ゴベアを軸に構築された堅守を『避ける』3ポイントシュート攻勢
ジャズとクリッパーズのカンファレンスセミファイナルは、ジャズ2連勝の後にクリッパーズが4連勝と圧倒して終わりました。両チームの戦力に差があったわけではありませんが、作戦に致命的な差が出てしまったことが印象的で、レギュラーシーズンでは52勝20敗の最高勝率を記録したジャズの弱点が晒されたシリーズでもありました。
初めの2試合、細かく言えば第2戦の3クォーターの途中まではジャズが圧倒していました。しかし、そこで正面衝突では難しいことを悟ったクリッパーズがジャズの弱点を利用し始め、それを徹底することでシリーズの流れを変えたのです。
ドノバン・ミッチェルのアタックを止めることは難しく、シリーズ通して34.8得点、3ポイントシュート成功率45%と決め続けました。また、ミッチェルを止めに行けばパスを通されてジャズ得意の3ポイントシュートに繋がり、部分的に止めることはできても、最後までクリッパーズのディフェンスはミッチェルに対する正解を見つけることはできませんでした。
しかし、あまりにもミッチェルに頼るオフェンスは分かりやすく、ボールムーブが行き詰ると「必ずミッチェルにパスを戻す」と読んでいるクリッパーズは、シリーズが進むにつれてスティールを増やし、第6戦では最も多い13スティールから速攻で21点を奪い取りました。ミッチェルから始まるオフェンスは止められなくても、ミッチェルに戻ってくるパスを止めるのは、スモールラインナップで戦うクリッパーズには難しくない上に、そのまま得点に繋げられる大きなメリットがありました。そしてジャズは、この作戦にハメられても違う形でオフェンスを構築する方法を持ち合わせていませんでした。
それ以上にポイントだったのは、クリッパーズがスモールラインナップで戦い続けたことでした。センターのイビチャ・ズバッツは力強いプレーでルディ・ゴベア相手にも好プレーを披露していましたが、どんなに良いプレーをしても正面から戦ってはトータルでジャズの方が強いことが第2戦までにはっきりしたため、第3戦以降のクリッパーズは狙いを定めたオフェンスでの勝負を徹底したのです。
クリッパーズの狙いは今シーズンの最優秀守備選手賞を獲得したゴベアのディフェンスでした。ジャズのディフェンス戦術はマンマークの徹底を基本とし、過度なヘルプは用意せずに「ゴール下に誘導してゴベアで仕留める」形です。これがジャズの強力なディフェンスを作り上げ、ゴベアをこの4年間で3回目の最優秀守備選手賞に輝かせてきました。
ゴベアはスモールラインナップが相手でも何も変えず、自分のマークを捨ててでもヘルプでゴール下でリムプロテクトしてきます。それは「5人が3ポイントラインの外でパスを回せば、必ず誰かが空く」ということでもあり、リーグ最高の3ポイントシュート成功率を誇るクリッパーズは、第3戦からはゴベアの高さに対抗するのではなく、チーム全体でボールを回して3ポイントシュートを打つ作戦を明確に打ち出してきました。
その結果、第2戦までで5ブロックしていたゴベアですが、以降の4試合では1ブロックのみと長所を発揮できなくなり、またクリッパーズの3ポイントシュート成功率は4試合すべてで40%を上回りました。コーナーまでボールを動かせば、ゴベアにマークされている選手は必ずワイドオープンで打てます。特に第6戦ではテレンス・マンが7本の3ポイントシュートを決めただけでなく、マークに来ないゴベアの隙を突いたオフボールのプレーも決めまくって39得点と大活躍しました。リーグ最高のディフェンダーであるゴベアが、クリッパーズの脇役に完璧に攻略されてしまったのです。
カワイ・レナードが欠場したこともあり、総合力ではジャズの方が上回っていました。ですが攻守に「同じことしかできない」というジャズの欠点を、クリッパーズの作戦が大きく上回った4連勝でした。むしろレナードがいないからこそ、自分たちの長所を出すのではなく、相手の弱点を徹底して突くことに繋がった印象すらあり、ジャズの弱点はあまりにも鮮明に際立たっていました。
シーズンをリーグ首位で快走したジャズですが、「同じことしかできない」ことはシーズン中からはっきりしており、改善に向けたチャレンジもしてきませんでした。特にセンターで言えばゴベアではなくデリック・フェイバーズを起用すれば、一定の改善は確実に見込まれましたが、ヘッドコーチのクイン・スナイダーはフェイバーズを控えの位置づけから動かすことはなく、苦しい展開になるほどにゴベアにこだわり続けました。
スナイダーの戦術は素晴らしく、リーグ最高ともいえる論理性をもっています。その論理性はリーグ最高成績を導いた一方で、対戦相手に細かい対応をする柔軟性を不要にしてしまいました。ゴベアを最優秀選手賞に導いた論理性は、そのゴベアを弱点として狙われる結果となり、それでも変えることができなかったのです。あるいはレギュラーシーズンがあれだけ快調でなければ、もっと柔軟さを加えていたかもしれません。
同じ相手と最大7試合戦うプレーオフは、負けたチームほど作戦を変更して臨んできます。しかし、3連敗しても何も変えるないどころか、苦しい戦い方をより徹底するしかなかったため、クリッパーズの良さよりも、ただただ「ジャズが負けた」という印象です。ミッチェルを中心に自分たちの良さを出し続けたことで負けるというプレーオフの怖さを感じるシリーズでした。