Bリーグ連覇、さらに昨シーズンも最高勝率を記録したアルバルク東京において、欠かせない存在となっているのが菊地祥平だ。昨シーズンは3.8得点、2.5リバウンド、2.3アシストとスタッツに特筆すべきものはない。しかし、過去2シーズンはすべての試合で先発を任され、ヘッドコーチのルカ・パヴィチェヴィッチを始めチーム内の信頼は厚い。どのチームよりも激しく、そして賢く戦うスタイルを磨き上げることにプライドを持つ菊地は、決して派手ではないが王者A東京を象徴する存在となっている。
チーム内のコロナ感染に衝撃も「開幕前に経験できた」
──まずはチーム内から新型コロナウイルスの感染者が出たことについて聞かせてください。万全の対策をしていたはずが、それでも感染してしまったことには驚いたと思います。練習がストップしたことの影響もありますよね。
正直な話として、3人とも無症状で一緒に練習していたので、「こんなに元気でもかかっちゃうのか」とまずは驚きました。体調管理を毎日しっかりやって、検温の記録を提出して、不要不急の外出は避けて、みんな自宅と体育館を行き来するだけの生活だったんです。PCR検査は定期的にやっていて、2度目で3名が陽性になりました。結果が出るのは検査の翌日で、それまではいつも通りの練習をしていたので、僕たちも濃厚接触者かどうか保健所の判断を待つということで、その日から自宅待機になりました。
3週間練習をして身体が仕上がってきたところでゼロに戻ったので、精神的につらかったですね。でもコロナになった3人はもっとキツかったと思います。大丈夫かと心配して3人に連絡を取ると、「無症状なので元気です」という返事とともに「すいませんでした」と返ってきて。もちろん誰を責めるわけでもないんですし、彼らが悪いわけじゃないから「溜まった疲労を気持ち良く取ることを考えよう、切り替えよう」と伝えました。
コロナは出ないのが一番良いですけど、もしシーズン中に出てしまった場合にどのように向き合えばいいのか、その事前練習じゃないですけど、最悪のケースを開幕前に経験できたのは良かったとプラスにとらえています。
──シーズンが始まっても、最大限の注意をしているにもかかわらず感染者が出てしまう可能性はありますね。
そうですね。自分たちのチームや関係者だけでなく、対戦相手に感染者や濃厚接触者を出してしまうことになります。それを考えると精神面で本当に厳しいシーズンになるんじゃないかと思います。バスケットだけに集中できれば一番良いんですけど、コロナ対策にも同じぐらい注意しなきゃいけないと感じます。仕方ないですが、バスケットのことだけに集中できるシーズンが良かったな、と思ってしまいますよね。
──菊地選手自身も濃厚接触者になりました。その間はどのように過ごしましたか?
妻には負担を掛けてしまいましたが、スーパーやコンビニなどちょっとした買い物もすべてお願いして、僕は家から一歩も出ませんでした。知られている面もありますし、「濃厚接触者なのに出歩いている」と不快感を持たれてはいけないので、2週間は庭にも出なかったですね。辛かったですけど、「仕方ないや」ぐらいに考えて過ごしました。
それでも、8月29日から全員で練習を再開しています。ブレイクが入った分、仕上げを急がないといけません。そこはルカ(パヴィチェヴィッチ)もスタッフ陣も理解してくれていて、身体も精神もギリギリのところまで追い込んでくれるので(笑)。そういった意味で僕たちは彼らの求めるパフォーマンスを出すために、開幕に向けてできるだけ上げていく状況です。
「他の選手がよりプレーしやすいように」を意識
──昨シーズン限りでの現役引退を決めた正中岳城選手とは年齢も同じで、長く一緒にプレーしました。正中さんが引退したことで「自分も」と考える部分はありますか。それともまだまだ引退は全く意識しませんか?
シーズンが終わるたびに「来年もまたやりたい」と思います。ルカが来て最初のシーズンに僕個人として初優勝ができて、その次のシーズンには連覇ができました。常に優勝を狙える、そして優勝しなきゃいけないチームにいるからには、1年でも長くやりたいです。Bリーグが今後長く続いていく中で、今のアルバルクは絶対に語り継がれるものになります。その一員であることを1年でも長く続けたいですね。だから引退について考えるというより、僕自身が「来年もまたやりたい」と思い、それに対してチームがどう判断するか。仕事場を持たせてくれるのであれば僕は喜んでやりますし、逆に必要とされなければ自ずとそうなります。
──先月に36歳になりました。年齢的には大ベテランの域ですが、ベテランの仕事に徹しようみたいな意識はありますか?
年齢も年齢ですから、若手と同じ土俵に立ってしまうと肉体的な部分は必ず落ちるので、別のところを意識するようにはしています。若手がやらないような仕事をあえて選ぶ、そこを評価してもらっていると僕自身も感じています。練習が終わるとルカはただの良いおじさんで、そういう時にいろんな話をする中で、ささっと僕の役割を明確にする言葉を言ってくれることもあります。
簡単に言うとボールに絡んでいないところでのプレーです。ウチはタレントも豊富で、上手い選手も多いし身体能力がずば抜けている選手も多いです。ボールを持って何かができるかの順で日本人選手を上から並べたら、その多くがウチの選手ですよ。そういう状況で僕がボールを持っていないところでの仕事ぶり、ベテランらしい嫌らしさを出すことで、他の選手がよりプレーしやすいようにする、ということはすごく考えますね。
──ベテランの年齢になれば自然とそう切り替わるわけではないと思います。何かきっかけはありましたか?
当時の東芝ブレイブサンダースからトヨタ自動車に移籍した時に、よりチームに貢献するには何をすべきか考えたことですね。(ドナルド)ベックが各選手の役割を明確に示してくれるコーチだったので、そこで自分の役割を再認識できたのが大きいと思います。この年齢になって今も劇的に成長しているとは思いませんが、今の自分をより高める、今のプレーを磨き上げることが必要だと考えています。新しい何かを得るというより、今のチームで求められている役割の中で、ルカが求める100%にどう近づけていくかですね。
──ルカ体制は4年目となります。『変化なくして成長なし』とよく言うように、同じコーチが長すぎるとチームとしての成長も鈍ってしまうのではないかとの懸念があります。菊地選手自身はチームの成長について、そんな思いはありませんか?
連覇して、昨シーズンも最高勝率でしたけど、僕からするとまだまだですよ。ルカが思い描くバスケをスタートの5人が100%、ベンチから出る選手が100%で体現できているかと言ったら、まだまだです。今も練習では怒られてばかりですし、自分も100%でやれている自信はありません。もちろん相手は僕たちのバスケに対策してくるので、その対応は必要になりますが、だからといってガラッと変える必要はなく、まだまだルカのバスケットを磨き上げていくべきだと思います。
「責任を感じますし、妥協したくもないです」
──勝ち続ける中で、スタメンは馬場雄大選手が海外挑戦したぐらいで変わりませんが、ベンチを見ると若手が多くなりました。ベテランとして彼ら若い選手には言葉で伝えるのか行動で示すのか、どんなことを意識していますか?
難しいですけど、半々ぐらいですかね。年齢に関係なく練習中は負けたくない気持ちを持っていますし、交代で休んでいる時には彼らのプレーを見て、何か言えることはないかと探すようにはしています。気にせず指摘できるのも今の僕のポジションですし、試合だけじゃなく日頃の練習からチームにプラスになれることはやっているつもりです。
──以前、須田侑太郎選手にA東京の強さの秘訣を聞いた際、「ベテランが与える影響が大きい」と答えてくれました。練習からベテランが追い込む姿が刺激になるという話で、菊地選手の名前も出ました。
それはうれしいですね。やっぱり昔は若手がガンガン練習して、ベテランはそんなに練習しない感じがありました。でも今の時代はそうはいかないと僕は思っていて、ベテランだろうが若手だろうがギリギリのところまで追い詰めています。日頃の練習から若手が「あの人たちがこれだけやるなら、俺たちもやらなきゃ」という感覚を持てるようにしたいと僕は意識していたので、須田の言葉はうれしいです。
──チームへの貢献を第一に考える菊地選手ですが、新シーズンの個人的な目標はどこに置きますか?
個人的な目標かあ……。考えたことなかったですね。まずはチームが優勝を目指しているので、必然的に僕もそうなります。もうちょっと若かったらいろいろ出てくるんでしょうすけど、全く出てこない……(笑)。でも、今シーズンはフォワードの外国籍選手が増えると思います。これまでは得点力のある日本人選手につくことが多かったですけど、外国籍選手のウイングにやられないパフォーマンスを見せたいですね。
──帰化選手も増えて、3番ポジションや4番ポジションでは日本人選手の苦戦が予想されます。A東京は取ろうと思えば帰化選手を獲得することもできるはずですが、ずっと帰化選手を取りません。そこは同じくベテランの竹内譲次選手への信頼ですね。
もちろん今のレギュレーションにおいては帰化選手の強みは大きいですが、無理に帰化選手を入れてルカのバスケをイチからやるのもリスクは高いですよね。ルカは4番の選手をすごく重視していて、そこで譲次の頭の良さやパフォーマンスを評価しています。またケビン・ジョーンズのように動けて4番と5番ができる選手を取ってくる。そのルカの考え方はすごく納得できます。
──それでは最後に、開幕を楽しみに待つファンの皆さんへのメッセージをお願いします。
今シーズンも素晴らしい選手とスタッフ、そしてルカという存在がいて、そこで試合に出させてもらっていることに責任を感じますし、妥協したくもないです。試合会場にどれだけの人に来ていただけるか分からない状況ですが、皆さんはテレビやパソコンで見ます、応援しますと言ってくれるので、しっかり応援してもらっていることを感じて、会場にいないファンの方のためにも僕たちがアルバルクのバスケをしっかりやりますし、元気や勇気を与えなきゃいけないと思っています。昨シーズン以上に頑張りますので、会場に来られる方もそうでない方も、応援よろしくお願いします。