文=丸山素行 写真=野口岳彦

悪い流れを払拭した5スティール

昨日行われた川崎ブレイブサンダースvsアルバルク東京は、77-67で川崎が勝利した。『攻』の主役が36得点を挙げたニック・ファジーカスだとしたら、『守』の主役は長谷川技だ。

序盤の川崎はシュート精度が上がらず開始4分で2-9と劣勢を強いられた。だが、そこからディフェンスを締め直してリズムをつかみ、反撃に転じた。その中心にいたのが長谷川だった。ボールの行方を先読みし、ドリブルのつき際を狙うことで、第1クォーターだけで5つのスティールを記録。シュートが入らない時間帯に守備で踏ん張ったことが前半のポイントとなった。

「読みも大事ですけど、読み過ぎて逆をつかれてもダメです。相手がどこに出したいか、行き過ぎると自分のマークマンに出されてしまうので、そこは駆け引きがうまくいったと思います」と、スティールの『極意』を教えてくれた。スティールはリバウンドやアシストと違い、量産できるものではない。昨シーズンのスティール数トップが平均2スティールなのだから、5という数字がどれだけ大きなインパクトを与えているかが分かる。

今シーズンの長谷川は出場した23試合すべてで先発を務め、ファジーカス、辻直人に次ぐチーム3番目に長い平均26.4分のプレータイムを得ている。それだけ北卓也ヘッドコーチからの信頼が厚いということだ。

「北さんとはそこまで練習中にコミュニケーションを取っているわけではないですけど、ディフェンスを評価してくれて出してくれているとは思います」と長谷川。「僕の一方通行かもしれないですけど、心と心でつながってるということです(笑)」と珍しく冗談めいた口調で語った。

「僕は影のほうでひっそりとできれば」

長谷川は190cm90kgという体躯の持ち主で、なおかつ3ポイントシュートの精度も高い。44.7%の3ポイントシュート成功率はチームトップだ。「ここ数試合はあまり良くないですけど、ここで打って入ったら嫌だろうなという、決めるところで決めている感はあります」と長谷川は言う。

もっとも、成功率は高くても試投数が少ないのは課題で、ここまでの平均得点は6.4。ディフェンスマンであれ、守備専任に甘んじるつもりはなく、「得点力アップが課題ですね。北さんからはもっと自分でやっちゃえみたいに言われてるんですけど」と言う。

得点能力がないわけではない。ヘッドコーチのお墨付きをもらったのだから多少強引に個人プレーに走ってもいいはずだが、彼はあくまでチームプレーを最も大切にする。「得点力をアップしたい気持ちもあります。でも自分でガツガツやるのはチームプレーとしてはどうかと思うので、そこはチームプレー優先で。その中で打てる時に打って、そこをしっかり決めれば」

もちろん長谷川の言っていることは理解できるし、それができれば理想の在り方と言える。ヘッドコーチに攻めていいと言われれば、選手としては喜んで攻め気を出すはずだ。そうならないのは、長谷川がチームを第一に考える『縁の下の力持ち的』思考の持ち主だからだ。

「僕は影のほうでひっそりとできれば」との言葉がそれを表していた。

積み重ねが勝利へつながる

川崎は篠山竜青や辻を筆頭に、試合中のパフォーマンスやベンチでのリアクションが大きく、良い意味で『騒がしい』イメージがある。その中で長谷川の落ち着きは際立っているが、「平常心を保とうとしているわけではない」という。

「勝った時はうれしいですよ。でも試合中のパス1本、シュートの1点、2点。それだけで勝つわけじゃないですし、その積み重ねがあってこそなので」と冷静さの理由を教えてくれた。

もちろん勝敗を分けるシーンになれば、シュートやパスの重みは違ってくる。それでも試合の勝敗は一つひとつのプレーの積み重ねであり、それを理解しているからこそ長谷川は一喜一憂することはないのだ。「喜んでる隙にオフェンスされて簡単に2点与えるのもアレなんで」と、その発言はどこまでも長谷川らしい。

自ら進んで目立とうとするタイプではない。それでも「ひっそりとできれば」という長谷川の思いは叶わない。黒子の働きではあっても、ふと気づけば存在感はしっかりと示されているのだから。