和歌山信愛は15年連続22回目のウインターカップ出場、インターハイでも32回出場の和歌山の強豪校だ。就任19年目を迎える宮本浩次コーチは強豪校の監督としては珍しく、バスケの指導者よりも教員を志してこの世界に入ってきた。それも、家業を継ぐかどうか悩んで末に教員を選んでいる。だからこそ「自慢の生徒です」と選手たちを紹介する時はほがらかな笑顔を見せる。練習も厳しさとともに規律を重視しており、ダラダラと長時間続けるのではなく決められた時間に必ず終わる。だからこそ選手は限られた時間の中で集中して練習に取り組む。そんなチーム作りを進める宮本コーチに話を聞いた。
「ゴールが遠すぎると掲げるだけになってしまう」
──新型コロナウイルスの影響で自粛期間が長くあったと思います。その時期はどのように過ごしましたか?
自分でプレーしていた現役時代も含め、これだけバスケットから離れることはありませんでした。最初の1週間は練習メニューを考えたりしましたが、それからは全く離れるようにして、ジムの回数を増やしたり本を読んだり掃除をしたり、気持ちのリフレッシュを優先しました。選手に対しても最初は「トレーニングをやっておけよ」なんて言いましたが、途中からはそうじゃなくて本を読もうとか、別の観点から自粛時間を過ごすようにしました。
──今年の和歌山信愛はどんなチームですか?
毎年、小柄なチームです。スタートで身長がある選手でも170cmぐらい。それでも小さいなりの戦い方が面白くて、チームとしてディフェンスを頑張ってアタックしていくスタイルです。堅守速攻とは昔からよく言いますが、ただがむしゃらにディフェンスするのではなく、ボールマンに対してどういうディフェンスをするのかを周りが見て、私から指定するんじゃなくて自分たちで変化する、という練習をずっとやっています。自分たちでどんどん仕掛けて、ちょっとした修正だけ私が話すようにしています。すべて言葉で伝えたところで、全部が頭に入ってできるわけではないですよね。ただ、繰り返し言ったキーワードは残ります。それがゲームの中で1プレーか2プレー出るだけで流れを変えることもあると思うので、そういう部分だけは言うようにしています。
身長が低い分、フィジカル面でのトレーニングを重視していて、選手たちを見てくれるアスレティックトレーナーが働いている病院の隣にトレーニングジムがあって、そこの会員にしていただいています。そこで身体が強くなったのは大きいですね。トップスピードからのジャンプであったりシュート、ディフェンスで身体を当てながらボディアップする時も全然違います。それをどうバスケに生かすかは私の仕事ですね。
──小さいから走る、というチームが多い中で、小さいからフィジカルを鍛える方向に行くのは珍しいように思います。
もちろん走るのも大事なので、速攻とハーフコートオフェンスのバランスを求めていきます。以前は小さいからとスピードを追い求めていた時期がありました。しかし、ストップとか判断を考えずにスピードばかり追求して、3人ぐらい膝を痛めている状態になってしまったことがあります。その時にトレーナーやドクターにいろいろ相談して、止まり方一つにしてもトレーニングの仕方でケガが減ります。捻挫にしても自分の知識で足の向きや止まり方ばかり気にしていたのですが、エネルギーの摂取量が足りなくて疲れがきてケガをする、という観点がありませんでした。それで栄養についてもいろいろ教えてもらって、補食を取るようにしたりして、ケガが減ってきました。
「和歌山のすばしっこい猿たちを楽しんで見てください」
──和歌山県では圧倒的に強い反面、全国大会に出るとそう簡単に勝てません。
全部の試合が忘れられないんですけど、最初に出た全国大会では試合途中に何クォーターか分からなくなるほど圧倒されました。そこからいろんなアドバイスをいただいてここまで来ました。よく言われるのが『全国ベスト8の壁』です。全国どのチームも目指すは日本一ですが、「目指すならトップ」は当然あるんですけど、ゴールが遠すぎると掲げるだけになってしまう意識もあります。だから今は「先輩たちの記録を乗り越える」という目標も掲げています。なので選手たちが掲げているのは、まずは近畿大会優勝。これまでの最高位が近畿の準優勝で、決勝で薫英さんにガツンとやられたんです。まず近畿でトップを取りたいというのがあって、ウインターカップではベスト16が最高なので、目の前の目標としてはベスト8進出です。
──ウインターカップで一つずつ勝っていくために、今のチームに必要なことは何でしょうか?
どんな相手とやっても、シュートが全く打てない状況にはならないんですよね。簡単に決められるシュートをポロッと落とすようなことから始まって、ミドルシュート、コーナーエルボーですとか、決めて当たり前のシュートを落とすことが積み重なって、逆に相手が決めきるクォーターがあると大きいです。あとはどこかで一息ついてしまい隙が生まれるだとか。高さとか戦術どうこうではなく簡単なことですが、フリースローもそうですよね。1点2点の話なんですけど、ゲームとして見ればそこからグッと差が開いてきます。そこは努力で埋められる部分が大きいので、徹底していきたいです。
──あと1カ月で本大会です。そこまでチームのどの部分を修正して仕上げていきますか。
小さいので突っ込みすぎてタフショットになることが多いんです。オフボールが合わせて動くのは当然ですが、ボールマンがもう少し判断を早くしないと。ペイントを攻める時の身体の預け方は今までもずっとやってきたのですが、トレーニングで出来上がった身体でもう一度スペースを作る、ボールをキープしながら外しながら、という基本の練習をこの時期にやって、12月に入ったらゲームでもう一度速攻を増やそうと思っています。
──今年はコロナの影響があったり大変な1年でしたが、ベスト8は狙えそうですか?
どのチームも経験した自粛期間を、ウチの選手たちはモチベーションを下げずに来ました。ただ、リズムが違うんですよね。近畿新人大会からずっと大会がなくて、和歌山は代替大会もできませんでした。インターハイもありませんでした。インターハイで一息ついて3年生は進路のことがあって、そしてウインターカップという流れが全然なくて、ずっと練習練習で来てしまっているのはすごく心配でした。それでも選手たちは集中してやってくれています。こればっかりは抽選の結果にもよりますが、一つでも上を目指して頑張るつもりです。
──では最後に、ウインターカップで和歌山信愛のここに注目してください、という点を教えてください。
ありきたりな話ですけど、全員が小さくて目立つ選手はいません。それでもチームのキャラクターが『クイックモンキーズ』と言って素早い猿なんですよ。和歌山のすばしっこい猿たちが全力でアタックしますので、そこを楽しんで見ていただければと思います。