文=丸山素行 写真=鈴木栄一

吉田や渡嘉敷を上回るインパクトを残し大会MVPに

JX-ENEOSサンフラワーズはデンソーアイリスを84-62で下し、皇后杯5連覇の偉業を成し遂げた。宮澤夕貴は内外オールラウンドにプレーし、チームハイの19得点を挙げて勝利に貢献しただけでなく、今回から新設されたMVPを受賞した。「今大会が結構良かったので、今日の試合も自信を持って臨めて、それが結果につながりました」と宮澤は言う。

この大会、宮澤はチームトップの平均20.5得点を挙げてチームを牽引してきた。それでも「このチームでやってるからMVPになれたと思っているので」と喜びは控えめ。だが、JX-ENEOSには吉田亜沙美や渡嘉敷来夢といったレジェンド級のプレーヤーがいるにもかかわらず、今大会に限って見れば宮澤のプレーは引けを取っていなかったし、インパクトでは上回っていたとも言える。

デンソーとの決勝に話を戻すと、第1クォーターを終えて1点ビハインドと予想外の展開となった。しかし、第2クォーターに試合をひっくり返し、そのまま突き放す『女王』の強さを見せ付けた時間帯、オフェンスを牽引したのは宮澤だった。宮澤の外角とドライブがデンソーディフェンスを広げた結果として、第1クォーターでわずかシュート1本の0点に封じられた渡嘉敷が復活。宮澤の外、渡嘉敷の中とバランスの良い攻めが見られるようになった。

地力ではJX-ENEOSが上。一度ペースを握った後はあらゆる面で強さを見せ付け、勝利を決定づけるまで緩みを見せなかった。

長くライバル関係にある長岡、新興勢力の赤穂

宮澤はデンソーのディフェンスを攻略する上でカギとなったが、その大活躍の背景にはマッチアップした赤穂ひまわりへのライバル心があった。「相手がひまわりだったということで、負けたくない気持ちはありました。ひまの良い時のプレーを見て、運動能力が高いですが、スリーはそこまで警戒しないでいいかなと。案の定、ドライブで来たので、そこは今日は止められました。年下ですし絶対負けたくなかったです」

赤穂は世代別日本代表に名を連ねるオールラウンダーだが、宮澤はその赤穂をわずか2得点に抑えて貫録を見せつけた。

宮澤はそうしたライバル心で成長を続けてきた。特に長岡萌映子(トヨタ自動車)への意識は強く、赤穂とのマッチアップも「萌映子とやっているような気持ちでやれました」と長岡の名前をわざわざ挙げて説明した。「3番ポジションで私は萌映子の次だったので、今のうちにひっくり返して次のワールドカップにはスタートで出れるように、という気持ちはあります」

この2人の切磋琢磨が代表のレベルアップにつながっていることは言うまでもない。今回は『第3の存在』である赤穂に対して格の違いを見せ付けた形だが、これで赤穂が発憤してくれれば、また全体のレベル向上につながっていく。

地味な反復練習も「自分に一番必要な練習メニュー」

宮澤は皇后杯を振り返り「練習してきたことができた大会でした」と表現した。「去年は3ポイントシュートだけでしたが、今年はドライブもできました」と一つひとつ積み上げてきたものをしっかりコートで見せている。

『練習は嘘をつかない』と一般的に言うが、練習通りのプレーをコートで表現することは容易ではない。特に高いレベルであればあるほどその難易度は増す。練習の成果が出たということは、それだけ密度の濃い練習をこなしているということだ。「この時期はずっとドリブルの練習をやるんですよ。またこれかよ、って(笑)。でも自分に一番必要な練習メニューなので真面目に取り組んでます」と宮澤は言う。「ストップした時のバリエーションを増やしたり、あとはパスができないので」と自分に足りない部分も認識して日々の練習に取り組んでいる。

この1、2年で急成長を遂げた宮澤だが、現状に甘んじる気持ちは一切ない。それは代表を経験して、世界を相手に戦う意識が当たり前のものになっているからだろう。大会MVPになってもそれは変わらない。渡嘉敷を始めとした女子のトップ選手と同格と呼ばれるまでにはまだ相当な実績を重ねる必要があるし、その過程でJX-ENEOSのリーグ10連覇や今年のワールドカップと挑戦は続いていく。その向上心は、東京オリンピックで金メダルを手にするまで止まらないに違いない。