新型コロナウイルスの感染拡大はバスケ界にも大きな影響を及ぼした。女子のWリーグはシーズン後半戦が行われず、オリンピックも延期に。トヨタ自動車アンテロープスの山本麻衣は、それでも9月18日からのWリーグ開幕に向けて、また来夏のオリンピックに向けて、自身のレベルアップに励んできた。今はシュートフォームをツーハンドからワンハンドに変えて、ひたすらシューティングを重ねる日々。3×3日本代表として世界の選手と戦った経験が、山本の『負けず嫌い』を刺激した。難しいのは承知の上で、山本は『なりたい自分』へと一歩ずつ進んでいる。
ワンハンドは「プレーの幅の部分でメリットが大きい」
──Wリーグの開幕が近づいてきました。今はもう新型コロナウイルスの影響はなく練習できていますか?
7月からチーム練習がすべてできるようになったので、影響はあまりありません。コンディションも結構良いので、開幕に向けた準備はできています。
──アンテロープスでも3×3の日本代表でも、長く試合から離れました。その間にどんな取り組みをしたのかを教えてください。
やっぱり対人をしていないのでバスケの感覚がなくなっていて、チーム練習が始まった時はちょっと鈍っていると感じました。ですが練習できない間に食事面などを見直していた分、コンディションが落ちたということはなくて、逆にちょっと良くなっている感じです。
イチさん(池田智美、トヨタ紡織でプレーし2018年に現役引退)が食育に取り組んでいて、Zoomで食育についていろんな知識を教えてもらい、たんぱく質の量であったり、食事をとるタイミングを意識するようになりました。それで体脂肪が落ちて、自分の感覚として身体が軽くなった感じがあります。コロナの中でもパワーアップできたと思います。
──もう一つ、コロナの時期に取り組んでいるのがワンハンドシュートだと聞きました。もともとずっとツーハンドですか?
ミニバスではワンハンドだったんです。でも中学に上がる時に、リングが高くなって届かなくなり、結果もすぐ求められるということでツーハンドになりました。それからは昨シーズンまでずっとツーハンドです。きっかけは3×3で海外の選手と対戦するとワンハンドの選手ばかりで、見ているとカッコ良いだけじゃなくプレーの幅の部分でメリットが大きいと思ったからです。
これまではツーハンドなりに、ツーハンドでもできるステップバックなどをやっていましたが、海外の選手と対戦すると限界があると感じて、それからワンハンドに変えることを考え始めました。Wリーグのシーズンが途中で終わって、オリンピックも1年延期になったことで「ちょうど良いタイミングだ」と思い、アシスタントコーチの大神(雄子)さんに相談したんです。私はまだ若いし、これからまだまだレベルを上げていかなきゃいけないので、チャレンジすることに決めました。
「ブロックされずに打てる感覚が得られています」
──世界基準はワンハンドですが、日本の女子ではツーハンドが長く主流ですよね。それはやっぱりシュートフォームを完全に変えて、自分のモノにするのが難しいからだと思いますが、どのように進めていますか?
コロナで体育館を使える人数も制限されていて、大神さんにも見てもらえなかった最初の頃は、動画を毎回送ってチェックしてもらい、また自分で見直して研究していました。今は大神さんに毎朝シュートをチェックしてもらっています。何本決めるまでとかではなく、自分の感覚を確かめる感じで打っています。だから本数は気にしていないのですが、練習前に30分、練習後に30分から45分ぐらい毎日打っています。シューティングの最初にシュートフォームを確認して指先の感覚を慣らして、その後はもう打ち込むだけですね。いろんな場面で打てるようにと意識しながら身体を慣らしています。
──シュートフォームを変えて難しいところはどこですか。また良くなったところはどこですか?
苦労したのは身体の使い方の違いですね。まず身体に沁み込ませないといけないんですが、まだ途中です。でも楽に打てるのはすごく感じています。ワンモーションでズレができたらすぐ打てる感覚です。ツーハンドだと身体を止めなきゃいけないところがワンハンドならその半分で済むので、そのモーションを縮められることで打てる場面が増えていると思います。
今はリリースのポイントを意識していて、セットして打つのでは遅くなって意味がないから、リリースの位置だけは同じにすることに取り組んでいます。それができればどんな場面でもシュートが打てるようになるはずです。
──シュートフォームで誰かを意識するとか、理想とするイメージはありますか?
大神さんが言っているのはステフィン・カリーのシュートフォームですね。あのイメージでワンモーションで打てれば。
──では、Wリーグの開幕からワンハンドでシュートがバンバン決まると期待していいですか?
それがまだ全然ダメで、完成にはほど遠いですね(笑)。4月から始めたのですが、これまでツーハンドで打っていたパーセンテージには達していません。そんなに簡単じゃないですね。でも、自分の中の感覚としては良いんです。シュートは入っていないのですが、練習中に打てるタイミングを探している中で、ブロックされずに打てる感覚が得られています。そのタイミングを探りながら、あとはどんどん打ち込んで慣れて入れていくしかないです。
確率は上げていかなきゃいけないですが、半身でプレーできることで、プレーの幅が大きく広がるのがワンハンドの良いところです。その身体の使い方が一番違いますね。ツーハンドだと1、2のタイミングでボールを正面に持って打ちますが、ワンハンドだとそのまま打てる速さがあります。ドリブルからのプルアップもやっぱり早いし、ステップバックにしても身体の向きが影響するのでワンハンドだとプレーの幅が広がります。
──中学からここまでワンハンドにしようと思ったことはありませんでしたか?
母もワンハンドが良いと言っていたのですが、ちゃんと教えられる人がいるかどうかもあります。母はワンハンドを教えられなかったので。教えられる環境があればワンハンドをやっておいたほうが良いと思います。桜花学園では大きな選手はみんなワンハンドにしろと先生に言われて、みんな変えていましたが、ガードはツーハンドのままでした。Wリーグでもセンターとフォワードはワンハンドで打つ選手がいますが、ガードではあまり見ないです。結果が求められるので、正確に決めることを優先していますね。
「とりあえずは3×3で結果を残したいと思っています」
──1年延期になったオリンピックへの思いはいかがですか?
1年延期になってワンハンドに変えることができたので、内心ちょっとラッキーだというのはあります。この期間でスキルアップできるし、チームとしても3×3の日本代表は強化を始めたばかりだったので、準備する時間ができました。シュート力は3×3では重要だし、小さいけどディフェンスをタフにやれるのを強みにしてオリンピックを戦いたいと思っています。
──体格では不利ですが、ディフェンスでタフに行けるのは気持ちの強さがあってこそですね。チームメートは仲間でありライバルだと思いますが、山本選手はチームメートから刺激をもらったりしますか?
みんな負け嫌いですね。人それぞれの感覚があって、「やらせとけば良いよ」と言う人が実はすごく負け嫌いだったりして。チームメートに刺激をもらうことも多いんですけど、(馬瓜)ステファニーさんにはかなり刺激をもらっています。「ウエイトは好きじゃない」とか「やりたくない」とか普段言ってるんですけど、結局はオンとオフがしっかりしていて、やるからにはやる。そこはすごいといつも思います。
──5人制の代表のポイントガードは、吉田亜沙美選手と藤岡麻菜美選手が抜けました。そちらに入りたいとは思いませんか?
入りたいというか、とりあえずは3×3で結果を残したいと思っています。私は2018年と2019年にU23ワールドカップに出場させてもらって、U23なので他の代表チームのメンバーがあまり変わっていないんですけど、1年で人が変わったんじゃないかと思うぐらいにスキルアップしている選手がたくさんいました。それを見て焦りを感じたわけじゃないですけど、海外の選手の成長はすごいと感じたので。
──間もなくシーズンが始まりますが、『女王』ENEOSサンフラワーズは意識しますか?
優勝を目指す上では一番のライバルですけど、意識しすぎずに一戦一戦を大事にしていこうとヘッドコーチも言っているので、私もその通りにやっていきます。
──シーズンが始まってワンハンドでシュートが決まらなかったら悩むのでは?
でも私はまだやり始めたばかりなので、今シーズンはシュートの確率が上がらなかったとしても、このままワンハンドをしっかり磨き上げたいと思います。将来なりたい自分をイメージして、コツコツやるしかないので。不安を抱えてやるんじゃなく思い切ってプレーして、シュートだけじゃなくドライブなどの武器もあるので、そこでチームを勢い付けたいです。後輩の平下愛佳も入ったので、若い力でアンテロープスを盛り上げていきたいです。
ファンの皆さんもコロナで落ち込んだりすることもあると思いますが、自分たちのプレーで勇気を与えられたらと思います。私は自分自身が楽しんでプレーすることを今シーズンの目標にしているので、皆さんも私のプレーを見て一緒に楽しんでください。
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