谷口淳、石塚裕也、坂井レオは、西宮ストークスの『若さ』を象徴するような20代半ばのプレーヤーたち。チームがB1に昇格した今シーズンは成長した姿を示し、出場機会も増えて大事な役割を担うようになってきた。
北海道から川崎への遠征で深まったチームの絆
3月に入って最初の2週は、続けてのアウェーゲーム。3月5日、6日にレバンガ北海道と、9日と10日に川崎ブレイブサンダースと、それぞれ敵地で戦った。チームは北海道戦を終えた後も西宮に戻らず、川崎戦に向けての調整を関東で行った。まるまる1週間もの時間をチーム全員が同じく過ごしたのは異例のこと。この時間がチームに変化の兆しをもたらしたと谷口淳は言う。
「1週間もチームでいたのでコーチと話す機会も多く、チームメートとも長く話す時間がありました。コミュニケーションが取れてきていて、お互いの理解が深まってきていると思います。チームが噛み合い始めてきている印象を持ちました」(谷口)
北海道、川崎遠征は白星を挙げられず4連敗に終わってしまった。しかし、この1週間でチーム内のケミストリーが深まり、チーム状況が好転する手応えも得られた。
「北海道、川崎を相手に70点以上の得点が獲れるようになってきているので、オフェンスはかなり良くなってきました。今後に向けて、プラスになる部分です。これまではどこかフワっとしていたのが、北海道戦と川崎戦は取り組んでいたことが形になって表れて、明確になった感じはあります。手応えがあったし、自信にもなりました。ディフェンスはこれからも修正が必要ですが、繰り返して練習していけば失点は減っていって、勝ちにつながる試合ができるようになる」(石塚)
「負けはしましたが、川崎との特に1戦目は収穫が多いゲームでした。僕はそう感じています。それまでの試合は闇雲に戦っている感じがあって、チームとして噛み合っていない。しっくりこなくて、爆発力が足りなかった。川崎戦では岡田(優)さんも気持ちよくシュートを打っていましたし、インサイドのキャム(キャメロン・リドリー)、ハーブ(ハーバート・ヒル)も中で仕事をしてくれた。もっと工夫できるところが生まれてきそうだし、今後が楽しみになる試合でした。あの1週間がすごく大きかったので、チームは今後変わっていくと僕は思っている」(谷口)
坂井「新しい選手が加わったプラスアルファがある」
後半戦になって岡田、リドリー、ヒルが新たに加わり、選手のラインナップに変化が生じた。彼らの加入によって澱んでいた状況に風穴が空き、新鮮な風が吹き込んできた。ストークスは、苦しんだ前半戦とは違うチームへと進化したのだ。
「選手も入れ替わりましたし、ポジションが替わった選手もいる。戦術面でも、前半戦とは違う選手の組み合わせのプレーが増えてきています。前半戦とは違ったストークスの戦い方になってきていますね。ユウ(岡田)さんは、経験がすごく豊富なベテラン選手。その経験は、若い僕らにとってすごく大きい。ハーブとキャムも噛み合ってきましたし、そういう新しい選手が加わったプラスアルファが今のチームにはあります」(坂井)
「新外国籍選手が入ってインサイドが強くなったこともそうですし、日本人選手もユウさんが入って得点源が増えた。それに今までいた選手も何人かはポジションに変化があって、チャレンジをしているところです。だけど、ベースの部分は変わっていません。今までの土台をより強固にして、その上に新しいものを積み上げていこうとしている状態です」(石塚)
「岡田さんたち新しい選手が入ってきたのは、雰囲気が変わるターニングポイント。それまでも僕らはマインドを変えようとしていましたが、負のスパイラルに入っている時は、なかなか抜け出せない。がむしゃらに声を出して盛り上げるんですけど、どこか乗り切れない。そういう現状だったんです。岡田さんら経験豊富なベテラン選手が来てくれたことは、いいきっかけでした。岡田さんは、すごく声をかけてくれるんです。コーチが言うこともそうだけど、オレはこう思うとか。若手のモチベーションが上がる声をかけてくれています」(谷口)
その岡田は、「ストークスは大人しい選手が多い」と指摘した。意見をぶつけ合うことの大切さを充分に理解しながら、谷口はストークスに合ったやり方があると言う。
「ケンカになるくらいの激しさで、思っていることを主張して言い合い、納得して進んでいくのもひとつの形。でもこのチームにそれを求めても、たぶん上手くいかないと思う。先輩方はみなさん、優しいんです。それは甘えた優しさではなく、責任を人のせいにせずに自分で背負ってしまう。周りのことを優先されるんです。だれかが意見を出し合うきっかけを与えれば、激しさはなくてもストークスらしい輪の作り方ができると思います」(谷口)
谷口「最初の波を、僕が起こそうと考えています」
ベテランと新外国籍選手の加入で、チームは変わった。だがチームは彼らだけで成り立っているのではない。中堅や若手選手と有機的な融合を果たしてこそ、ステップアップを遂げられるのだ。特にストークスの現状では、チームが加速する勢いを求めたい。その燃料になるのは、試合に出ている若い選手のエネルギーだ。
「僕はプロでこのチームにしかいたことがないですが、大人しいと言えば大人しいのかな。試合中に、相手とケンカになることもあまりないですし。ベテランの選手たちは意見を出し合っていると思うんですが、僕はまだコーチに言われたことをそのままやることで精一杯。そうでないと、試合に出させてもらえませんから。言われたことに、自分の考えを加えて出す。それが大事だという、意識は持っています。でもその前に、今はコーチに言われたことを完璧にできるようにすることが先決だと思っています」(坂井)
「僕とかジュン、レオとかは身体を張って泥臭い仕事をして、チームの雰囲気を盛り上げるのが仕事の一つ。そこはベテランよりも、僕ら若手がやらないといけない。ほかの若手に負けないように、やっていこうと思っています。僕ら3人は、若手なりの責任感を持っています。ミスを恐れずにチャレンジして、たとえ失敗してもチームにいい雰囲気が作れると思います」(石塚)
「チームでは4番のポジションを、若手が務めることが多い。そのなかでユウヤ(石塚)は同じ年ですけど、レオ(坂井)と時生(土屋)は年下。彼らも大人しいので、僕が元気を前面に出していっています。谷さんらがチームを集めて話をするときは、若手は若手なりになにか発言しようと思っていて、僕はそういうことをみんなの前でしています。若手同士でも顔を合わせば、個々で話をしている。僕が熱くなったらイジられたりもしますが、これからはそれを怖がらずにやっていこうと思っています。チームのみんなは多分、遠慮しているんですよ。僕がもっともがけば、なにかが変わるかもしれない。その最初の波を、僕が起こそうと考えています」(谷口)
谷口と石塚は同じ年齢で、同じ高校の出身。若い選手が多いチームのなかでも、特に互いを意識し合う存在だという。
「僕らがハッスルプレーを見せるとチームに勢いが出ると思うので、そこは昨季から強く意識しています。特にジュンは高校も同じ(桜宮高)で似たようなプレーをしてきたので、そこは負けたくない。お互いに、お互いのことはいい意味で意識していますね。僕は交代で入ることが多くて、コート内の状況が良くない時もある。それを変えようと思ってコートに入るので、最初のワンプレーはたとえファウルになってもいいので、勢いよくやるようにしています。泥臭くても全力でプレーする姿を見せれば、必然的にチームも会場も盛り上がっていくと思っています。そんなプレーを続けて、これまでのシーズンの流れを、変えられる存在になりたいです」(石塚)
石塚「今ここで落ち込んでも、心が折れてもダメ」
今後のチームの目標は明確。B1残留だ。そのために彼ら3人は若いなりに、チームの力になろうと身を砕き、心をストークスのために捧げている。
「負けが続いても、チームがバラバラになっているとは全く感じません。チーム全体から、今の自分たちができることをいかに試合で出していくかという熱を感じます。士気はつねに高く、コーチ陣も含めて、これからまだまだいけるという意識でみんな練習しています。試合で僕は外国人選手とマッチアップすることが多いですが、若いのでケガしてもかまわないくらいの勢いでぶつかっていっています。そこで自分の持ち味のリバウンドやゴール下でのシュートの確率を高めて、チームの勝利に貢献していきたいです」(坂井)
「新しい選手が加わってプレーが合わせきれていない部分や、ディフェンス面などチームとしてダメなところはまだあります。それを毎日の練習で修正していって、シーズンの終盤で一番のパフォーマンスが発揮できれば、必ず残留できる。そのためには、絶対に残留するという気持ちが一番大事だと思う。今ここで落ち込んでも、心が折れてもダメ。負け続けていても、最後は絶対に勝つという強い気持ちを全員で持って、一致団結してやっていきます」(石塚)
「勝てはしませんでしたが、川崎戦で手応えを感じました。序盤戦で少し勝てていた時期と同じですけど、ここで決して油断してはいけない。今はまだつかめそうで、つかみきれていない段階なんです。B1残留のためには、まだあと少し噛み合っていない、『なにか』を噛み合わせないといけない。その『なにか』が具体的な言葉になって浮かび上がってくれば、全体が噛み合ってより良くなれる。チームの全員が、それぞれに思っていることはあると思います。それをお互いにぶつけ合って、本音を出し合って本当の一つのチームにならないといけない。今はまだ、その最初の段階。これからそれを積み上げて残りのシーズンを戦っていけば、僕らは必ず最後にいいチームになれます」(谷口)