エリック・スポールストラ

「この素晴らしいチームと一緒に戦うことができて良かった」

8勝無敗のサンズ、次世代のスター誕生を感じさせたマーベリックス、満身創痍でも進み続けたトレイルブレイザーズ、1勝3敗から逆襲し続けたナゲッツ。NBA再開の舞台となった『バブル』では、多くのチームがファンに強烈なインパクトを残したが、その際たるものがヒートだろう。東カンファレンス5位からスタートし、ハードワークを前面に押し出すスタイルでペイサーズ、バックス、セルティックスをねじ伏せた。NBAファイナルでは2勝4敗で敗れたものの、その健闘は素晴らしいものだった。

第6戦を終えて会見場に姿を見せたエリック・スポールストラは、しばらくの間、声を発することができなかった。ここまでの様々なシーンが浮かんでいたのだろう。何度か涙を拭き、気持ちを落ち着けてから、「まずはレイカーズの皆さんにおめでとうを言わせてほしい。レイカーズとファイナルで対戦できたのは素晴らしい経験だった」と言葉を絞り出した。

「望んでいた結果は得られなかったが、ここでの戦いは一生忘れられない思い出になる。選手にも先ほど同じことを言ったが、今シーズンに起きたこと、ロッカールームでの友情は一生覚えているものだ。彼らのような連中と一緒にいるためにこの仕事をしているようなものだ。何人かの選手はコンディションが万全にはほど遠く、プレーすべきでなかった者もいる。でも、選手たちはお互いのためにプレーしてくれた。壁を乗り越えられず、勝てなかったのは悔しい。しかし、レイカーズは優勝に相応しいチームだ」

そこから指揮官は、ヒートで活躍した中心選手たち一人ひとりを語っていった。まずはチームリーダーにしてエースのジミー・バトラーだ。

「我々は彼のような選手を長年探していた。彼も我々のようなチームを探していたのだと思う。試合に勝つのはもちろん大事だが、ロッカールームで起きたこともずっと忘れないだろう。ジミーのコーチを務めることができたこと、彼と一緒に働くことができたことに興奮しているし、これからも一緒に夢を追いかけたい。我々はいつかこの敗戦を乗り越えられるだろう。同じ価値観と目標を共有して、これからも仲間として前に進んでいきたい」

続いてゴラン・ドラギッチ。スポールストラにとっては最も長く一緒にいる選手だ。左足底筋膜の断裂でプレーできない状態が続いたが、最後のファイナル第6戦で強行出場。チームのためにすべてを投げ打つ覚悟でコートに立った。

「今夜、彼がプレーして得点したのは全くとんでもないことだ。彼はコートに立つべきではなかった。ケガをした第1戦の後、彼からメッセージが送られてきた。『あきらめないでほしい。チャンスをもらえるのなら何とかして復帰します』とね。朝の4時15分だった。次の日にトレーナーにこのことを話したら『あり得ない』と言われたよ。彼が復帰できるように3試合を戦った。彼の性格がよく表れている。実績のある選手だが、チームメートを助けたい一心でプレーしようとした。彼のような特別な選手をコーチし、長年関係を築いてこれたのは光栄だ。苦しい時期もあったが、チャンピオンに相応しいチームを作ろうと一緒にやってきたんだ」

そして、急成長を遂げたバム・アデバヨとタイラー・ヒーロー。アデバヨはレギュラーシーズンで、ヒーローはプレーオフで強烈なステップアップを見せ、ヒート躍進のエンジンとなった。

「我々は常に『今』を大事にする。バトラー、ドラギッチ、(ユドニス)ハズレムのリーダーシップのおかげで、若い選手たちが才能を開花させた。バムのようにこのチームのカルチャーに合った選手が出てきたのは幸運なことだ。賢くて競争心があり、バスケットボールに精通している。23歳になったばかりだが、このリーグで10年プレーした選手のように成熟していて、リーダーとしての役割まで引き受けてくれている。ヒーローは開幕した時はまだ10代だった。1月に20歳になったが、その時とは別人のように成長している。試合に対するアプローチ、練習に取り組む姿勢を見れば、今後さらに成功すると自信を持って言えるよ」

ヒートの意欲的な挑戦は終わった。何人かの選手はチームを離れるだろうが、残った選手がヒートのカルチャーを受け継ぎ、また新しく入る選手へと伝えていく。そのカルチャーがある限り、ヒートは何度でも蘇るに違いない。「我々は誇りを持ち、競争心が強く、互いを思いやることができるチーム。繋がりも非常に強い。負けると考えていた選手は誰一人いなかった」とスポールストラは言う。

「ここに来て、気持ちを落ち着けて話せるようになるまで時間がかかった。負けるとは予想していなかったからだ。皆さんの想像通り、選手たちはひどく落ち込んでいる。でも、この素晴らしいチームと一緒に戦うことができて良かった。彼らとの思い出は試合の勝敗よりも重要だ。負けたことは悔しいが、今回の思い出と経験を持ち帰って、今後のキャリアや人生に生かしたい」