Bリーグ開幕を1週間後に控え、各チームとも準備に余念がない。千葉ジェッツは昨シーズン、天皇杯を制してリーグでも台風の目となり、NBLラストシーズンの8位から大きな飛躍を遂げた。大野篤史ヘッドコーチが掲げ、富樫勇樹を中心に実践する『堅守から走るバスケット』を新シーズンも継続。スタイルは変えないまま、何人かの選手を入れ替えてレベルアップを図る。そのための編成がどのような考えの下で行われたのか、島田慎二代表に話を聞いた。
千葉ジェッツ 島田慎二代表が語る2017年夏のチーム作り(前編)
「攻めの投資、そこはガンガン行っています」
「チームとして戦えるメンタリティを持った選手を集める」
──決算の話が長くなりましたが、経営的には好調な中でBリーグ2年目のシーズンに向けた編成がありました。チームが結果を出していることを受け、あまり選手を入れ替えない継続路線となりました。編成を進める上での方針はどんなものでしたか?
私も佐藤博紀GMもコーチ陣も、基本的に昨シーズンやってきたことの積み上げで行こうと考えました。ディフェンスを頑張ってアップテンポで走るバスケットを目指して、その形はできたのですが、最後に栃木ブレックスに負けたようにチームの一体感に脆弱さが出てしまったのが昨シーズンでした。スタイルは継承しつつ、チームとして戦えるメンタリティを持った選手を集めていこうという方針です。
なおかつ「もっと走る」ということを考えました。ヒルトン・アームストロングは素晴らしいセンターで、ディフェンスの面で評価はリーグトップクラスだと思いますが、ギャビン・エドワーズとトニー・ガフニーと契約しました。
──エドワーズ選手とガフニー選手については、どういう基準で選んだのでしょうか。
まず外国籍選手について、3人のうち2人は日本での経験がある選手で組みたいと考えました。マイケル・パーカーは帰化選手ですが日本で長くやっています。もう一人、日本にいてインサイドで走れて、ウチのバスケットにフィットする選手を想定した時に、圧倒的にギャビンだというのがありました。シーホース三河にいる以上は給料も高いし、そう簡単に手放すとは思っていなかったのですが、そこは運が良かったです。
彼は頑張るしクレバーだし、そして冷静ですよね。三河とは大きく違うので戸惑うところもあるかもしれませんが、栃木とのセミファイナルでも最後までめっちゃ走っていました。ああいうプレーに期待したいです。
──ガフニーはいかがでしょうか。
いろんな選択肢がある中で、もっとインパクトのあるビッグネームにも当たっていたのですが、「こういう選手がウチには必要だ」という部分に一番フィットしたのが彼です。エナジーがあってディフェンスが良くて走れて、とにかく下がらずボールに絡んでいける選手です。
──そして日本人選手としてはアキ・チェンバースが入りました。
ディフェンスが良くて走れる選手ですし、シュートもあります。ただ一番のポイントはリバウンドです。走るバスケをする千葉には重いインサイドがいないので、どうしてもリバウンドで分が悪いところがあります。その時にインサイドじゃない3番や2番の選手がリバウンドを取って高さの弱みを補ってくれると期待しています。
「Bリーグチャンピオンは忘れ物として置いてきた」
──今夏の編成では、選手の獲得以上に選手を残すことが大変だったと思います。
おっしゃる通りで、引き抜き合戦があるから選手を押さえるほうが大変です。だから、そういう意味でウチはよく頑張りましたよ。それだけでも強みなんです。基本的に今起きているのは戦力の流動化で、NBLの上位チームから他のチームに選手が流れて標準化されていくわけです。良い意味で戦力が分散していっているのが今です。ただ、Bリーグとしては戦力均衡は良いことですが、クラブの立場からしたら戦力をキープする必要がある。そこで守ることができたのはすごく良かったです。
──千葉の選手に他のクラブが目を付けた場合は交渉の事前連絡が来ると思いますが、結構な数が来たんじゃないですか?
レターも来るし、最後のほうは電話も来ます。実態としては裏で選手に直接連絡することもあるかもしれません。そこまで含めると結構あったはずです。当然、選手を残すには経済力も必要になるので、そこで選手を残すことも経営者の責務だと思っています。
オファーが来たとして選手がどちらを選択するか、判断材料はたくさんあります。試合に出たい、勝てるチームでやりたい、首都圏とか地元でプレーしたい、給料がもっと欲しい……。我々としてはお客さんにたくさん来てもらって「こんな環境でプレーしたい」と思わせる努力はしています。ただ、一番のポイントは信頼関係になります。私はたまにTwitterに上げているんですけど、選手を家に呼んでご飯を食べたりしてコミュニケーションを取っています。GMの立場を佐藤に渡したので今はあまりやっていませんが、悩みを聞いたり励ましたり、お金の話もしています。そういう信頼関係は大きいと思います。
選手を慰留するにしても、「残留して日本一を目指そう」といくら口で言ったって、「ヘッドコーチは自分を使ってくれるのかな?」と思うかもしれない。そこに信頼関係がなければ何を言っても無理なんです。そこは丁寧に努力していたつもりです。
──しかし、判断材料がプレータイムになると苦しいのでは? 例えば西村文男選手の場合、他のチームが狙うとすれば「先発で使うよ」と口説くはずで、そうなると千葉への愛着や島田代表との信頼関係があったとしても『プロとしての決断』で移籍してもおかしくないところです。
西村の実力ならどこに移籍しても先発で使われるでしょうが、それでも残ってくれました。彼がいろいろ考えるのは当然です。ただ、それでも残留した決め手は何かと考えれば、一番は優勝できなかったからかもしれないですね。
今でも「自分が主力としてチームを勝たせたい」という気持ちはあると思います。昨年は天皇杯は優勝できましたが、Bリーグチャンピオンにはなれなかった。ケガで泣いたシーズンでもあったので、次は自分の実力でチームを勝たせたいという気持ちが残留の大きな理由ではないかと想像しています。また、もし優勝していたら「一つのことを成し遂げたから次に進む」というのもあるかもしれません。
──なるほど。むしろ優勝を逃したことが編成面でプラスに働いたかもしれない、と。
逆にウチは優勝が狙えるメンバーでここまで来て、天皇杯は取ったけどBリーグチャンピオンは忘れ物として置いてきた。それを取らなきゃいけないという意識が強いんだという気がします。B1とB2の36クラブのうち、昨シーズンに上位に食い込んだ千葉ジェッツから出て別のチームに行って、本当に優勝できるかどうか。プレータイムを得ることはできても、忘れ物は手に入れられないんじゃないか……。もちろん、考え方はそれぞれあると思いますが、みんな冷静に考えて判断したんだと思います。
「タイトルも売上も目指しますが、それは当たり前の話」
──それでは最後に、新シーズンの千葉ジェッツとしての目標をどこに置きますか?
一言で言うと『ハイクオリティ』です。ゲームの質、エンターテイメントの質、ホスピタリティの質、この3つを総じて質と言っています。今のジェッツというクラブで成し得る最高のものを提供したいという思いがあって、もちろんタイトルも売上も目指しますが、それを成し遂げるためのものが質です。
ゲームではアップテンポな走るバスケットで、勝ち負けだけじゃなくて『魅せて勝つ』ことにこだわります。そうやって、また観たくなるようなバスケットボールを見せることを目指します。エンターテイメントの面では、今回は億単位で投資しています。今までは『ここぞという1試合』にお金をかけていましたが、それ以上にド派手なものを全30試合でやって、来てくれた人を別世界に誘うようなことを考えています。また、お客さんが増えたことでどうしてもスタッフが足りなかったのですが、ここも投資をして増やしました。雇うだけじゃなく、私が全員を研修して配置します。意をともにしてサービス水準を『ジェッツスタンダード』にして、それを浸透させてホスピタリティを上げます。
──チームが勝つだけでなく、経営的にも勝つための戦略ですね。
魅力的な選手が魅力的なバスケットをする、非日常的を体験できる空間作りがされている、気持ちの良い対応をするスタッフが出迎えてくれる。その3本柱をしっかりやる状況を作れば、当然「また来たい」と思ってもらえる確率が上がります。それは結果として経営的にも良くなるということです。
その3つで具体的に何をやるのかというのも、マニフェストとして事前にすべて公開しようと思っています。有言実行のジェッツらしく、そういうチャレンジをしていくので、今シーズンも期待してください。