カイリー・アービング

「契約延長の約束を無視して出ていったこと。ブーイングの理由はそれだけだ」

ボストンに戻ったカイリー・アービングは予想通り容赦のないブーイングを浴びることになった。忠誠を誓ったはずのセルティックスを離れてネッツの一員となったことで、彼はボストンのファンから敵視されるようになった。観客のいるTDガーデンに戻るのは今回が初めてで、しかも大事なプレーオフの試合。カイリーがボールを持つたびにアリーナはブーイングに包まれた。

繊細なカイリーはこれで調子を崩したようで、フィールドゴール17本中6本成功、フリースローも2つしか獲得できず16得点と低調な出来に終わり、119-125でネッツが敗れる要因となった。ブルックリンでの2試合はいずれもネッツが圧勝していただけに、この敗戦の衝撃は大きい。

カイリーはこのボストン遠征を前に「好戦的な雰囲気や人種差別、観客からの罵声がないことを願っている」と語るとともに、セルティックスに在籍した当時に人種差別を受けたことを示唆している。ただ、これはボストンのファンの反感を余計に買うことになった。『Boston Herald』はファンの次のような言葉を紹介している。

「カイリーは話を捻じ曲げようとしている」、「人種差別があったのだとしたら絶対に悪いこと。しかし、その時に発言すれば対処できたのに、なぜこのタイミングで言うのか」、「契約延長の約束を無視して出ていったこと。ブーイングの理由はそれだけだ」

そしてジェイレン・ブラウンもカイリーについて発言した。左手首のケガでプレーオフには出場できないブラウンだが、彼は社会正義に強い関心を持ち、公の場で自分の意見を表明してきた。その彼は『NBC SPORTS』の取材に応じ、カイリーの人種差別についての発言に疑問を投げかけた。

「ボストンはアメリカの他の街と同じように、人種差別について取り組むべき問題を抱えている。だけど、プレーオフの話題に人種差別を差し挟むのは好きじゃない。個人的な利益を得るために人種差別を持ち出したのだとしたら、それは気になる。人種差別はバスケットボールよりずっと大きな問題だ。メディアもそこを取り間違えないでもらいたい。バスケの方が重要だとか同列のように扱われると、本当の意味で人種差別に日々向き合っている人たちを軽視することになる」

キャバリアーズでカイリーと一緒にプレーした経験のあるトリスタン・トンプソンはこう言う。「ボストンのファンが特別なのは人種差別的だからじゃなく、ゲームに夢中になり『6番目の男』として戦おうとするからだ。確かにクレイジーなことを言う時もあるけど、それは選手の気をそらそうとしているからだ。家庭での教育が足りないと言えばそれまでだけど、セルティックスの一員である僕らにとって彼らは素晴らしい存在だよ。僕も両手を広げて受け入れてもらったし、支えてもらっている。だから、彼らが大声を出して僕らを後押ししてくれることに、大いに期待しているよ。まあ、僕に唾を吐くヤツがいたら、家まで追いかけてやるけどね」

カイリーの反論は、彼への敵意を煽る結果になったようだ。ライバル意識は勝負を盛り上げるスパイスとなるし、セルティックスのファンからすれば、何とかしてカイリーの集中を削いでリズムを狂わせることがホームコートアドバンテージになる。ファンに約束していた契約延長を反故にしてネッツに移籍したのは事実なだけに、カイリーはこの敵意に向き合い、乗り越えなければならない。

この週末から、マサチューセッツ州では新型コロナウイルスの感染拡大防止策が解除された。アリーナの収容人数はキャパシティの25%に制限されていたが、これからはほぼすべての規制が解除される。第3戦でカイリーのリズムを狂わせたブーイングは、第4戦ではその何倍にも増すということだ。ネッツにとっては、非常に厳しい『敵地』となる。