B1屈指の人気を誇る琉球ゴールデンキングスは、2年目のシーズンに優勝を目指すべく大型補強に踏み切った。人気と実力を兼備したビッグクラブへと飛躍する大勝負を任されたヘッドコーチは、33歳の佐々宜央。状況は変わりつつあるが、まだまだ実績を残した選手がコーチになるケースが多い日本のバスケ界において、選手としての実績はほぼ皆無ながら、大学とトップリーグで勝利を重ねてきた佐々は異質な存在だ。コーチ一筋のたたき上げである佐々のチャレンジを『バスケット・カウント』は追いかけていきたい。
1984年5月13日、東京都出身のバスケ指導者。東海大の陸川章、日立の小野秀二、栃木ブレックスのトーマス・ウィスマン、日本代表の長谷川健志と錚々たる指揮官の下でアシスタントコーチを務め、この夏に琉球のオファーを受け入れヘッドコーチとして独り立ち。「今いる選手の技術や心を含めてチームを作っていく」とポリシーを掲げる。
早いものでレギュラーシーズンも約4分の1となる17試合が終了。名古屋ダイヤモンドドルフィンズにホームで連勝し、今シーズン12勝5敗とした試合後、佐々ヘッドコーチにシーズン序盤戦を振り返ってもらった。
目の前の試合にフォーカスし「1試合1試合が必死です」
──今日(11月19日)の勝利で連勝を5に伸ばしました。これで11月4日のレバンガ北海道戦、ホームで26点差での大敗を喫してから負けなしです。あの敗戦から何か変えた部分がありましたら教えてください。
毎試合ゲームプランを立てて試合に臨みますが、向こうに試合の流れを持っていかれると、やるべきことが結構抜けてしまう。それでゲームプランが遂行できなくなったのが、あの北海道戦でした。その前までは経験の少ない選手がいる中で、我慢の選手起用をしていたんです。でもあの北海道戦で「これ以上我慢したらドツボにハマっていくな」と。そこからチームとして何をしないといけないのか、しっかりフォーカスできている選手を出すことを一番に重視する。今までは試しすぎていたのかなと、自分の中ですっきりした部分があります。
──中断期間を前に12勝5敗という成績について、率直にどう感じていますか。
何勝何敗でいけたらいいなといった計算を全くせずにいて、1試合1試合が必死です。前も言いましたが、最悪でもないし最高でもないという状況です。現状としてよくやっているとは思いますが、ただやっぱり目の前の試合はいつでも勝ちたいです。今、上位陣とやった時に戦えるかという自信はまだないので、上位陣ともしっかり戦えるようにしなければいけないです。
ここまでを振り返ると、島根戦での2連敗について言われることが多いですが、この2試合の結果は僕の責任です。ディフェンスはがっつりハマりましたが、僕のゲームプランが良くなかった。ただ、言い訳に聞こえるかもしれないですが、あの敗戦があったからこそ次の京都に勝ち、千葉戦でも1試合目の敗戦から修正して2試合目に勝てた部分はあると思います。
もし、島根戦で1勝でもしていたら、修正すべき点をしっかり把握できなかったかもしれません。そう考えると、結果的には島根との連敗があってもなくても、勝敗数は多分そんなに変わってなかったと。また、あの連敗があるから、今もずっと危機感を持っています。どこで悪い方向にハマるか分からない。次、もしかしたらオールジャパンのところか、リーグ戦再開後の横浜戦でハマっちゃうかもしれないと、毎日ドキドキしています。
ヘッドコーチの醍醐味は「決断の重さ」
──ヘッドコーチを実際に務めることで、アシスタントコーチとの違いは何だと思いますか。
ゲームプランや戦術の策定は、アシスタントコーチの時からずっとやっていました。ただ、ヘッドコーチになると自分が最後に起用を決断した選手であり、プレーが結果になるわけで、その重みはすごくあります。自分の中で、こういう決断を不得意だと思ってないですが、それでも試合前の緊張感はすごいですね。
しかし、だからこそ北海道戦で吹っ切れることができました。自分が求めているところで筋を通して選手交代しないといけない。あとはプレーのデザインもありますが、それは経験して培ってくるものなのかなと。ただ、ヘッドコーチで一番違うのは決断の重さです。それがヘッドコーチの醍醐味でしょうが、自分はそれを楽しいと思えるまでには至っていないですね。
──吹っ切れたというのは、逆に言うとそれまでは『情』もあったということですか。
「ここで交代したら、あの選手は落ち込むだろうから変えない」ではありません。レギュラーシーズンをトータルで考えた時に使い続けたほうがいいのか、交代したほうがいいのかを考えて、というところです。正直、今もこの点については考えていますが、目の前の試合でやるべきことをしっかりできている選手にフォーカスしたほうがいいと思います。
「危機感を持ちながらやっていきたい」
──シーズン開始からここまで、どういう1カ月半でしたか?
1つ勝つのに必死でありながら、かと言って60試合も見ている。何か矛盾していますが、めちゃくちゃ濃いです。どうしたらいいのか本当に考え抜いた末に、今やっているバスケは超シンプルです。そして北海道戦の2試合目くらいから、ちょっとずつこういった感じでもいいのかな、となってきています。
──これからは削ぎ落としてきたものをまた肉付けしていく段階になる、ということですか?
そういう感じです。あまりにもシンプルすぎると今度はまたスカウティングされて潰されてしまうので、組織としてもう1段階上がっていく。また、古川も戻って来て、個々のレベルアップも必要になってきていると思います。ちょうど4分の1ですけど、今は第2ステージに入ってきました。他のチームもそうやってレベルアップしていきますし、いつドツボにハマるか分からないリーグなので、それだけは危機感を持ちながらやっていきたいです。
──チームが変わっていく中、佐々さん自身の変化は感じますか?
1カ月半前よりは少しずつ自分自身でも経験を積んでいるという感覚があります。ただ、自分が大事にしたいところとか、やらないといけないところはブレていないですね。ただ、まだ経験が少ない分、最初の時期は劣勢になると、自分の判断がちょっと弱気だったり、抑え気味になったことはありました。
でも今はさっき言った北海道戦が自分の中で一番大きいですね。あそこで吹っ切れたというか、迷っちゃダメだと痛感しました。やっていることは変わってないですけど、決断力の部分については非常に北海道の2試合が大きくて、ターニングポイントだったかなと思います。
キングスを率いる佐々宜央の『下克上戦記』
vol.1~「バスケのために」で選んだ東海大、学生コーチへ『予想外』の転向
vol.2~「任せてくれる」陸川章監督の下で奮闘した学生コーチ時代