「負けたくなかった。たくさんのことが起きたから、感情が高ぶっていた」
デビン・ブッカーがハンドリングのミスからボールを奪われた直後、背後から忍び寄ったクリス・ポールが奪い返す。第4クォーター残り2分半で121-100とサンズがリード。ゆっくりとボールを前に運んだポールは、正面からの3ポイントシュートを決めた。これで勝利を確定させたポールは、試合が止まると観客席に向かって吠えた。
サンズはこの第6戦を最終スコア130-103で勝ち、シリーズを4勝2敗で制した。
後半にギアを上げたクリス・ポールは、効率が悪いとされるミドルレンジからのジャンプシュートを次々と沈めて41得点を記録。さらには8アシストでターンオーバーはゼロ。彼にしかできないやり方で、チームを西カンファレンスの頂点へと導いた。
残り2分で主力は全員ベンチへ下がり、胸と胸をぶつけて互いの健闘を称える。ポールにとっては慣れ親しんだステイプルズ・センターで、知り合いを見付けては声を掛け、フェニックスから応援に訪れたサンズファンが占める一角に手を振る。そして、ホーネッツ時代にともに戦い、サンズで再び一緒になった指揮官モンティ・ウィリアムズと固い抱擁を交わした。
プレーオフも簡単に勝ち抜いたわけではない。ファーストラウンド初戦でレブロン・ジェームズと交錯して肩を痛め、古巣クリッパーズと激突したカンファレンスファイナルでは、ワクチン接種を済ませていたにもかかわらず新型コロナウイルスに感染して最初の2試合を欠場した。それでも彼はトラブルを乗り越え、素晴らしいパフォーマンスで若いチームを引っ張った。
「負けたくなかった。たくさんのことが起きたから、感情が高ぶっていた」と語るポールの目からは涙があふれ出す。彼の言う「たくさんのこと」はこのプレーオフだけではなく、キャリアを通じての戦いのことだ。キャリア7年目に加入したクリッパーズは常に優勝候補でありながら、6年間で一度もカンファレンスファイナルに進めなかった。2017年にチームが解体されると、ロケッツ、サンダーとチームを渡り歩くことに。ロケッツでの1年目にはジェームズ・ハーデンとコンビを組み、カンファレンスファイナルでウォリアーズを追い詰めたものの、彼のケガを機にチームは失速してしまった。
36歳になってようやくカンファレンス優勝を果たしたポールが感極まるのも当然だ。ステイプルズ・センターの観客席を見回しながら「みんなのおかげで僕は幸せでいられる。ここロサンゼルスにいるみんなは家族のようなものだ。6シーズも一緒に戦ったんだからね。クリッパーズは僕が最も尊敬するチームだし、僕は常にクリッパーだ」と語る。そしてサンズのチームメートたちを示して「ここにいる仲間たちも家族なんだ!」と声を張り上げた。
「ここで最初に僕を受け入れてくれたのが10年前のコーチ、モンティだ。まだ戦いは続くけど、僕たちは今をすごく楽しんでいる。16年だ。16年かかった。一生懸命やったし、手術もしたし、悔しい負けもたくさん経験した。でも今夜は最高だよ」
長い間、プレーオフで勝てない選手と見なされてきた。モンティ・ウィリアムズは「彼自身、そう言われることに苦しめられてきた」と語りながらも、「クリス・ポールから学ぶべきは続けることだ。あきらめず、人のために尽くすことだ」とポールの挑戦し続ける姿勢を称えた。
2005年のドラフトでNBAに足を踏み入れたポールは、キャリア16年目にして初めてNBAファイナルに挑む。