文=大島和人 写真=B.LEAGUE

B1昇格により西宮市立中央体育館は大盛況に

筆者にとっては5月12日以来の西宮だった。西宮ストークスは同日のB2プレーオフ準決勝で群馬クレインサンダースを下し、B1昇格を決めている。西宮は決勝でも島根スサノオマジックも退けて、B2初代王者に輝いた。

9月30日、JR西宮駅を降りてバス乗り場へ出た瞬間に、去年との『違い』をはっきり感じた。緑のウエアを着た観戦客が多く、バス停に列ができている。西宮市立中央体育館はなかなかの好アクセスで、JR西宮、阪急の西宮北口駅から徒歩圏内にある。ちなみに阪神西宮駅からも1時間に5本程度のバス便がある。座れないならバスに乗る意味もなく、筆者はそのまま徒歩でアリーナに向かった。

西宮は2016-17シーズンの平均観客数が1061名とB2中位レベル。昇格が決まった試合も1702名だった。ただ、B1に昇格すれば話が違う。開始1時間半前からアリーナの入り口付近、特にグッズ売り場は大行列になっていた。若干の当日券販売はあったものの、アリーナは最終的に満員札止め。西宮の緑と、そこに千葉ジェッツの赤が若干混ざって、最終的には2693名の大入りになった。2階自由席の後方通路には立ち見も出る状態で、関係者席も記者と選手の家族が入り混じって大混雑だった。

ティップオフ前には銘酒『大関』の樽がセンターサークルに持ち込まれて、鏡割りが執り行われた。西宮市長の今村岳司、大河正明Bリーグチェアマンだけでなく、アウェーチーム千葉の富樫勇樹選手もノリノリで法被に袖を通していた。

千葉ジェッツ相手に健闘するも黒星スタート

前半のスコアは38-47。西宮は悪くない戦いをしていた。シュートを沈めまくっていたのが谷直樹だ。第1クォーター残り8分28秒に3ポイントシュートを沈めると、ハーフタイムまでに13得点を決める大活躍だった。谷は昨シーズンのB2でも日本人2位となる1試合平均13.3得点を記録しているシューター。ただ本人が「みんなでボールを回してずれを作って、たまたま空いて僕が決めただけ」と振り返るように、彼の得点量産はチームオフェンスが機能した結果だった。

千葉の大野篤史ヘッドコーチはこう振り返る。「西宮はキャッチ&シューターが多いチームで、前半は苦しめられた。後半はしっかりポイントを絞ってディフェンスするように選手に伝え、しっかりアジャストできた」

西宮は第3クォーターに11-23と突き放されてしまった。谷は最終的に18点を挙げ、コナー・ラマートも17得点11リバウンドの活躍を見せている。しかし西宮は70-86というスコアで開幕戦を落とした。ちなみに翌日の第2戦も72-93と敗れ、連敗スタートとなっている。

千葉は昨シーズンの天皇杯王者で、開幕直前にマカオで開催された『The Super8』も制するなど、実力はB1屈指。そういう相手に西宮が敗れることは決して不思議なことでない。ただ試合後の天日謙作コーチ、各選手は一様に悔しさを感じさせる硬い表情で取材に応じていた。

「どれだけ粘れるかが僕たちの持ち味」

天日コーチは「ディフェンスは良いところありましたよね」と述べつつ、「サイズでリバウンドを取れないところもありました。オフェンスはあまり良くなかったです。自分たちのプレーをしないで1対1、ピック&ロールで何とかしようとしていた。そこは改善点」と口にしていた。

梁川禎浩もこう振り返る。「僕たちのターンオーバーから相手に走られてしまって、良い流れで相手のやりたいようにやられてしまった。オフェンスで点の取れない時にディフェンスでどれだけ粘れるかが僕たちの持ち味だと思うけれど、それをできなかったのが今日の敗因」

しっかりとスペースを取って、ボールを動かすことが西宮の狙いだ。その上で「自分たちのプレー」ができない時間帯にどれだけ粘れるかが試合のカギになる。西宮のプレーをする時間を増やし、相手のプレーをさせる時間を減らす。西宮がB1で生き残り、目標とする勝ち越しを成し遂げる方法を簡単に要約するならそういうことだろう。

天日コーチは目指すバスケを問われてこう答えていた。「1人でやらない。いつも5人で、チームでやるチームが僕らの目指しているところ。そこに尽きます。何が起こってもみんなで」

梁川はこう語った。「僕たちは個々のプレーで勝っていけない。B2でも個々ではなくてチーム全員で勝っている。B1に上がってもパスを回して、味方を信じてというのが、難しいですけどすごく大事になってくる」

西宮が目指すバスケは変わらないし、開幕戦の敗戦はその信念をむしろ強める結果だった。

チームも運営もまだまだ、大いに学ぶ1年に

梁川は昇格を決めた直後の取材で「Bリーグができて何か変わりましたかという質問をよく受けるけれど、B2にいる限りはあまり感じない」と口にしていた。しかし昇格が決まって4カ月半が過ぎて、変化を実感している。「今日もそうですけれど、B1に上がることでお客さんがすごく増えて、選手としてはやりがいを感じます。昇格してからの何カ月間だけでも、すごく変化があったので、B1に上がったんだなというのは感じます。メディアの対応は、正直すごく変わりました」

開幕戦の対戦相手だった千葉も2011年に創設され、そこからbj、NBLで低迷していた時期がある。しかしそこからBリーグ有数のビッグクラブに成長した。

西宮の成功が保証されているわけではないが、『産みの苦しみ』は当然あるだろう。コート内の強化はもちろん、経営規模もまだB1最少レベル。アリーナは2022年、もしくは23年に新施設へと移る予定だが、西宮中央体育館は明らかに手狭だ。物販、取材などに使えるスペースは驚くほど狭く、間違いなくB1最少だろう。

ただ、クラブがこの1年間で学ぶことは間違いなく大きいはず。西宮は未来に向けて、非常に大きな一歩を踏み出した。