ザック・ラビーン

曖昧な未来よりも目の前にある確実な戦力アップを取る

トレードデッドラインで大きく動いたブルズは、オールスターセンターのニコラ・ブーチェビッチを獲得し、明確に『勝ちに行く』スタンスを取りました。このトレードの成否は別にして、シーズン前にフロントスタッフを入れ替えたことも含め、これまでになく大胆な決断をしたことは高く評価できます。

4年前にジミー・バトラーを放出して再建モードに入ったブルズは、時にはあからさまに主力選手を起用せず、ドラフト上位指名権を狙ってきました。その甲斐あってかラウリ・マルカネン、ウェンデル・カーターJr.、コビー・ホワイト、そして今年のパトリック・ウィリアムズとドラフトでは『当たり』を指名し続けてきましたが、『大当たり』の選手は獲得できず、有望株は増えどもチーム力の決定的な向上には繋がりませんでした。

ブーチェビッチ獲得のためにカーターJr.だけでなく、将来の1巡目指名権2つを放出しましたが、たとえドラフトで有望な選手を指名しても必ずしもチーム力向上に繋がらないことを知るブルズだからこそ、今が『決断の時』だと判断し、曖昧な未来よりも目の前にある確実な戦力アップのチャンスを逃しませんでした。

また、若手それぞれが期待を抱かせるプレーを見せても『大当たり』になれないのは、個々の特徴が生かされる戦術は異なり、全員のポテンシャルを同時に引き出すのが難しいことも関係しています。そのため、このまま『若手の成長に期待して未来を考える』のか、それとも『主軸に合う選手を集めて勝ちに行く』のかは、大きな分岐点でした。

今シーズンはプレーオフ争いに絡めるようになりましたが、その理由は若手がケガで離脱したときに起用されたベテラン勢が、エースのザック・ラビーンを支える構図を作ったことにありました。そのため来シーズンオフにフリーエージェントになるラビーンに契約延長を決断させるためにも『ラビーンを中核にしたチーム』であることを明確にした戦術にシフトしてきました。そんな状況で訪れたブーチェビッチ獲得のチャンスは、ブルズとしては逃すわけにはいかなかったのです。

クイックネスと高いシュート力に特徴があるラビーンは、最近はハンドラーとしてパスを出せるようになっているものの、ボールを持たせてプレーメークさせるよりも得点能力を最大限に発揮させるべき選手であり、そのためには『フリーでパスを受ける機会を増やすこと』と『広いスペースを与えること』が重要です。この点でインサイドのプレーメーカーであり、3ポイントシュートも上手いブーチェビッチは適任です。マジックでもシュート力の高いエバン・フォーニエやテレンス・ロスとのコンビで得点を積み上げてきただけに、ラビーンとも相性の良いプレーを見せると期待できます。

ブルズにはラビーン以外にもホワイトやトーマス・サトランスキーといったアウトサイドの上手いガードが多いため、ブーチェビッチが『ガードが得点をしやすい』シチューエーションを作ればチーム全体の得点力も上がってきます。

これまでのブルズは、有望な選手は多くてもチームの方向性が定まりませんでした。それでもラビーンを中心に据え、彼と相性の良さそうなブーチェビッチとコンビを組ませることで目指すべき戦術は明確になりました。さらに、どこでも守れるアル・ファルーク・アミヌに加えて、控えセンターにダニエル・タイスを獲得と、ディフェンス面での戦力アップにも成功しており、一気にジャンプアップすることが期待できそうです。