コービー・ブライアント

北京オリンピックでディフェンスの鬼と化したコービー

男子アメリカ代表バスケットボールチームの前ヘッドコーチを務めた『コーチK』ことマイク・シャシェフスキーは、2008年の北京オリンピックに出場した代表を金メダルに導いた名将だ。

チームUSAが銅メダルに終わった2004年のアテネオリンピックからの名誉挽回のために結成された当時の当時の代表チームは『リディームチーム』と呼ばれ、コービー・ブライアント、レブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイド、カーメロ・アンソニー、クリス・ボッシュ、ドワイト・ハワード、クリス・ポール、ジェイソン・キッド、デロン・ウィリアムズ、テイショーン・プリンス、カルロス・ブーザー、マイケル・レッドという超豪華な顔ぶれが集められたチームだった。

今もデューク大学で指揮を執るシャシェフスキーは、教え子であるJJ・レディックのポッドキャスト番組に出演し、『リディームチーム』のキャプテンを務めた故コービー・ブライアントとの思い出を語った。シャシェフスキーは、コービーとの数々の思い出の中から、2008年の代表で彼がディフェンスでのキーマンを自ら買って出た時のエピソードを披露している。

「当時の私たちは、USAバスケットボールでカルチャーを築こうとしていた。それで彼(コービー)、チャウンシー・ビラップス(のちに一身上の都合で代表を辞退)、ジェイソン・キッドをチームに加えた。最後の準備のためラスベガスに滞在していた時のことだが、ある日、突然部屋の扉をノックされたんだ。ドアを開けたらコービーだった」

「彼は私に『コーチ、少しいいですか?お願いがあります』と言ってきてね。彼は『対戦するチームのベストペリメータープレーヤーを抑えたいんです』と言ってきた。当時の彼は世界最高の選手で、その前年にはNBAの得点王に輝いた選手だった。ただ彼は、代表で自分のスタイルを修正する必要があることを分かっていた。私に対戦相手のベストペリメータープレーヤーをガードしたいと言った時の彼の目は、マイケル・ジョーダンと同じだった。そしてこうも言われたよ。『コーチ、俺が相手を徹底的に叩き潰してみせます。約束しますよ』とね」

この言葉に嘘はなかった。シャシェフスキーによれば、チームミーティング後の初練習で、コービーは1本もシュートを打たなかったという。「練習後に彼を呼んで、どうしてシュートを打たないのかを聞いた。『私は、君がオフェンスで相手を叩き潰すところを見てきた。どうしたんだ?ひどいシュートになるのか?』と聞いたよ。彼は笑って、自分にシュートを打つよう指示したコーチは私だけだと言った」

「ただ、彼のすごいところは何をすべきかを理解していたこと。その時点で彼の頭には、我々が北京で金メダルを獲得するには準決勝か決勝でアルゼンチン(アテネ五輪の金メダリスト)に勝たないといけないというビジョンがあった。だからその時点で、マヌ・ジノビリを抑えないといけないと考えていたんだ。その準備をしておきたかったのだろう。彼の行動がチームの雰囲気を作った。実際に準決勝でアルゼンチンと対戦して、我々は20点差(101-81)で勝利した。その試合でジノビリが負傷交代した時点で大勝できると考えたのだろう。彼はあまり関心を持っていないようだった。そういう男なんだ、彼は」