富山グラウジーズで選手兼アシスタントコーチを務めた2017-18シーズンを最後に現役引退してから2年、宮永雄太はヘッドコーチとしてBリーグに帰って来た。『レジェンド』折茂武彦が引退してレバンガ北海道が変革の時を迎えたタイミングで、新たなヘッドコーチに就任。指導者としての意欲、開幕へ向けたワクワク感を語ってもらった。
「現役時代に所属した半年間が今回の就任に繋がった」
――もともと現役引退後に指導者になりたいという気持ちはいつから持っていたのですか?
現役時代に千葉ジェッツに在籍していた、32歳ぐらいの時からです。レジー・ゲーリーというアメリカ人のコーチの下でプレーしたことがきっかけになりました。彼は現役時代はスパーズでプレーしていて、スパーズのバスケやNBAのいろいろなシステムの話をしていた時に、なぜか急に「お前はコーチに向いているよ」とボソッと言われたんです。その時から、「自分にもチャンスがあるのかもしれない」と少しずつ意識するようになりました。
──ヘッドコーチの仕事は好き嫌いがはっきりしていますよね。学生時代から「いずれはコーチに」と思っている人もいれば「絶対にやりたくない」という人もいます。ゲーリーコーチと出会うまでは、指導者には興味はありませんでしたか?
それまでは「なんて嫌われる職業なんだ」と思っていました(笑)。選手からもそうですし、時にはファンからも嫌われる、難しい仕事だという印象です。でも、いろんなコーチと出会って年齢を重ねる中で、自分が経験したこと、思い描いていることを伝えれば若い選手にプラスに働くんじゃないかと思うようになって、そういう心境の変化はありました。現役を終える何年か前からはその準備をしようと大学院に通って見聞を広めたり、富山で選手兼コーチをやらせていただいたりしました。
──試合で指揮を執ってチームを勝たせる勝負師の部分、日頃の練習で選手たちを成長させる部分。どちらに魅力を感じますか?
両方ですね。今はヘッドコーチ1年目なのでチーム作りは徹底してやっていかなければいけないですし、もともとポイントガードだったので試合の流れは他の方とは違う目線で見れているとも思います。
──アシスタントコーチを兼任した富山では、選手とコーチを50%ずつではなく、どちらも100%でやるので大変だと話していました。その後はWリーグの富士通レッドウェーブでアシスタントコーチを経験しましたが、『修業』の何が一番大変でしたか?
時間が足りないことですね。選手兼任でやっていた時はもちろんですが、富士通で経験を積ませていただいた時も、女子の練習はとにかく長かったので。毎日が3部練で、朝昼晩の練習の準備がありました。また男子と女子では性格が違いますし、高卒の選手が多いので、そういう若い選手たちへのアプローチを学ぶ大変さもありました。でも、そのおかげでより細かく選手を見れるようになったと思いますし、単に「これができないから、あれをやらせる」ではなくて、「このタイミングでできなかったのだから、練習のどのタイミングでアプローチすれば伸びるのか」みたいな部分が少しは見えるようになったと感じています。
──札幌出身ですが、高校卒業とともに札幌を離れて、その後は現役時代に半年間レバンガに所属した以外は接点がなかったと思います。今回、どういう縁でオファーが来たのですか?
レバンガでプレーしていた半年の間に、折茂代表であったり横田(陽)代表といろいろ話す時間がありました。その流れがあって、あらためて折茂代表とお会いする機会があり、自分の理想とするコーチ像を話し、レバンガ北海道がこれからどんなチームになっていきたいかという話を聞いていく中で、自分がヘッドコーチとしてチャレンジしたいという思いがとても強くなりました。
現役で所属していた時に折茂さんは「いずれは宮永に」とは思っていなかったでしょうね。それでも、あの時にかかわったことが大きかったです。それまでは挨拶だけだったのが、半年の間にいろんな話をするようになって、今回の就任に繋がったと思います。
「これがレバンガ、と分かるチーム作りをしたい」
──外から見ていた時のレバンガ北海道のイメージはどんなものでしたか?
一番の強みは日本人選手と外国籍選手の調和が取れていることだとずっと感じていました。ですが、昨シーズンはその調和が崩れてしまい、タレントが多いながら思うような結果が出せなかった印象です。今年10周年を迎えるレバンガ北海道はどんなチームであるべきだろうと折茂代表や横田代表と話していく中で、1試合を見ただけで「これがレバンガだよね」と分かるチーム作りをしたいと3人の意見が合致しました。本来あった調和を取り戻すとともに、私のカラーであるディフェンスを徹底させるところから、新しいレバンガ北海道のスタイルを作っていきたいです。
──Bリーグになってからの4シーズンで勝率が5割を超えたことがありません。以前と比べて経営は安定したとはいえ、選手獲得に大盤振る舞いはできないし、東地区にいる以上は一歩間違うと降格の可能性もあります。引き受けるのに躊躇しませんでしたか?
オファーをいただいた時点で迷うことなく「是非やらせてください」という思いでした。私は「チャンスがあれば飛び込め」という性格で、結果は皆さんに判断していただくだけだと思っています。私自身は自分がモットーとする部分をブレないようにやるだけで、それが選手とクラブにとって最善の選択になると思っています。
──就任会見では40分間ハードなディフェンスをして、モーションオフェンスに繋ぐというスタイルを語っていました。あれからチーム作りが進んで、より具体的になっていると思います。新生レバンガがどんなバスケをするのか教えてください。
先ほどもおっしゃったように強豪が揃う東地区で、大金が潤っているチームでもないので、チャレンジャー精神が必要ですし、選手に火をつけなければいけないと思っています。このメンバーで東地区でどう勝つかと考えた時に、どこかでアドバンテージを取らないといけない、レバンガとしての強みを作らないといけないと考えました。
それが40分間のフルコートプレッシャーディフェンスであり、外国籍選手もそれができる選手をリストアップしました。まず、そのディフェンスの部分でアドバンテージを取ります。オフェンスの部分で言うとジョーダン・テイラーを獲得したように、ポイントガード陣です。東地区は特にポイントガードのところがかなり熾烈な争いになりますが、そこで大きなアドバンテージを最初から持とうと考えています。
──特にジョーダン・テイラーはスコアラーではなく純粋なポイントガードですか? フォワードの外国籍選手を取るクラブは増えていますが、ビッグマンが手薄になってもポイントガードの外国籍選手を使うケースは稀です。
純粋なポイントガードですし、ポイントガードとして起用するつもりです。東地区で勝つことを考えた時に、インサイドに強力な外国籍選手を何人か置けば試合は安定するかもしれませんが、果たしてそれで勝てるのか。ファーストインパクトからアドバンテージを取って相手が嫌がることをどんどん仕掛けて行こうという考えでポイントガードを補強しました。
オフェンスのアドバンテージはここで取り、ディフェンスのアドバンテージは全員が激しく行くことで取ります。プレシーズンではほぼすべての選手が同じようなプレータイムで4試合やっています。選手は本当に大変だと思いますが、そこは徹底していきます。
「インサイドにボールを預けるバスケをするつもりはない」
──ディフェンスで「ウチはソフトにやる」というチームは存在せず、どのチームも「激しくやります」と言いますよね。ただ選手が走っていればプレッシャーディフェンスが機能するわけではないと思いますが、どこにポイントがありますか?
ディフェンスで気を付けているのは、ファーストコンタクトを先に取ることです。相手のプレーに対して受け身になるのではなく、相手のプレーが起きる前にこちらから仕掛けてコンタクトを取り、コントロールするところから始めています。今だと秋田やSR渋谷に激しいディフェンスのイメージがあると思いますが、それ以上のディフェンスを見せるつもりで準備しています。
──開幕まであと1週間ですが、ここまでの手応えはいかがですか?
プレシーズンの4試合で25個近いターンオーバーを相手に起こさせることができているので、ディフェンスの成果は出ています。持たれる前からのプレッシャーを大前提にしているので、相手に5秒バイオレーションとか8秒バイオレーションが出た時には「これがレバンガの守備か」と思ってもらいたいです。オフェンスはまだテイラーが合流できていないのが大きいですが、まだ連携の部分を含めて細かいところは理想とは遠いので、もう少し時間がかかると思います。
いずれにしても、40分間激しいディフェンスをして、全員でボールをシェアして連動しながらオフェンスを展開していくという目標がある中で、それをシーズンを通して徹底できるかどうか。細かいチームルールもありますが、どれだけ徹底できるかのメンタルが一番重要になります。
──オフェンスはテイラー選手の合流を待つ必要がありますが、ロスターを見てインサイドの外国籍がジャワッド・ウィリアムズ選手、ニック・メイヨ選手だけで大丈夫かなと正直思っていたのですが、テイラー選手のところでアドバンテージが取れれば、走ることができて外のシュートもあるこの2人がむしろ強みになるわけですね。
そうですね。インサイドにボールを預けて何とかしてもらう、というバスケをするつもりは一切ありません。テイラーはBリーグの他のポイントガードを圧倒すると思います。そこからどんなプレーへと繋げていくのか。今までの他のチームとは全く違うバスケをするつもりですし、ファンの皆さんにインパクトを与えられるものにしたいと思っています。
──それではレバンガのファンの皆さんと、またファンでなくてもレバンガの新しいスタイルに注目している人たちへのメッセージをお願いします。
折茂代表が抜けて、選手も半分が入れ替わって若手が増えたことで注目されていると感じます。自分たちがモットーにしている40分間の激しいディフェンスをまずは見ていただきたいですし、1試合見れば「これがレバンガ北海道か」とすぐに分かっていただけるようなチームへと1年をかけて変わっていきたいと思うので、ぜひ注目してください。応援よろしくお願いします。