね備えた日本のエース、山本麻衣にオリンピックへの意気込みを聞いた。
「意識的に身体作りをしてきたからフィジカルが弱いとは思っていない」
──3×3の女子だけが開催国枠を与えられず、予選を勝ち抜かなければオリンピックに出場できない状況でした。自国開催ということもあってプレッシャーは相当に大きかったと思いますが、どう向き合いましたか?
プレッシャーはありましたが「絶対に出てやる!」という前向きな気持ちの方が大きかったです。コロナで大会がなくなったり、活動できる期間が空いてしまったり、そこでモチベーションを保つのが難しかったんですけど、今年になって代表合宿が始まった時からチーム一丸で鼓舞し合うことで乗り越えられたと思います。
──短期決戦の大会でしたが、開幕戦のオーストラリア戦から山本選手を始めチーム全員が絶好調に見えました。
そうですね。オーストラリア戦が2年ぶりの国際大会で、国内大会とは全然違うので、緊張はあまりなかったのですが「どうなるんだろう」という不安と楽しみの両方がありました。1年かけて準備してきましたが、他のチームも1年間で伸びた部分が絶対あるはずで、最初の試合は覚悟して臨みました。でも、そこでしっかり準備してきた部分が爆発的に出せてすごく良かったです。
自分たちのグループの中ではオーストラリアが一番強くて、そのオーストラリアを倒すための対策をずっとしてきました。だから勝てて本当にうれしかったし、私はあの試合が結構自信になって、そこからのプレーにも良い影響があったと思います。
──実際、サイズの大きいオーストラリアを相手にどんな準備をして臨んだのですか?
オーストラリアは特徴が結構分かっていました。ディフェンスで中に入らせない、ドライブされた時にゴール下まで押し込まれると不利で、簡単に1点を取られてしまったシーンもあったんですけど、そこに入られる前にボディアップしてしっかり止めることを意識しました。あとはミスマッチになった時にセンターがボールマンにプレッシャーを掛けて、私たちは中に入れさせない。そういう練習もかなりやりました。
──とはいえ、サイズが20cm違うのは当たり前という状況でした。押し負けずに踏ん張ってゴール下まで入らせないのは、意識だけで何とかなるものではありませんよね?
そこはU23ワールドカップやネイションズを経験したことで、身体の強さは感じていたし、その時からウェイトトレーニングで意識的な身体作りをしてきました。それをやってきたからこそフィジカルが弱いとは思っていないですし、自信を持って積極的に身体をぶつけに行っています。やっぱり大きくても足元に入られるのは嫌だと思うし、下からボールをちょんと触られるのも嫌なものなので、こちらは嫌らしく狙っていました(笑)。
「スピードとシュートの技術をオリンピックでも注目してください」
──U23ワールドカップの時と比べて、ウェイトトレーニングの成果で身体が大きくなったと感じますか?
筋肉量はかなり増えました。昔だったら結構ムチムチしていたんですけど(笑)、今はシュッとしたとよく言われます。ゴツくなったと思うんですけど、絞れたと言われることもあるので、パッと見どうなのかはよく分からないです(笑)。
──身長が低いことがネックで上のレベルでバスケをやることをあきらめてしまう選手もいます。山本選手はサイズを理由に気持ちが折れそうになったことはないですか。
うーん……ないですね。逆に「やってやろう!」と思うタイプなので。自分の目標や夢を持って、そこに向かって行けば結果はついてくると思っています。そのために自分が何をしなければいけないのか、小さくても勝つには人の2倍の練習をするぐらいシュートの確率やスキルを上げることが必要になると思うんですけど、やったもん勝ちだと思っています。あきらめてほしくないですね。
──シュートの確率、スキルの部分で山本選手がこの1年で向上したのはどんな部分ですか?
シュートのバリエーションはずっと増やそうとしていて、OQT(世界最終予選)でも通用したのはドライブに行った時のワンステップのシュートですね。シュートの確率自体も上がってきているので、そこは自信を持っています。
──予選の戦いぶりがすごく良かっただけに、オリンピックでは相手の警戒もますます激しくなると思います。
それを前提とした上で練習からみんなでやっていきました。今までやってきたことは間違っていない、日本の武器が何かは分かったので、オリンピック開幕までにどこまで追求していけるかの勝負です。チームとしてはディフェンスの強度をもう一段階高めることを課題にしていますし、オフェンスはとにかくスピードでどれだけかき回せるかですね。
──日本の対戦相手はスピードに振り回されて、最後はガス欠で走れない、跳べない状況に陥ります。自分たちも消耗の激しい戦い方ですが、その展開に持ち込んだら走り勝つ、という自信はありますか。
それはやっぱりありますね。OQTでもキツい時間帯が結構あったんですが、「今は相手の方がキツいから頑張ろう」と声を掛け合っていました。そこで踏ん張れば相手のスタミナがもたないと分かってやっていた部分はあります。でも本当は「相手の方がキツい」と言いながら自分たちもめっちゃキツいんですけど、口には出していません(笑)。
──オリンピックで初めて3×3を知り、山本選手のプレーを見る人も多いと思います。そんな人たちへメッセージをお願いします。
3×3は試合時間も短くて展開も早い分、点数が決まる回数も多いので、初めて見る人でも楽しめると思います。音楽が鳴っていたり、観客とプレーヤーの距離も近いので、一緒になって楽しめるスポーツです。自分は小さい選手なんですけど、小さくてもできることを証明したいと思ってプレーしています。スピードとシュートの技術をオリンピックでも注目してください。応援よろしくお願いします。