名門中学校の指導者、『全中バスケ中止』にショックを受ける選手たちに「まだ引退じゃない、と伝えたい」

名門中学校の指導者、『全中バスケ中止』にショックを受ける選手たちに「まだ引退じゃない、と伝えたい」

2020/05/08

鶴我隆博

新型コロナウイルスの感染拡大は学生スポーツにも大きな影響を及ぼしている。高校バスケではインターハイの、中学バスケでは全国中学校体育大会の中止が決まった。福岡の名門、西福岡中学校で男子バスケットボール部の指導にあたる鶴我隆博は、前任の百道中、姪浜中も含めて何度も全中に出場してタイトルを獲得し、多くのトップ選手を育ててきた。そんなトップ指導者に、選手たちが目標とする大会がなくなってしまった悔しさ、子供たちのケアの難しさを聞いた。

「やはり子供たちにとっては相当ショック」

──全中の開催中止が決まりました。指導の現場でも大きな混乱があったと思います。

春の九州大会を前日になって棄権した時には「まだ全国大会がある」と話したのですが、それすらもなくなってしまいました。やはり子供たちにとっては相当ショックだったようです。すぐに電話をくれた保護者は涙で言葉にならない感じでした。

今は私たちも集まることができないので、中止の決定が県の中体連に降りてきて、それをホームページで流すのが正式な通達となりました。インターハイは26日の会議で中止の決定が出たのですが、全中については24日に関西のネットニュースで報道されてしまいました。関西の中体連が近畿大会をやらない方針を打ち出し、「近畿がやらないのに他のブロックは大会をやって、全国大会をやるのは難しい」とは思いましたが、それを関西のテレビ局が出してしまった。

私たちは通知をもらっていない、子供たちが目の前にいるわけでもない。本当であればこの先にどうなるのか、例えば子供たちを集めて、「学校が再開となれば少しずつ練習を行うことができる」とか「福岡の中体連としては大会を行う可能性がある」と伝えることができます。それができない状況で報道されてしまったから、子供たちの動揺は大きかったです。保護者の思いや学校現場の対応を何も考えずにマスコミが特ダネみたいにポーンと出したことには憤りを感じます。

──直接伝えることができないし、部員数も多く、コミュニケーションを取るのは大変だと思います。選手たちをどうフォローしていますか?

非常に難しいです。保護者が集まるグループLINEがあって、普段はそこに私からトレーニングのこと、気になった記事や名言だったり、たわいもない話まで毎日何かしら投稿して、返信ももらうコミュニケーションツールなのですが、それを活用しています。今は私から「まだ引退じゃないよ」と伝えています。学校が再開されれば部活はできます。選手たちも心の準備、身体のトレーニングを怠らないように伝えています。何をどれだけやりなさいとは言わないので、個々の自覚に任せるしかないのですが、気持ちを切らさないようにと伝えました。

鶴我隆博

「彼らの将来には財産になるかもしれない、そうなってほしい」

──実際のところ、全中がなくなったことで生徒の進路が変わってくる、ということはあるのでしょうか。

大阪の報道が最初に出た時、陸上の顧問の先生が「全国大会は高校推薦のための発表の場でもある、それがなくなったのは残念」という内容の話をしていましたが、私はそうは思いません。個人スポーツとチームスポーツの差はあるかもしれませんが、私たちはバスケットを進学の手段としては考えていませんし、現に高校に行ってバスケットを続けない子もいます。だから、全中は選手にとって大きな目標かもしれませんが、全中がなくなっても彼らの今後が変わることはないと信じています。

──新型コロナウイルスの影響が出始めた頃には、ここまでの状況は想像できませんでした。

全く予想できませんでしたね。でも、子供たちや保護者に伝えたいのは、バスケットをできる環境がずっとありましたが、それは当たり前じゃなかったということです。学校に行けば仲間がいて先生がいて体育館があって、当たり前のようにバスケットをして、土日になれば大会に行って試合をする。家の事情や身体の状態など、いろんな条件が揃った環境でバスケットができるのがいかに幸せか、それは家族に、仲間に、学校に感謝すべきことです。

それは常々言ってきたし、子供たちも分かっているとは思いますが、やっぱり今までが当たり前すぎたので。それがどれだけ幸せか理解して、感謝できるようになれば、今年はこれだけ苦しい思いをしますけど、彼らの将来には財産になるかもしれない。そうなってほしいと思います。

──鶴我先生は今年で定年で、最後の全中が中止となってしまいました。

最後の年になぜ、という気持ちはゼロではありません。過去のチームと比べるのはナンセンスですが、今回は最強の布陣だと思っていたチームですから、それを全中の舞台で披露できないことに悔しい思いはすごくあります。ただ、医療現場の方々が寝る時間を削って命懸けで国民のために戦っていることを思えば、自分のことを言える状況ではありません。それは子供たちも同じで、やりたいことを我慢しなければいけない時です。そのことは自宅でトレーニングをして過ごす支えになると思います。中総体としても、何かしら発表の場を作ってやりたいとの思いはあり、私たちもそのつもりで動いています。いつどのような形になるのか今は明言できませんが、選手たちには「まだ引退じゃないぞ」と伝えたいです。

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