「そうやって続けてきて16年がある」
レイカーズのレジェンド、コービー・ブライアントの現役ラストシーズンは全米を回る『サヨナラ興行』となった。大神雄子は開幕時点で今シーズン限りの引退を宣言し、全国のファンに雄姿を見せて回った。そんな前例を意識してのことだろう、千葉ジェッツは先週、伊藤俊亮の引退会見を実施した。
引退を発表しても、最後の試合までプロフェッショナルとしての責任を全うすることに変わりはない。「ゲームの準備をしっかりして、チームの雰囲気を作っていくことは変わらないです。コートに入ると非常に温かく迎えてもらえるので、そこが唯一違うかな」と伊藤は言う。
2002年に東芝(現在の川崎ブレイブサンダース)に入社。そこから栃木ブレックス、三菱電機(現在の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)、そしてBリーグ元年の2016年に千葉ジェッツへ。16シーズンという長いキャリアが間もなく終わろうとしている。
レギュラーシーズンの残り試合とチャンピオンシップで彼のプレーは『見納め』。本人は引退会見で「やり残したことのないように、残りの弾をチームのために使い切る決心で戦う」と宣言したが、プロバスケ選手としての最後にファンに見せたいものは何だろうか。
「せっかくなので見てほしいですが、『これを見てくれ』という感じではなく、いつも通り自分がチームに何をしていくのかを見てほしいです。自分もそう気構えることなく、特別なことをするわけでなく、そうやって続けてきて16年があると思うので、あと何試合かその作業をしている姿を見ていただければと思います」
ファンの声援は「ありがたかったし、心に残ります」
これまでのキャリアで概ね20分から25分のプレータイムを得ていた伊藤だが、千葉に来てからは出場機会が限られた。それでも昨シーズンは7.9分、今シーズンは3.6分出場の伊藤が一際大きな声援を送られるのは、その貢献が認められている証でもある。
チームの求心力としての存在感なのか、あるいはTwitterでの情報発信が歓迎されているのか、「自覚がないので、人気があるかどうか考えてないです」と本人はさして気にしていない様子。それでも「今日はあまり活躍できませんでしたが、コートに入ってくる時に温かく迎え入れてくれたのはありがたかったし、すごく心に残ります」と、応援してくれるブースターへの感謝の気持ちは人一倍強く、その感情をストレートに表現できる言葉を持ってもいる。
「長くやっている分だけ、見てもらえるチャンスも多かったからかなと思います。僕が新人としてキャリアを始めた頃に見ていて、バスケットを離れて十何年してまた戻って来て、『あの選手、まだやってるな』と思う人もいらっしゃるそうなので。これは長くやらないと起こらないことで、長くやってきた甲斐があったなと思います。いつも本当に皆さんが優しくて、ありがとうございます」と伊藤は大きな笑みを浮かべた。
「チャンピオンシップの地元開催」へ強い意志
千葉での2年間は充実したものになっているが、昨シーズンはチャンピオンシップのホーム開催、そして優勝を取り逃している。いずれもつかみ取り、天皇杯と合わせた『2冠』を達成して有終の美を飾りたいのは偽らざる本音だろう。
「昨シーズン足りなかったこと、思い残すことがあるとすれば、1ゲーム差でホームゲーム開催を逃してしまったことです。それがあれば結果が変わったんじゃないかと思うぐらい大事なものなので、どこと当たるかはそこまで意識することなく、何としてもチャンピオンシップの地元開催を実現させたいと思ってプレーしています」
レギュラーシーズンは残り7試合、千葉は東地区2位のアルバルク東京に2ゲーム差を付けて首位に立っている。「どこと当たるかは意識せず」としても、7試合中5試合をホームで戦えるのは大きなメリット。油断しなければ目標に手が届くという状況で、気を緩ませない雰囲気作りも伊藤の役割の一つ。チャンピオンシップのホーム開催には強い執着を見せるが、優勝については「それはまだこの先に考えることにしています」と語る伊藤の口調からすると、このチームに油断が忍び込む余地はないように感じる。
最後に、『イートン』が応援してくれるファンに向けてメッセージを送ってくれた。「まだ何ゲームか残っていますので、ここからでも毎試合成長を続けて、ハッシュタグ『#いくぜてっぺん』ということで、てっぺん目指して頑張ってまいりたいと思いますので、最後まで応援よろしくお願いします」
NBL時代は負け続きのチームだった千葉は、『Bリーグの時代』になって飛躍した。その要因は様々あれど、伊藤が選手たちの良き兄貴分としてロッカールームの求心力になっていることは見逃せない要素だ。ゲームの準備をしっかりして、チームの雰囲気を作っていく『いつも通りの作業』は、些細なことのようでBリーグ優勝の決め手になるかもしれない。
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