「悪い時間帯に、目をあわせて声を掛け合えた」
2020-21シーズンのWリーグはトヨタ自動車アンテロープスの悲願の初優勝で幕を閉じた。ENEOSサンフラワーズとの対戦となったファイナル、3月20日の第1戦を71-66で制したトヨタは、翌21日の第2戦も11-0と前日の21-4に続く見事な先制パンチで主導権を握り、そのまま押しきった。
「みんなで皇后杯から学んだことを共有できた。今年こそ歴史を変えようという思いがみんなの中にあって、最後それが爆発した優勝でした」
馬瓜エブリンがこう語ったように、皇后杯でのトヨタ自動車には、第1クォーターに先手を取りながら追い上げを浴び、第4クォーターに崩れてしまった。その精神的な弱さがファイナルのトヨタ自動車にはなかった。
キャプテンの三好南穂は皇后杯の教訓を次のように明かす。「気持ちの持っていき方が違いました。皇后杯では自分たちがまだ勝っている状況でも負けているんじゃないかと焦りが出て負けてしまった。そこはみんなで悪かったと反省して修正し、3カ月で変わりました」
実際、「今日の試合を含めプレーオフでは苦しい時間帯が続くことが多かったですが、そこで逃げないでみんなで前を向いて攻め続けたことが勝利に繋がりました」と三好が振り返ったように、苦しい時間帯でもしっかりアタックする強気の姿勢を貫けたことが大きかった。
また、チームの進歩として選手間における意思統一を徹底したことも大きかったと続ける。「私たちは悪くなると前まではお互いに目を合わせず個人プレーに走ることがあり、皇后杯もそれがありました。そこから悪くても目を合わせる、合わせない選手には多少は怒っても強制的に目を合わせることを積極的にやっていました。今日も悪い時間帯に、目をあわせて声を掛け合えた。そこが変わったと感じました」
「結果を出せたのは大きな自信、経験になりました」
メンタル面に加え、戦術においても自分たちのアドバンテージを効果的に使えたのが大きかった。ツーガードでオフェンスの舵取り役を担った三好と安間志織が揃って強調したように、トヨタ最大の強みは、3番ポジションで180cmを超えるエブリン、ステファニーの馬瓜姉妹、長岡萌映子を起用し、3番から5番までサイズの大きい選手を常にコートに送り出せること。この3番ポジションで生まれるミスマッチをつき、第2戦でも要所でエブリン、ステファニーがインサイドアタックからのバスケット・カウントを決め、試合の流れをENEOSに渡すのを防いでいた。
また、サイズの強みを生かしながらもトヨタらしい展開の速さを貫くことで、ゲームのテンポが重くならなかったことは大きな成長だ。安間は振り返る。
「個人的なことですが、皇后杯の後半は私がチームのスピードをすごく落としてしまいました。このプレーオフは、トヨタらしい速いバスケットをできるようプッシュすることを最後まで意識していました。焦ってしまう部分はありましたが、みんなに助けてもらいながらできました。」
ENEOSは渡嘉敷来夢と梅沢カディシャ樹奈を欠き、特にインサイドが万全ではない状態だったにせよ、今回のトヨタ自動車の優勝は間違いなくWリーグの歴史に大きな足跡を残すものとなった。そして現在、FIBA世界ランキング3位の強豪国スペインの指揮官も務める名将ルーカス・モンデーロの下、高さと速さ、インサイドとアウトサイドを兼ね備えたバランスの取れたチームとして確実に成長している。そしてファイナル第2戦では、12月末にアーリーエントリーで加入した187cmのシラ・ソハナ・ファトー ジャが11得点を挙げるなど、楽しみな新戦力も台頭している。
そして、長岡が「結果を出せたのは大きな自信、経験になりました。これから頑張る糧になりました」と語るように、勝利からこそ得られるものもある。この優勝を大きな弾みとし、ここからさらにステップアップできるのか。これからがより楽しみとなるトヨタ自動車の初戴冠だった。