ダブルスコアの状況で強行出場のクンバ、走れず
インターハイ王者の岐阜女子(岐阜)は準々決勝で安城学園(愛知)に敗れた。100点ゲームを喰らっての試合終了のブザーを、岐阜女子の主力選手たちはコートではなくベンチで聞いた。
初戦の奈良文化戦(奈良)の第2クォーター序盤に、岐阜女子をアクシデントが襲った。バイ・クンバ・ディアサンがポストアップから反転してジャンプシュートを放った際にひざを痛めて続行不能に。25日に行われた3回戦の県立津幡(石川)ではベンチにも入らなかった。190cmの高さとリーチ、フィジカルの強さと柔らかいスキルを兼ね備えたクンバは絶対的なエース。26日の安城学園戦、クンバはベンチスタートとなった。
代役のセンターは同じセネガルからの留学生、ハディ・ダフェ。しかし1年生とあって、188cmとサイズはあってもクンバのようなスキルはない。特にディフェンスでは安城学園の素早くタフな攻めに対応できない。また攻めでも、オフェンスリバウンドが計算できるからこそ思い切ってシュートを打てていたが、クンバ不在となればそうもいかない。
そのオフェンスリバウンドで逆に安城学園にペースを握られる。15-23とビハインドで迎えた第2クォーター、オフェンスリバウンドで1-6と圧倒され、セカンドチャンスから得点を奪われ差を広げられる。安城学園は思い切り良く外角シュートを狙い、岐阜女子がそこをチェックしに行くと状況判断良くゴール下への合わせでイージーシュートを決めてきた。
第2クォーター半ば、21-42とダブルスコアになったところでクンバが投入された。プレータイムを制限しつつクンバで勝負するプランかと思われたが、クンバは足を引きずり、走れる状態ではなく、横の揺さぶりには全く対応できなかった。投入されてすぐポストプレーからシュートを決めるも、得点はこの2だけ。そして後半、コートに立つことはなかった。
試合後、クンバはこみ上げる感情を抑えきれず、「何もできない、何も分からない私にいろいろ教えてくれて、すごく良くしてくれた先生に、チームのみんなに申し訳ない」と号泣。岐阜女子での3年間で日本語を流暢にしゃべれるようになったが、この時は言葉が出てこなかった。
「仕掛けるしかなかったが、かわした相手が一枚上」
27-47と大差が付き、なおかつクンバを失って始まった第3クォーター。木下七美と小野佑紀がハッスルして流れを変えようとするが、この日の安城学園は状況判断が非常に良く、アグレッシブなディフェンスがオーバーヘルプになりイージーシュートの機会を与えたり、あるいはファウルがかさむ結果に。リスク覚悟の攻めに出て、ハディのバスケット・カウント、木下の速攻、藤田和のトランジション・スリーで反撃するも、巧みにフリースローで得点を重ねる安城学園との差は20点から縮まらない。
第3クォーター終盤には、前から激しいプレッシャーをかけてディフェンスを引っ張って来た木下がふくらはぎの肉離れでコートを去り、この時点で勝敗はほぼ決してしまった。第4クォーターに追いかけるも、主力のうち2人を欠いては苦しい。残り2分を切って主力を下げた安城学園に合わせるように岐阜女子も控え選手をコートに送り出し、最終スコア79-105で敗れた。
「まさかこういう状況になるとは思っていなかった。対応はしたんですが、時間的に間に合わなかったです」と安江満夫コーチは話す。「ディフェンスのチームなので守るしかないんですが、守り切れなかった。クンバ以外のところ、1年生のセンターは場慣れもしていないので、力を出させることができませんでした。点差があったので仕掛けるしかなかったが、そこをしっかりかわして点を取った相手が一枚上手でした」
石坂、8本の3ポイントシュートを含む31得点も及ばず
キャプテンでシューターの石坂ひなたは「今まで支えてくれた人たちに本当に申し訳ないですし、去年の悔しさも返せなかったので、すごい悔しいです」と語った。石坂の意識にあったのは『3冠』ではなく、決勝で桜花学園に敗れた昨年のウインターカップのリベンジだったが、それは果たせなかった。
クンバ抜きの影響を素直に認め、「安城学園のリバウンドが強いのは分かっていたんですけど、全員で徹底してそこを抑えられず、リバウンドから点数を取られたこと」と敗因を語る。
オフェンスでは奮闘した。前半は3ポイントシュートが8本中1本成功の9得点と当たりが出なかったが、「とりあえず点数を縮めないとどうにもできないので、ディフェンスよりも展開を早くして点を取りに行こうと意識した」という後半に巻き返し、後半は7本の3ポイントシュートを含む22得点を記録した。
しかし、クンバ不在は石坂のプレーにも大きな影響を与えていた。クンバがいれば相手はダブルチームで止めに行くのでガード陣はフリーになりやすい。またリバウンドを取ってくれると信頼して、思い切って打つこともできる。そんなクンバを欠く状況で31得点は十分な数字だが、クンバの分まで点を取るという目標は果たせなかった。
「留学生センターに依存したチームだったから負けた」と言ってしまうのは簡単だ。だが留学生に限らず、サイズもスキルもメンタルも圧倒的な力を持つエースがいたら、その選手を中心にチームを作るのは当然のこと。むしろ、強いチームには必ずエースがいるものだ。同じクンバを欠くにしても、もう少し準備期間があればまだ手の打ちようはあったのかもしれない。そして勝手知ったる同じ東海地区のチームが相手だったことも痛手となった。
優勝候補筆頭、『3冠』を狙った岐阜女子はここで敗退。安江コーチは「出直しです」と言い残し、東京体育館を後にした。