開幕節の第2戦では勝利の立役者に
川崎ブレイブサンダースは開幕節で敵地に乗り込んでアルバルク東京と対戦した。2日のB1先だし開幕戦では序盤から主導権を握られ79-85で敗れたが、第2戦ではロースコアの激しい守り合いの末55-52で競り勝った。
このチーム初勝利に大きく貢献したのがパブロ・アギラールだ。第4クォーターの勝負どころでの3ポイントシュート成功やオフェンスリバウンドなどのビッグプレーを決め、12得点9リバウンド3アシスト3スティールと攻守に渡ってインパクトを与えた。
昨シーズンのアギラールは、シーズン後半戦に入ってから川崎に加入したが、新型コロナウィルスの感染拡大による途中打ち切りにより、わずか1試合の出場に留まった。実質的なBリーグデビューとなった今回の2試合を終えてこう語る。
「僕たちのパフォーマンスはOKという感じだった。テクニックの部分で改善点はいろいろとあるけど、それは良いサインとも言える。まだ、多くの伸び代があるという意味でね。2日目はあまりないロースコアゲームになったけど、コロナウィルスの影響によって長らくチームとして活動できず、試合から離れていた。それを考えれば、こういうことも起こり得る。そして最も重要なことは1勝できたこと。引き続きハードな練習をして、少しでも早くチームとして100%にならないといけない」
激闘を繰り広げたA東京には次のように賛辞を送る。「アルバルクは素晴らしいチームだ。外国籍選手が2人不在でも強かった。彼らは特にディフェンスで僕たちに対して素晴らしい仕事をした。チャンピオンシップに向けて大きなライバルになる。ただ、今考えるべきは相手のことではなく、自分たち自身のこと。毎日の練習でチームを成長させていくことだ」
「このリーグで自分の実力を証明したい」
アギラールといえばスペイン代表としてユーロバスケット(欧州選手権)に出場し、2013年に銅メダル、15年に金メダルを獲得と欧州バスケ界でも名の知れた選手。その彼が昨シーズン、川崎に加入した背景には故障で約1年に渡ってコートから離れていたことも影響していた。
しかし、彼はBリーグ打ち切りでスペインに帰国した後、今夏にコロナ禍による中断を経て再開したスペイン1部リーグでプレーし、短い期間だったが健在ぶりを見せつけた。「夏にスペインリーグでプレーしたことで、ブランクについての不安はなくなった。スペインからのオファーもあった」と語るように、このまま欧州トップリーグに留まることも可能だった。
しかし、彼は川崎への帰還を選んだ。それはアギラールのバスケットボール選手ではない、一人の人間としての信念に拠る。「多くのスペインの人々は、なんで僕が日本に戻ったのかは理解できないだろうね。『スペインでプレーできるのに、なんで日本に行くの?』と思っている人たちもいる。ただ、そこにはバスケットボール以外の要因がある」
「昨シーズン、川崎でプレーできたのは1試合のみだった。だから、このリーグで自分の実力を証明したい。川崎は昨シーズン、故障によりブランクがあった僕にチャンスをくれた。その恩に報いたいんだ」
「そして、コーチ、チームメート、ファン、クラブにかかわるみんなが本当に良くしてくれた。川崎での暮らしは短いものだったけど、とても快適だった。だから日本でシーズン最初から最後まで過ごしてみたいと思った。いろいろな要因はあるけど、ともかくチームに復帰でき、また一緒にチャンピオンシップを目指せるのはハッピーだ」
「川崎ファンの前で自分のプレー見せられることがうれしい」
開幕節でバスケットボールIQの高い巧みなプレーを披露したアギラールだが、それでも「バスケットボールのスタイルやリーグのシステムは、これまで僕が慣れ親しんでいたものと全く違う。そこに適応するにはまだ少し時間が必要となる」と本領発揮までには至っていないと言う。
また、同じく3番から5番まで複数のポジションをこなせるオールラウンダーのマティアス・カルファニとのコンビは、これまでの川崎にはない大きな武器と期待される。ウルグアイ出身で同じスペイン語圏のカルファニとは、コート内だけでなくコート外でも良き相棒となっている。
「マティアスとはコート外でもよく一緒に行動している。似たような文化で育っていて、共通点も多いと思う。時には気分が落ち込む時もあるだろう。そういう時に母国語で意思の疎通を図れる相手がいることは、お互いにとって助けになる」
「コート内でも彼と一緒にプレーすることでよりゲーム運びが簡単になる。スペイン語で僕らが話していることは、他の選手たちは何を言っているのか分からないかもしれない。相手に聞かれるとか気にせずに話すことができるのは僕たちの武器になるだろうね(笑)」
川崎は今週末、大阪エヴェッサを相手にホーム開幕戦を迎える。「昨シーズン、川崎と契約したニュースが発表された後、まだ僕がプレーしてもいないのにSNSを通して多くのファンが愛を示してくれたのは本当に感動した。それだけに彼らの前で自分のプレー見せられることがうれしい」と、初めてホームのファンの前でプレーできることをアギラールは何よりも心待ちにしている。
「これはバスケットボールのレベルではなく、気持ちの問題だ」とスペインではなく、川崎を選んだ決め手をアギラールは語る。その彼が、ホームのファンの前でどんな気持ちのこもったプレーを見せてくれるのか。本人だけではなく、多くの川崎ファンもその時を待ちきれない。