辻直人は、ニック・ファジーカスとともにBリーグの強豪である川崎ブレイブサンダースを引っ張ってきた。しかし昨シーズンは主要スタッツのほとんどを落とし、キャリアワーストとも言えるシーズンを過ごした。自身の不調を尻目に開幕から勝ち星を積み重ねたチームとのギャップに苦しんでもいた。だが、今の彼は苦悩を乗り越え、自信を取り戻しつつある。「シュートフォームを変えた」というのも、新しい挑戦に前向きに取り組めている証拠だろう。モチベーションとともに笑顔を取り戻した辻は、新たな決意を胸に新シーズンへ臨む。
久しぶりの代表戦「多分みんなより緊張していた」
──コロナの影響は少なからずありますが、練習も始まり以前の日常が戻ってきましたね。
そうですね、体育館が使えなかった時は非日常で、自宅でバイクをこいでいました。ようやく今まで通りという感じですね。
──YouTubeや他のメディアに出演するなど、忙しいオフを過ごしていたと思います。
いつもより忙しかったかもしれないですね。シーズン前はクラブの方針だったりいろいろやることがあるんですけど、コロナの影響で変わりつつあります。どういったことができるかという中で選手個々の稼働は多くなってきていると思います。
──忙しい中でも常に楽しんでいる姿が印象的です。
用意スタートでスイッチが入るんです(笑)。僕にできることはみんなを笑顔にすることかなと思うので。ネガティブなこともあまりないですね。身近に飲食店をやっている人もいるので大変だってことを聞きますけど、そういう人たちがパワーを持ってやっていたりするので、逆にパワーをもらったり。体育館が使えなかったり、試合がどうなるかの不安はありましたけど、考えてもどうしようもないことですから。今は自分のパフォーマンスをいかに試合で発揮できるかにフォーカスできているので、それがネガティブにならない要因かなとは思います。
──『BASKETBALL ACTION 2020』にも出場しましたが、あらためて人前でプレーした感想はいかがですか?
これがスタンダードになってくるとは思うんですけど、今までとは違う空間でバスケットをさせてもらって一発目としては不思議な感覚でした。NBAもこういう形でプレーオフをやってるんだなと。その中で画面を通じて見てもらっているという緊張感はもちろんあって、練習とは違う緊張感があって楽しめました。
──ケガの影響でワールドカップに出場できなかったこともあり、久しぶりの試合が代表戦ということで特別な思いもあったのではないでしょうか?
そうですね、代表の日の丸をつける責任感があって、川崎でプレーするのとはまた違った緊張感があって、多分みんなより緊張していたと思います。自分の中で自信を取り戻している実感があるので、それがあのコートで出せたことは良かったです。
「何もできずに劣等感みたいなものは感じていました」
──「自信を取り戻す」という言葉が出ました。昨シーズンは主要スタッツのほとんどを落としましたが、そうなった原因はどこにあるのでしょうか?
今までだったらオフシーズンに代表の国際試合を経験したり合宿だったり、レベルの高いところでバスケができていたんですけど、去年はリハビリにフォーカスしていました。バスケをし始めたのが9月で、開幕3週間前にようやくみんなの練習に参加しました。痛みを抱えて、違和感を感じながらやっていたのが一番の原因かなと思います。再発しないようにと思いながら、ディスアドバンテージを背負っている感覚でバスケしていたので、思い切りの良いバスケが全然できませんでした。
ただ淡々と試合を全力でやって、何かをやろうという余裕もなく、それでステップアップするわけでもなく、試合を楽しむこともできなかったと思います。過去にも腰をケガしたり、痛さはあるけど感覚的には自信を失うほどのものでもなかったです。大きな手術をしたのが初めてで、長期間休んだこともなかったので、そこでの違いですかね。
──自身のパフォーマンスが上がらない中、チームは好調でした。そのギャップに苦しむことはなかったですか?
やっぱりありましたよ。今までチームを背負ってきたというか、引っ張らないといけないポジションだと思っていたので。僕の調子が良くなくてもチームは勝ち星を挙げていて、その中で自分は何もできずに、負い目じゃないですけど、劣等感みたいなものは感じていました。
結果も出ないし、自分の納得いくプレーもできてないし、自信をなくして何かに焦っていた自分はいました。みんなからの期待を感じるがゆえに苦しかったですね。「何してんねん自分」って。でも天皇杯の時にああいうパフォーマンスが出せたことで、自信を失うのも得るのも自分次第なんだって思えました。今は別の自分だったって客観的に見れています。それは自信を持って今がやれているからだと。
──自信を取り戻したのですね。来シーズンはあらためて期待していいですか?
任せてください。今は競争も楽しんでやれていて、これが生き生きしていた頃の自分です。自分が活躍しなくても勝てるのはこのチームの強みですけど、自分が引っ張っていくと思ってやっていきたいです。
フォーム改造を決意「ハマれば結構な確率で入る感覚」
──天皇杯ではポイントガードの大役をこなしましたが、シューターのイメージが強いです。今後に目指すプレーヤー像はどういったものですか?
ただのボールハンドラーではないとは思っていますし、3ポイントシュートを確率良く決めてもう一度シューターとしてもやりたいというのもあるので、1つに絞りたくないですね。
──昨シーズンは自分をシューターとして見れていなかったってことですか?
そうですね、シュートに自信を持てていなかったです。今シュートフォームを変えている途中でばらつく事もありますけど、それがハマれば結構な確率で入る感覚はあります。
──サラッと言いましたが、かなり重大な変化だと思います。過去に変えたことはあるのですか?
大学の時に変えようとしたけど、変えられなかったです。見た目ではそんなに分からないかもしれないですけど、自分の中では大きな変化です。ジャンプして上で止めていたのを流れるように打つようにして、今まで真ん中でリリースしていたのを数cm右にしました。少し打つスピードが速くなっているかと。『SHOWCASE』の時も1本目を外した時は前のシュートフォームになってしまっていて、コーナーから決めた時は新しいフォームで打てていました。
昨シーズンはずっとひじが痛かったり、肩も痛くてシュートフォームにばらつきがあったと思います。シュートフォームのどこかがおかしいとは思っていたので、この際チャレンジしようと。
──先日、観客を入れての開幕戦の実施が決定しました。
サッカーと野球がやっているのでバスケもそうなるだろうなとは思っていました。それでも室内競技なのでどうなるかなという不安があったので、少しでも観客が入れるのはうれしいです。もしアリーナが半分になったとしても数ではないと思うし、ファンの前でできる喜びは大きいです。楽しみたいですね。
──では最後にファンのみなさんへ力強いメッセージをお願いします。
昨シーズンはケガなど本当にいろいろあって、皆さんの期待にあまり応えられなかったと思います。もちろん良い試合ばかりじゃないかもしれないですが、今までの輝きというか、辻が楽しそうにやってるというところをたくさんの人に見てもらいたいです。シーズンを通して、生き生きした僕を会場や画面で見届けてほしいです、