高校バスケ界の名門、桜花学園は昨年、インターハイ、国体、ウインターカップと高校3冠を達成した。今年も3冠を達成すれば、ウインターカップ優勝が井上眞一コーチにとって70回目の日本一だったが、新型コロナウイルスの影響で大会は軒並み中止に。練習や対外試合ができない中でも、桜花学園は例年通り日本一を目指さなくてはいけない。そんなチームを率いる井上コーチに今年のチームの強みを語ってもらった。
「大会中に相手の試合を見ながらアジャストしなければいけない」
──今年は新型コロナウイルスの影響でインターハイが中止になりましたが、チーム作りはどうですか?
インターハイが中止になって目標がなくなってしまったので、5月ぐらいに1週間ほど生徒たちを帰省させました。ただ、遠方の子は移動が怖かったので、親が車で迎えに来られる範囲の子たちだけ帰して、帰れない子は残って練習していました。インターハイ中止のこと、そしてウインターカップに向けて切り替えるという話を選手にした時は、相当の選手が泣いていましたね。それでも、今年の3年生は江村(優有)を中心にしっかりしているので、チームを上手にまとめてくれています。
──昨年の優勝メンバーが残っていますが、今年のチームの手応えはどうですか?
3人残っていますね。悪くはないと思いますが、新人戦で勝ちはしましたが岐阜女子に結構苦戦しました。ただ、今年はインターハイをやっていないので、ウインターカップの組み合わせがどうなるのか全く読めません。もしかしたら、岐阜女子とすぐに当たる可能性もありますから。試合ができていないから、ウインターカップ中に相手の試合を見ながらアジャストしなければいけないので大変ですよ。
昨年は平下(愛佳)や岡本(美優)がスコアを取っていました。今年は(オコンクウォ・スーザン)アマカと江村の得点は計算できますが、他はちょっと不安定なので、前田(芽衣)の3ポイントシュートがどれぐらい安定するかですね。前田はだいたい1試合で3本から5本の3ポイントシュートを決めると思います。彼女のディフェンス力と3ポイントシュートには期待しています。江村もキャプテンになって変わりましたね。声を張り上げるようなことはないですが、結構厳しいことも言います。長崎の方言がたまに入っていますけど(笑)。チームのために相当働いてくれていますね。
──コロナ禍での部活動や寮生活になりますが、どういったところを気を付けていますか?
日曜日は寮の食事がないから、以前はいろいろなところに食べに行っていましたが、今はそれも全部に禁止しています。近くのスーパーで買ってきて、寮で食べるようにしていますね。
「プレッシャーはあるけど、それが仕事だし、それが楽しみ」
──今年の桜花学園のポイントはどこになりますか?
アマカのリバウンド力ですかね。1試合でリバウンド20本はオーバーするし、時には30本ぐらい取ってくれます。彼女のリバウンド力は欠かせません。余分なファウルをせずに我慢することが重要ですね。
──桜花学園は留学生がいないチームでした。文化や言語の壁があるアマカ選手が入った時に、指導面で大変だったことはありますか?
ないですね。あの子はすごく明るいし、みんなと上手にやれる性格ですから。私が言っていることもしっかり聞くし、そういう意味ではすごく真面目で、きれい好きでしっかりしています。今は寮長もやっていて、この時期になると晩御飯の時にソックスを履いてないとアマカに注意されますよ、「ソックスを履いて来い」と(笑)。それに彼女は学校でも唯一の留学生なので、日本語を覚えるのも早いです。オンリーワンの存在なので学校でも人気者ですね。
ただ、ウチに入って来た時は思ったよりも大変でした。そもそもキャッチができないから、強いパスが来たら顔に当たっちゃうんですよ。ドリブルもパスもシュートもできない状態から始まりました。ただ、経験を積んでいくうちにバスケットの力もつけて、フォーメーションなんかも覚えるのが早い子です。それにあれだけのバネがあるとは思っていなかったですね。
──寮長は井上コーチが決めるのですか?
みんなで決めてアマカになりました。きれい好きだし、しっかり者だから選ばれたのかな。もしかしたらアマカにも責任を持たせようという意図があったのかもしれないですね。寮は4人部屋なのでそれぞれ部屋長もいます。でも、アマカは寮長ですから寮全部の責任者です。ゲーム中は江村がキャプテンを務めて、寮ではアマカがボスです(笑)。
──アマカ選手に限らず、その選手の魅力を最大限に発揮させるための工夫はありますか?
毎年メンバーが入れ替わるので、バスケットの中でもその子の力を最大限出させるようなチームを毎年毎年、作り上げないといけません。そういう意味では「この子はこれが上手いからここをやりなさい」というチーム作りをしているので、それぞれの良さをちゃんと使っていくことですね。
──毎年、強いチーム作りを行っていますが、井上コーチが休める時はありますか?
月曜日は休んでいます(笑)。要するに休む休まないよりも、毎年勝たなきゃいけないというプレッシャーが絶えず僕の中にあるので。3年計画で3年後に日本一になるというチームではなくて、毎年のように優勝を狙っていく。これはもう桜花学園の使命なので、それを目指してやっています。
──今もそのプレッシャーがあるということですよね? そこから抜け出したくなることはありませんか?
今もありますが、それは仕方がないことですね。それが仕事だし、それが楽しみなので。どこかでプレッシャーはあるけど、勝たなきゃいけない。そういう使命の方が大きいので、プレッシャーはどこかにあるけど、そんなことを言っている暇はないというか。
「今は渡嘉敷来夢のようなスーパースターはいない」
──ウインターカップの話に戻りますが、優勝への自信はどうですか?
100%とは言い切れませんね。今までで言うと、渡嘉敷(来夢)がいた時代だったら100%あったかもしれないです。そういうスーパースターがいた時代は。ただ、今は彼女のようなスーパースターはいないですし、どこも留学生を抱えているので厄介ですよ。
──では、最後にウインターカップへの抱負をお願いします。
ウチは基本的にディフェンスからのファストブレイクというチームなので、それが出せればと思います。