京都ハンナリーズを率いる浜口炎ヘッドコーチは1969年生まれの48歳。指導者としてはまだ若いが、bjリーグ初年度の2005年から仙台89ERSのヘッドコーチを務めており、仙台で6シーズン、そして京都で今が7シーズン目とヘッドコーチとしてのキャリアは長い。その浜口ヘッドコーチに、チーム作りのポリシーや彼自身のコーチキャリア、バスケット観を語ってもらった。
浜口炎のコーチングフィロソフィー(前編)
「いかにチームショットを打てるか」
「信念を持って取り組むことを学んだ」
──浜口さんはプロ選手の経験はありませんが、プロコーチとしてのキャリアはもう結構長くなりました。そもそも指導者になるきっかけは何だったのでしょうか。
もともと将来は指導者になりたかったんです。でもプロコーチとなると、僕が愛知学泉大学に入った頃は数名しかいない状況でした。その時の学泉大のヘッドコーチだった小野(秀二)先生がトヨタ自動車のコーチになられて、この頃からプロコーチが増えてきたんです。それで「バスケット指導者=体育の先生」という認識を変え、プロコーチを目指すようになりました。
学泉大のアシスタントコーチをやった後、アメリカで2年間のコーチ留学をして、1年間はトヨタ自動車で小野先生の下で経験をさせてもらいました。そのタイミングでbjリーグができたんです。そこで仙台から話をもらったので、タイミングが良かったですね。
──アメリカ行きはあくまで留学で、稼ぎがあるコーチではなかったんですよね。
もちろんです。大学職員として働きながら学泉大のアシスタントコーチをして、その時の貯蓄で2年間行きました。正直、先がどうなるかは見えなくて、バスケットが今のようになるとは分かりませんでしたが、でもトライしようと思いました。英語も話せませんでしたし、結婚と同時に仕事を辞めて行ったんです。
アメリカではいろいろ勉強したんですが、一番気付かされたのは大学時代に学んだことは間違ってなかったということです。アメリカでも良いコーチに出会いましたが、若い頃に日本で自分は良いことを学んでいたんだなと。小野先生から学んだのはメンタルの部分です。物事の考え方、大切にする部分、信念を持って取り組むこと。そういう大切なものをすごく教わりました。
「当たり前のことを普通に発信したい」
──浜口さんはコーチングよりもティーチングを大事にするそうですね。
そこは大切にしたいです。実際、京都に今いる選手たちは外国籍選手を含めて、良いコーチにたくさん教わってきています。だから僕が彼らに伝えるのは、チームで大切にする部分や方向付けです。今の選手はほとんどが大学から直接プロになっているので、プロとして何が大切なのか、社会人であれば当たり前のようなことも覚えていかなければいけません。
身だしなみや食事、当たり前のことを普通に発信したいです。食事について僕が言うのは、「いつも隣にミニバスの子がいると思って食べてほしい」ということです。チームがどれだけ強くなっても、そこはしっかりしていたいです。
──京都ではヒゲやタトゥーが禁止だと聞いています。永吉佑也選手は京都に加入する際、川崎時代にトレードマークだったチョンマゲを切りました。これもその一つですよね。
そうですね。永吉とは結構話しましたが、方向性は一緒なんです。彼がどうしてまげを結っていたかと言うと、子供たちに覚えてもらいたいから。印象のある選手、夢のある選手になりたいという思いからでした。その考え自体は僕も一緒で、選手には子供たちのお手本になってほしいんです。なぜヒゲを剃るか、なぜ髪の毛を綺麗にするのか。それはNHKのニュースキャスターや一流の営業マンの誰がヒゲを生やしていたり茶髪でいるかということです。
バスケット選手はカッコ良いと思われてほしいですが、どんなブランドにするかは僕たち次第だと思っています。チャラい髪型、ヒゲ、タトゥーという発信なのか、清潔感のあるカッコ良さを出していくのか。バスケットはまだプロ野球やJリーグほど大きくないし、底辺の拡大をしなければならない段階です。だからこそどう発信していくかが大事なんです。僕はそれを永吉に伝えたし、彼は同意してマゲを切ってくれました。
「練習を止めてでも考える時間は自由に取らせます」
───選手はしばしば監督の愚痴を言うものですが、私は浜口さんの悪口を言う選手を見たことがありません。むしろ「炎さんに影響を受けた」という声を多く聞きます。選手へのアプローチはどんなことを心掛けていますか?
コミュニケーションはなるべく取ろうと思っています。例えばコートに来たら選手の顔色や表情はよく見ますし、必ず何か声をかけようと思っています。家に帰って風呂に入っている時や寝る前に「この選手と何を話したっけな」とか「会話が少なかったかな」ということは考えますね。
あとは選手に対して、ちゃんと一人の人間として向き合ってコミュニケーションを取ろうと思っています。僕のコーチングフィロソフィーの中には『リスペクト・イーチ・アザー』というものがあります。僕は選手がいないとヘッドコーチじゃありません。プロコーチだと言っても選手がいなかったら何もできません。そういう意味では選手を常にリスペクトしています。
──また、選手にはただハードに動くだけでなくハードに考えることも求めるそうですね。
『シンク・ハード』ですね。練習もただやるのではなく、何のためにやるか分かっていないと一方通行になってしまうので。一生懸命にやるだけじゃなく常に考えて『シンク・ハード』にさせたいとは思っています。日頃の練習でも、5対5をやる前と後は必ずハドルを組ませて、選手だけで話をさせます。コーチの意見より先に自分たちで考えるんです。僕は選手が何を話しているか一切分かりません。練習を止めてでも考える時間は自由に取らせます。そこはどのチームよりもやっていると思います。
実際にコートで戦っているのは選手です。コーチが外から感じ取れる部分もたくさんありますが、最前線で戦っている彼らにしか分からないこともあって、それはすごく大切です。だから彼らの意見は聞くし、それを常日頃から考えさせながら、互いに意見交換することがチームのプラスになると思っています。
──では最後に、終盤戦に向けてファンへのメッセージをお願いします。
ずっと同じことを言っていますが、残り22試合をディフェンスとリバウンドを改善しつつ戦い、何とかチームとしてワンステップ向上したいと思っています。是非会場に見にきてほしいし、応援してほしいです。