文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

「しっかり中にアタックしようと考えていました」

「最初、入りは重たい展開になってしまったんですけど、途中から日本らしいバスケを取り戻して、前半が良い形で終わって後半にも日本らしいバスケができて、本当に勝てた試合だとは思うんですけど、最後の最後でやられてはいけない相手にやられてしまったので、そこは反省で次につなげていきたいです」

試合後の会見に呼ばれた比江島慎は、どの質問にもじっくり言葉を選んでから答えた。無言の間には、直前まで行われていた試合のシーンが脳裏に蘇っていたのだろう。比江島はベンチスタート。試合開始から5分、ターンオーバーから走られダンクを決められて3-8、重い展開を破られた瞬間に指揮官フリオ・ラマスは迷わずタイムアウトを要求し、比江島をコートに送り出した。

比江島はベンチから展開をこう眺めていた。「最初はシュートが入ってなかっただけというのもありますが、コーチはペイントエリアにアタックすることを求めているので、ゴールにアタックしようと。外で単発で打つんじゃなくてしっかり中にアタックしようと考えていました」

国際試合の雰囲気に飲まれ、他の選手が思うようにプレーできない時間帯、比江島が個人技で得点をつなぐ。フィリピンの14-0のランをフリースローでの初得点で断ち切ると、連続得点で流れを引き戻す。続く第2クォーターはエンジン全開、9得点を挙げて日本に逆襲の流れを呼び込んだ。

流れを断ち切られた一撃に「悔いが残っています」

試合前から「フィリピンには付け入る隙がある」と語っていた比江島。実際、試合前の準備が形になったという手応えはある。「前回から中心選手が変わってはいなかったのでウイリアムズとブラッチェのところをしっかりチーム全員で守る意識は練習からやってきて、守れていたと思います。フィリピンはやっぱり戻りが遅かったり、ピック&ロールであまり出なかったりというところはしっかり攻めることができた。そこに関しては良かった」

個人としても「勝負どころの4クォーター目では仕事はできなかったと思ってるので満足はしていないんですけど、流れを持って行けた部分は良かった」と収穫がなかったわけではない。

それでも、善戦ではなく勝利が必要な試合だった。そして実際に勝てない試合でもなかったはずだ。「第3クォーター、第4クォーターで僕らの時間帯はあったし、そこで勝ち越すことができれば、自分たちの時間帯がもっとあれば良かったと思いますが、相手に流れを止められて、そこは一枚上手でした」

比江島が最も悔やんだのは残り1分15秒、富樫勇樹の3ポイントシュートで69-72と1ポゼッション差へと詰め寄った直後のディフェンスのシーンだ。ジェイソン・ウィリアムズに付いた比江島が寄せ切れず、痛恨の3ポイントシュートを返されてしまったのだ。これまで以上に長い沈黙でそのシーンをたっぷりと反芻した後に比江島は言う。「自分がスイッチしてウィリアムズに3ポイントシュートを決められて、そこは『ノースリー』と言われているのにやられてしまって、悔いが残っています」

この時点で比江島のプレータイムは30分を超えていた。試合開始5分で投入された後はほとんどの時間でコートに立ち続け、誰よりもアグレッシブに攻守を支えていた。あそこで一歩寄せきれなくても誰も比江島を責められないが、彼だけは自分を責めた。

今までの負けパターンからは脱却、敗戦をプラスに

「勝負どころでパワープレーをやられたり、リバウンドを取られてそのまま押し込まれたりというのが今までの負けパターンだったと思うんですけど、今日は最後の最後までファイトし続けましたし、リバウンドも争いましたし、ルーズボールもしっかり戦えたと思います。そこは良くなっているんじゃないかと思います」と比江島は言う。

代表経験の長い比江島にとって、そのほとんどは『負けてきた経験』だ。それでもここに来て変化は感じられている。ここで本当の意味で変わることができるか、それともまた一歩後退してしまうのか。日本代表にとっても比江島にとっても、このフィリピン戦の惜敗をプラスに変えることができるかどうかが、その後を大きく左右する。