文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

「良い経験ができているのは間違いない」

36勝17敗。レギュラーシーズン60試合のうち53試合を消化した川崎ブレイブサンダースの現在の立ち位置を、篠山竜青は「満足はしていないですけど、バッドでもない。そうとらえています」と語る。昨シーズンは中地区でブッちぎりの1位。全18チームの勝率トップを快走し続けたのと比較すると、東地区に編入された今シーズンは『苦戦』のイメージが強い。

「昨シーズンと比べると、1試合1試合の強度はすごく高いです。思った通りレベルが高いですしハードです。少しのミスが勝敗に大きく影響するので、ちょっとでもディフェンスをサボったり判断のミスがあってはいけないと神経を使います」と篠山は東地区の難しさを認めるが、悪いことばかりではない。「良い経験ができているのは間違いないです。個人としてもチームとしても成長できているし、やりがいを感じています」

タフな試合が続くことが経験となり、毎週の積み重ねが着実に力になっている。そう言い切ることのできる自信が篠山にはある。

「昨シーズンは全体の勝率1位にはなってるけど、他地区の上位チームとやった時にどうなのかがイメージできずに戦っていました。今シーズンは勝った試合も負けた試合も僕たちの経験になり、『こうすれば勝てる』とか『これができなかったから勝てない』というものが明確になってきています。昨シーズンは優勝候補筆頭で、今シーズンはそうでないのかもしれませんが、優勝候補と言われなくてもそこは気になっていないし、チャンピオンシップで一つひとつ勝ち上がっていくことしか考えていないです」

「ディフェンスの水準を高いまま保つことができるか」

レギュラーシーズンでいかに積み上げて、チームとしての成熟度を高めてポストシーズンに臨むかが大事。昨シーズンは全体勝率1位だったが優勝は逃した。一昨シーズンのNBLでは3位でプレーオフに進んだが結果的に優勝している。当然、後者のほうが望ましいわけだが、篠山はNBLラストシーズンについて「何位でしたっけ……?」と首を傾げた。「優勝した、優勝できなかった、は覚えていますけど、レギュラーシーズンの順位はあまり覚えていないです。過去のことを振り返っても、ねえ」と苦笑い。

「やはりチャンピオンシップを勝ち上がったチームが優勝ですから。ホームコートアドバンテージはあるし、ちょっとでも順位を上げたいという気持ちはありますが、レギュラーシーズンで何位だから優勝候補じゃないとか、自信を失うとか、そういうことはないです」

チャンピオンシップ進出が決まった今、篠山が意識を向けるのは自分たちのパフォーマンスについて。『こうすれば勝てる』と『これができなかったから勝てない』が分かった以上、あとはどう実践するかだ。

「チームディフェンスとリバウンド、ルーズボール。ここを40分間徹底できればかなり優勝に近づくと思います。オフェンスは流れがありますし、シュートは水物と言いますけど、その中でディフェンスをどれだけ高い水準で保てるか。ウチが負ける時はオフェンスが調子悪かった時にディフェンスの水準が下がってしまう。それで相手にイージーな得点を許してしまって、今度はオフェンスで焦ってタフショットを選択したり、独りよがりのプレーをしてしまう。それがまた相手のファストブレイクやイージーな得点につながってしまう悪循環が出る。そうなると勝てません。そこですね。オフェンスが良くても悪くてもディフェンスの水準を高いまま保つことができるかどうか、です」

チームの課題を解消するための「ファウルを我慢」

これらをコート上で実践するために、ポイントガードでありキャプテンでもある篠山は「流れが悪くなった時こそ自分が」という意識でチームを引っ張ろうとしている。

「一番やらないといけないのは出だしでファウルを我慢すること。このところ出だしのディフェンスにかなりフォーカスして、チーム全体として見るとディフェンスの強度が上がってきてはいますが、自分がファウルトラブルで前半ほとんど出れないこともありました」

ポイントガードとして前から激しいディフェンスをして、その背中でチームメートを鼓舞することには大きな意義がある。ただ篠山はもう一歩踏み込んで「ファウルを我慢すること」を強調した。それはチームの弱点を埋める意味もあり、一つのミスが取り返しのつかない問題になるチャンピオンシップでの戦い方を踏まえたものでもある。

「どこがカギになるかと言うと、やっぱりオン・ザ・コート1の第2クォーターと第3クォーターで、絶対に苦しい時間帯が来ると思んです。そこに自分がファウル数を抑えた状態でコートにいることで、チームが苦しい時にファウルを気にせずガンガン当たっていくことができれば、チームにスイッチを入れられます」

チームの完成度は高まりつつあるが、まだ弱点が残っている。そこを篠山は自分のパフォーマンスで埋めて、勝利の確率を上げようと考える。強いチームには優れたリーダーがいるものだが、川崎ブレイブサンダースと篠山には、その関係性が出来上がっている。

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