マルク・ガソル

写真=Getty Images

スタイル変更にトライした結果の『原点回帰』

日本人史上2人目のNBA選手を目指す渡邊雄太と2ウェイ契約を結んだグリズリーズというチームは、現代NBAの中では異彩を放つチームの一つだ。

功労者ザック・ランドルフとトニー・アレンが退団したことで、グリズリーズの昨シーズンは『変革の年』となった。だがチームアイデンティティである『Grit and Grind』(闘志と気骨)、すなわち『粘り強さや泥臭さ』を体現することができず下位に沈んだ。それでも彼らの最大の長所は、リーグ屈指の守備力にある。粘り強い守備で執拗に食らいついて相手を疲弊させる無骨なスタイルがあったからこそ、強豪と対戦しても接戦に持ち込むことができ、西カンファレンスのダークホースという立ち位置を確立させられた。

守備に秀でたメンバーを集め、高い守備意識を共有させる手法も、グリズリーズのお家芸だ。2010-11シーズンからは5シーズン連続して年間平均失点を100点未満に抑えたほか、2012-13シーズンには球団新記録の年間56勝をあげ、球団史上初となるプレーオフ・カンファレンスファイナルに進出した。そしてその年のレギュラーシーズンの平均失点は89.3点で、2005-06シーズンのスパーズとグリズリーズ以降初となる、年間平均失点を90点未満に抑えた。

やはり、彼らには守備を前面に押し出すスタイルがよく似合う。8年ぶりにプレーオフ進出を逃したことで、球団も『原点回帰』の重要性を認識した。2018年のドラフトでは、守備に秀でるジェイレン・ジャクソンJr.とジェバン・カーターを指名し、『Grit and Grind 2.0』に挑戦しようとしている。

守備重視のスタイルに戻すからこそ、グリズリーズは渡邊と2ウェイ契約を結んだのだろう。ネッツの一員としてサマーリーグに出場した渡邊は、ジョージ・ワシントン大学での最終年にアトランティック10カンファレンスの年間最優秀守備選手賞に選出されたディフェンスを生かし、ネッツで3位の1.6ブロックを記録した。また、周りの選手が個の力だけでアピールしようとする中、チームのバランスを優先するプレーを心がけた姿勢も評価された。

グリズリーズは、Gリーグのメンフィス・ハッスルで渡邊がプロレベルのフィジカルに慣れ、守備力をさらに開花させられれば、NBAでもやれると期待している。2ウェイ契約選手になったことで、グリズリーズ以外のチームからコールアップされる機会は得られないが、『ディフェンス集団』で求められることは明確だ。渡邊の長所を生かせるグリズリーズこそ、現時点でNBAデビューの可能性が最も高いチームではないだろうか。

ディフェンスで大化けしそうなポテンシャルを備え、与えられた役割を忠実にこなす渡邊のプレースタイルは、メンフィスのファンが望む『Grit and Grind 2.0』にフィットするはずだ。