文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一、FIBA.com

リバウンドとディフェンス、ルーズボール

シェーファー・アヴィ幸樹は今日と日曜の韓国戦に臨む日本代表に名を連ねた。八村塁ばかりに注目が集まるが、同じ20歳のシェーファーもまた、Bリーグで活躍する代表候補を押しのけてAKATSUKI FIVEでのアピールを続ける『日本のライジングスター』だ。

「ジョーンズカップの代表合宿の時から心の準備はできていたんですけど、あらためて呼ばれてうれしいです。自分のやれることはリバウンドとディフェンスで頑張るところ。それとルーズボールでハッスルしてチームに貢献したいです」

ジョージア工科大学に進む前の昨年夏、シェーファーは代表候補リストに名前が載っていなかったが、練習相手のビッグマンとして強化合宿に参加していた。その時に「代表選手と思い切りマッチアップできるのはすごく良い経験で、楽しくてたまらないです」と話していた。

それから約1年、アメリカで経験を積んで一回り大きくなったシェーファーは、今度は正式な代表候補としてAKATSUKI FIVEに戻ってきた。「向こうでは身体能力の高い選手ばかりで当たりも強いし、それがスタンダートになりました。なのでこっちに来れば当たり負けはそんなにしないし、試合中のコンタクトの意識も自然と身に着きました」

身長205cmは変わらないが、昨夏のU-19ワールドカップの時には94kgとプロフィールに記載されていた体重は107kgへと大幅アップ。肩から背中にかけての筋肉は明らかに大きくなっている。「この1年で10kg以上増えているので、パワーではそう負けないですね」と笑う。

今回の強化合宿も、また彼を成長させる良い経験となっている。「練習でニックだとか塁だとかアツさんだとか譲次さんだとか、みんな違うタイプのビッグマンとマッチアップするので、そこはやっぱり自分の技術の向上になります。アメリカでも変わった選手がたくさんいたので、そういう面ですごく良い経験ができています」

「どんどん塁に近づいて追い越してやるぞ」の精神

高校1年の夏までサッカーをやっていたシェーファーは、関西から東京に引っ越したのを機にバスケットボールに転向。八村もバスケを始めたのは中学からだが、それよりさらに遅い。そこからの成長物語はまるでマンガだ。昨夏の時点でシェーファーは自分の歩みをこう語っている。「やっぱり始めたのが遅いので、いつもチームで一番下手ぐらいのところにいました。でも必死に食らいついているとそのうち『なんか慣れてきたぞ』って。いつも練習についていくのもギリギリ、身体能力の差も感じますけど、そのたびにそれをスタンダードにしてきました」

バスケを始めて1年でトップエンデバー(年代別の選手育成キャンプ)に招集され、そこで盟友となる八村と初めて一緒にプレーした。「身体能力も圧倒的だし、うまいし、衝撃でした。当時の僕はまだバスケを始めて1年ぐらいで、素人同然だから当たり前ですけど全く歯が立たずにボッコボコにされたのを覚えています(笑)」。それでもシェーファーはその八村に食らいつき、U-19ワールドカップではチームメートに。エースとして攻守に奮闘し、どの試合でも出ずっぱりで疲弊する八村を、同じインサイドで身体を張って助けたのがシェーファーだった。

そして今も、NCAAで活躍する八村の成長ぶりに驚嘆しながらも、彼もまた遅れずに食らいついている。「U-19で塁と一緒にやって、やっぱりそのすごさは隣で感じていました。お互いにアメリカに行って、僕はそんなに活躍できていないですけど塁が頑張っているのを見ると『もっとやらなきゃ』と思います」

ただ、ここからがシェーファーの真骨頂だ。「ちょっと差はあるけど、負けてるわけじゃないので。これからどんどん塁に近づいて追い越してやるぞ、ぐらいの気持ちでやっています」

日本の『希望』である八村に対しても、シェーファーは気後れしていない。相手のすごさを認めつつも「負けてない」、「追い越してやる」と燃える。日本代表の先輩ビッグマンに対してもそれは同じで「そんなに力の差があるとは感じません。それぞれ個人の特徴はあるので、どこかで劣っていても僕のほうが身体が強かったりするので。練習の中でアピールする分には差はそれほどなくて、そのレベルには達していると自分では思っています」

「初めからネガティブにやったら意味がない」

レベルの高い環境に身を置いて、慣れて、追い越していく。バスケ初心者だった彼はそんな成功体験を積み重ねて、現在は日本のバスケ選手のトップ15人に入っている。ここから先、公式戦の登録枠12人に残るにはニック・ファジーカスや竹内譲次、太田敦也といったトップ選手を蹴落として自分の居場所を確保しなければならないが、「負けるつもりはないです」とシェーファーは平然と言ってのける。

「自信があるとかそういうのじゃなくて、最後まで残るって意欲を持ってやらないと残れないので。初めからネガティブにやったら意味がないです。もし実力に差があっても残ってやる、そういう気持ちでやらないとダメだと思っているんです」

竹内兄弟と太田は日本代表のインサイドを10年以上に渡り支え続けているが、彼らを追い越す存在が出てこなかったのは、偉大な存在を前に「追い越してやる」と本気で思えなかったからかもしれない。シェーファーはバスケを始めた時から高いレベルに挑戦し続け、そこにアジャストし続けることで急成長を繰り返してきた。その成功体験が日本代表でも彼を支えている。

「周りのほうがうまい、という状況で僕はずっとやってきました。なので、その中で自分のやれることをとにかくやるしかなかったんです。自分が劣っているかもしれないと思うことがあっても、『いや、そんなことはない』と言い聞かせて貪欲に頑張る。その姿勢はバスケをやっている中で自然と身に着いた感じですね」

シェーファーはここでもう一段階のステップアップを果たすことができるか。八村のみならず、「これからどんどん塁に近づいて追い越してやる」というシェーファーの挑戦にも注目だ。