1on1での仕掛けはほとんどなく、パスで存在感を発揮
ドラフト前から「不作の年」と言われていた今シーズンのルーキーたちは、上位指名を受けた選手であってもチーム事情もありベンチスタートが多く、昨シーズンのジャ・モラントのように初めからチームのエースとして君臨し、戦術の中心として組み立てられる選手がいない状況です。ただ、『再建の中心』でなくとも戦術にマッチすることで、大きなインパクトを与えている選手もいます。ルーキー・オブ・ザ・マンスに選ばれたホーネッツのラメロ・ボールとキングスのタイリース・ハリバートンは、ともにベンチスタートながら見事なプレーでチーム戦術を輝かせる存在となっています。
ジェームス・ボレゴがヘッドコーチに就任して3年目のホーネッツは、ガードを多く起用するスモールラインナップを好み、多彩なパターンのオフェンスを構築してきました。これまでは個人能力の不足により決めきれないことが多く、なかなか結果に繋がってきませんでしたが、ディフェンスにギャップを作り出すオフボールでの動きはチーム全体に浸透しています。
そして今シーズンは、ラメロが誇る驚くべきパス能力が、このギャップを鮮やかに活用しています。これまで出てこなかったタイミングでパスを通してしまうラメロ効果もあって、1試合平均のワイドオープンシュートが16.6本から20.6本まで増え、平均得点も7.6点増えました。これまではフリーになっても見逃されてしまうこともあったオフボールの動きを、ラメロという新たなピースが使うことで、多彩なチームオフェンスが結果に結びつくようになってきたのです。
ハーフコートオフェンスで巧みにパスを散らすゴードン・ヘイワードを補強したこともあって、ホーネッツの1試合平均パス本数はリーグ最多の314本に増えており、的を絞らせないオフェンスが威力を発揮しています。ラメロもディフェンスと正対して1on1を仕掛けることはほとんどなく、パスワークの中からチャンスを作るオフェンスにフィットしています。
加えてガードの多い布陣において、ラメロがポイントガードながらサイズがありリバウンドに強いこともチーム構成を楽にしています。ラメロにとっても自分がディフェンスリバウンドを取った瞬間に、他のガードが前を走ってくれることでワンパスでの速攻を出しやすくなっています。昨シーズンにブレイクしたデボンテ・グラハムがいるにもかかわらずポイントガードを指名したことには疑問もありましたが、ラメロの特殊性が共存を可能にしています。
ラメロはそのパスセンスが目を引く一方で、ターンオーバーが多く、粗さも目立ちます。それでもチーム全体でのパッシングとオフボールからチャンスを作るホーネッツに加入したことで、自らの突破でチャンスを作り出す必要がなく、得意のパスでチームメートを生かすことでインパクトを残しています。史上最年少でのトリプル・ダブルを記録するなど、ベンチスタートながら自分の武器を最大限に生かせる環境で活躍しています。
ホーネッツは開幕から好調を維持しており、勝利を積み重ねることで自分たちのオフェンスに自信を深めてきています。個人が自己主張するようなシーンは全くなく、それぞれの役割に徹したプレーを繰り返すことで、連携も深まってきました。ラメロのパスは派手に見えますが、むしろ試合を通してチーム全体が走り続けることでチャンスが生まれています。そんなチームでラメロ自身もハードなディフェンスを見せるなど、ハイライトプレーではない部分での貢献も増えてきており、個人としてもチームとしてもこれからさらに進化していきそうです。