文=鈴木栄一 写真=鈴木栄一、野口岳彦

Bリーグがスタートして大きな注目を集めるようになった日本バスケットボール界だが、まだ様々な面でプロとしての取り組みで先行する野球やサッカーに遅れを取っているのは事実だ。中でも『世界に通用する選手やチームの輩出』に向けた環境整備は課題が多く、B1でも自前の練習施設を持たないチームは決して少なくないのが現状である。そんな中、リーグでも恵まれた練習環境を有しているのが川崎ブレイブサンダースだ。もともとは東芝の企業チーム。現在も川崎の東芝小向事業所にある体育館を借用しており、チーム練習だけでなく自主練やトレーニングにも使用できる。

また、体育館から目と鼻の先にあるクラブハウスは2年前に完成したばかり。アスリートのための栄養が考えられた食事を提供する食堂、大きなロッカールームに大浴場などが備わっており、クラブハウスには選手寮も併設されている。今回はここで寮生活を過ごす野本建吾、谷口光貴の同期コンビに、『プロバスケ選手の暮らし』について語ってもらった。

谷口「寮で食べるようになって半年で10kg増えました」

──同じ1992年生まれの同期ですが、川崎で一緒になる前から面識はありましたか? お互いの印象はどんなものですか?

谷口 高校、大学と顔は知っていましたが、話すような間柄ではなかったです。実際に同じチームになったら、結構抜けているヤツだなと思いました。
野本 真面目ですね。おしゃべりですけど話にオチがない(笑)。あとはマイペースです。

──もともとずっと寮生活でしたか?

谷口 高校(洛南高校)は、奈良の実家から片道1時間半くらいかけて通っていました。大学(中央大)では運動部の大半が入る300人くらいの寮にいました。
野本 中学、高校(北陸中学から北陸高校)と寮生活でしたが、大学(青山学院大)のバスケ部には寮がなかったので一人暮らしでした。

──東芝に入社した時は、この新しいクラブハウスはまだできていなかったですよね?

野本 入った当初は、この近くにある古い建物でした。
谷口 僕の場合は『古い』という印象はなかったです。大学の寮がすごかったので……。
野本 不自由なく住むことはできていましたね。
谷口 当時は風呂とトイレが共同で、それぞれの部屋に洗面台という形でした。今は各部屋にシャワー、トイレ、洗面台がついています。

──栄養管理をしてくれる食堂はアスリートとして重宝しているのではないかと思います。大学時代と比較して、やはり変わるものですか?

谷口 大学時代は寮でしたが、食事が出るわけではないので自炊していました。とりあえず米を炊いて、肉を適当に炒めて味付けを濃くして食べる感じでしたね。学生の頃はどれだけ食べても体重が増えなかったのですが、寮で食べるようになって半年で10kg増えました。食べている量はそんなに変わらないのに、栄養を考えた食事にするだけでこれだけ変わるのかと驚きました。
野本 僕は体重の変動はそこまでないですが、身体が強くなって風邪を引かなくなりました。それこそ、お通じも良くなっていて、食生活がいかに大事かを実感します(笑)。大学の時は生活自体が規則正しくなくて、朝は近くのコンビニで買ったおにぎりとかパン、練習後は帰りにチェーンの定食屋に寄るみたいな感じでした。

野本「便利すぎて、これ以上のところがあるのかなと」

──寮生活、部屋での『こだわりの逸品』はありますか?

谷口 アクアリウムですね。いつも部屋ではソファーに座って録画したテレビ番組を見るか、アクアリウムをぼーっと眺めて癒されています。アクアリウムは家族の影響です。親が昔からやっていたのと、昨シーズンに秋田でのアウェーゲームに行った際、兄貴(谷口大智)もやっているのを見て、自分も始めました。
野本 僕はベッドです。普通のベッドだと大きさが200cmぐらいで、僕の場合だと枕を置くとサイズが足りなくて足が出るんです。今までは斜めになって寝ていたのですが、全身が収まるベッドに変えたら今までとは全然違って、すごく疲れが取れます。

──寮生活のトラブルもあると思います。いくつか教えてください。

谷口 オフシーズンに帰省して1週間ほど留守にした時、水槽の水温が上がってしまって。6月だったんですが悪臭が出ていて。魚はなんとか生きていましたが、だいぶ弱っていました。
野本 あの時の臭いはひどかった(笑)。
谷口 あと小澤(智将)が鍵を持たずに外に出て、朝早くにクラブハウスの前に1時間半くらい立ち往生していたことがありました。僕たちに電話したらしいのですが、朝の6時台だったのでみんな寝ていて、全く気付かず。
野本 鍵を失くしたことは僕も前に一度ありました。電話しても誰も出ないんですよ。近所を1時間ぐらいウロウロしていました。

──何でも揃っている印象のあるクラブハウスですが、一番恵まれている部分は?

谷口 まずは食事、それと練習環境の近さ。いつでも体育館で練習できるのは助かります。
野本 他のチームの環境があまり分からないのですが、階段を下りれば食事があるのは恵まれていますよね。体育館もトレーニングルームもチーム練習が休みの日でも使える。お風呂も大浴場に水風呂まである。便利すぎて、これ以上のところがあるのかなというくらいです。移動時間も短くて、その分を休息にあてられるのもありがたいです。
谷口 要望を挙げるとしたら……もう1部屋欲しいですね(笑)。
野本 強いて言うなら駐車場と駐輪場に屋根が欲しい。バスケの環境については文句なしです。

「チームに貢献して優勝することが一番の幸せ」

──Bリーグ2年目のシーズン、若い2人への期待が高まります。

谷口 今シーズンから年下の選手(小澤、ジュフ・バンバ)が入ってきたので、もっとしっかりしなければいけないですね。それが良い刺激になっている部分もあります。
野本 新しい選手が入って来るなど変化がある中で、それに対応できるよう自分の持ち味を出したいです。あとは何だろう……(沈黙)。
谷口 いいよ、今は自分の持ち味が出てる(笑)。
野本 あとは積極的なプレーを見せたいです。チャンスのシーズンだと思っているし、それを無駄にしないよう良いスタートを切りたいです。
谷口 それは間違いなく感じているし、楽しみにしています。普段のトレーニングからより細かいところまで意識することにつながっていると思います。

──最後に今シーズンの目標をお願いします。

谷口 昨シーズンにファイナルで負けたことは誰も忘れていません。今シーズンに懸ける思いは強いです。個人的には思い切り良く、楽しんでプレーしたい。まずは結果について考えすぎることなく、自分ができることをしっかりやって、チームの力になって優勝するのが目標です。
野本 昨シーズンは悔しかったので、このチームでの自分の役割が何かを考えて実行していきます。チームに貢献して優勝することが一番の幸せなので、それに向けて走っていきます。

谷口光貴
15 SG

ジャンプシュートに加えドライブも武器で、オフェンスのポテンシャルでは主力にも引けを取らない。ディフェンスの波を減らし、プレータイムを得られれば2桁得点も十分可能なオフェンスは魅力。
野本建吾
11 SF/PF

2メートルと長身ながらアジリティを備え、外国籍選手にも当たり負けせずアタックできるダイナミックなプレーが持ち味。昨シーズン終盤からプレーに迷いがなくなり、北卓也ヘッドコーチからの期待も大きい。