京都ハンナリーズの寺嶋良は、今シーズン途中に加入した大学4年生ながら2月のリーグMVPに選ばれた。ポイントガードは経験が重要とされるポジション。デビュー戦となった年末の三遠ネオフェニックス戦こそ1分の出場だったが、年明けから20分以上のプレータイムを得て、期待以上の働きを見せている。昨年11月から年末にかけて13連敗していた京都は、寺嶋の加入から11勝4敗とV字回復に成功。ただ寺嶋は「自分でも驚くほどで、実力以上のものが出ちゃっています。だから油断はなく、これを本当の実力に変えなきゃいけない」と気を引き締める。そんな彼に、リーグ再開の意気込みを聞いた。
「自分のアタックでチームの流れが良くなる」
──大方の予想を大きく上回る活躍だと思いますが、寺嶋選手自身は加入時点でどれぐらいやれる想定だったのですか?
僕の想定は全然低かったですね。特別指定選手が2人、そこに僕が本契約でと同じタイミングで3人が入ったんですけど、全員がベンチに入れるわけじゃありません。最初の目標はそのメンバーに選ばれることでした。正直、今シーズンは試合にあまり出られなくても、ベンチからいろいろ経験して来シーズンから活躍できればいい、ぐらいの気持ちだったんです。それが年明けの名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦で出させてもらって、そこから思い描いていた以上のプレーができているので、自分でも驚いています。
──もう一つの驚きは、自分でガンガン仕掛けていくスタイルです。東海大は全員がディフェンスをするスタイルで、寺嶋選手にも守備でハッスルするイメージはありましたが、攻撃では自分で仕掛けるよりも全体を見てチームを動かす、コントロール型のポイントガードという印象でした。そこも自分の中でのサプライズですか?
もともと中学や高校では自分で点を取るタイプのガードだったんです。でも東海大では全員がスター選手で、自分が点を取るよりも仲間が点を取った方が効率が良くて、チームの流れを作るのが僕の仕事になりました。そういう意味で大学ではそこまで攻め気を出さず、チームの方針に合わせたプレーをしていました。
それが京都は『自分の強みを出していけ』というチームです。僕としてはジュリアン(マブンガ)とデイヴィッド(サイモン)がキツいタイミングが試合の中で出てくるので、そこで自分が行くイメージです。必要以上に自分がコントロールしようとは思わなくて、ジュリアンはボールを長く持つ選手ですが、そこに不満はありません。むしろ任せるから頼む、という感じです。彼が持つことで僕がノーマークになることも多いので。
基本的に、あの2人にボールを渡しておけば点を取ってくれるという信頼があります。そうやって任せつつ、彼らにとってキツいタイミングを見逃さずに自分がアタックすることで、チームの流れが良くなると実感しています。特に第3クォーターの序盤、第4クォーターの序盤にはそういうタイミングが結構あります。そこを見逃さず、自分で思い切って行くことを意識しています。
ただ、ハンナリーズ自体がスピーディなバスケというよりは時間をかけてじっくり攻めるチームです。そこに僕がプッシュして展開を速くすることで、チームの歯車が噛み合います。そういう部分で僕がハマった、というのは感じています。
──個人の活躍はもちろん、チームの成績が上向いているのも大きいです。案外、プロは楽勝ですかね?(笑)
いや、全然ですよ(笑)。今は自分の実力の100%以上が出せている感じです。いつもは入らないシュートが入ったり、ツキに恵まれた部分もあるので、不安はまだあります。でも結果が出ている分、Bリーグでもやれるという自信はそれなりに得られています。できなかったことがBリーグでできている。これからそれが武器になるぞ、って。そこを今は練習して、武器になりそうな部分を確信が持てるレベルまで上げていくようにしています。
「背中を押してくれる先輩たちの存在はありがたい」
──ドライブでゴール下まで切り込んで、相手選手の接触を受けながらシュートを決めきる強気な姿勢が目立ちます。普通に考えると『プロの壁』は外国籍選手のビッグマンで、そのサイズや当たりの強さに面食らうんじゃないかと思いますが、寺嶋選手がそこでいきなり結果を出せているのはなぜでしょうか。
理由があるとしたら、逆に自分が有利なミスマッチだと思っていることですかね。外国籍選手は身長があってフィジカルも強いですが、ピック&ロールした時に隙が生まれやすい。日本人選手より外国籍選手を相手にする方がスピードのミスマッチを生かしやすいことが分かったので。その一瞬の隙を見逃さずに狙っていくことですね。実際、スピードだったら勝てています。
──最終学年で臨んだインカレでは優勝を逃しました。東海大では大倉颯太選手がポイントガードの先発を務め、寺嶋選手は3年と4年でプレータイムを減らしました。あの経験は悔しかったと思いますが、自分の糧にもなりましたか。
颯太はもう別格、すごい選手なんですよ。颯太の攻撃力を生かすためにバックアップに回ってほしいとコーチに言われた時に、僕はそれを受け入れたし、別に苦ではありませんでした。個人のことだけを言えばプレータイムはもっと欲しいんですけど、あくまでチームが優先ですから。しかし、この間に僕は日本代表から外れたんですよ。2年生の時は僕がスタメンで、このまま行けば絶対に李相佰の代表にも入れると思っていました。東海大から代表に5人入ったのですが、僕は外れてしまってチームに残りました。
その時だけは本当に悔しかったですね。同じチームメートなんですけど、代表組に絶対負けないと誓って、彼らが代表から戻って来た時に自分の方が上手くなっていてやる、と思って練習していました。その笹倉怜寿や平岩玄は今はアルバルク東京にいるので、あの2人に負けたくないという気持ちは今もモチベーションになっています。
──ちなみに、京都を選ぶまでの経緯はどんなものでしたか?
去年の6月、大学の新人戦の時ぐらいに教育実習で洛南に行ったんです。その期間に練習する場所がなかったんですけど、そこで永吉(佑也)さんに誘ってもらって、練習に参加させてもらってワークアウトを一緒にやったりしました。その時に良いチームだと思ったし、(浜口)炎さんが熱いヘッドコーチだと分かって、京都を選ぶことになりました。バスケに情熱があるコーチという意味では、炎さんと陸川(章)コーチは似ていると思います。
ハンナリーズの先輩たちもみんな良い人なんです。アドバイスをくれるのはもちろん、僕が加入していきなりプレータイムをもらっている中で、少しは不満を持つ人がいてもおかしくないのですが、それが全くありません。みんなエゴがなくて優しくて、「思い切りやってこい」という感じで僕の背中を押してくれる先輩たちの存在はありがたいです。
「泥臭いプレー、元気を与えられるプレーを心掛ける」
──今週末からリーグ再開です。これだけインパクトのある活躍を見せたら対戦相手は寺嶋選手のプレーを研究してくるわけで、今までよりも難しくなることが予想されます。
そうですね。全チームが分かっていると思いますけど、僕は右ドライブが多くて、左になるとキレが落ちちゃうので、左がもっと上達しないとこれから苦しくなります。ですが、いくら相手が分かっていてもスピードで上回ればどうにもできないし、その部分には自信があります。逆に、左のドライブが弱点と分析されるのが分かっていれば、こっちはその対応がしやすいとアシスタントコーチに言われました。それは逆に有利にもなると。そういうところは出していきたいです。もう一つは3ポイントシュート。3ポイントの確率がもっと上がればより怖い選手になれると思います。
──リーグ再開が決まるまで、チームはどんな雰囲気でしたか?
いつ試合があっても行けるぞ、という気持ちはみんなが持っていたと思います。良い雰囲気でありながら、みんな試合モードでした。
──無観客でのリーグ再開をどう受け止めていますか。
僕は観客がいた方がモチベーションが上がります。気持ち的にも楽しいですし。プロになってブースターの声が本当に力になると体験したところだったので、実際にその場に立ったら寂しさを感じるでしょうね。でも逆に、観客がいることのすごさがまた分かると思うし、良い機会にしなきゃいけないと思います。
僕は良いプレーでお客さんが盛り上がってくれたら自分も調子に乗るというか、どんどん良くなっていくタイプです。しばらくは観客不在のプレーになりますが、見られていることを意識して自分で上げていくようにしていきたいです。
──ハンナリーズの試合を、寺嶋選手のプレーを楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。
4月1日までは無観客での試合なので、皆さんはライブ中継で見ることになりますけど、画面越しでも皆さんに元気とか勇気を与えられるプレーをしたいです。泥臭いプレー、元気を与えられるプレーを心掛けていきます。ここからは1戦1戦が大事なので、絶対に勝てるように頑張っていきます。