コンセプトは「得点はさておきディフェンス」
Bリーグ初年度から3シーズン続けて横浜ビー・コルセアーズは苦しみながらもB1残留を果たしてきた。土壇場でのしぶとさは評価できるとしても、3年連続の低迷は褒められたものではない。その悪い流れを断ち切り、もっと上のレベルを目指せるチームになるために、今オフにチームは大改革を敢行した。若手の抜擢はこれまでも進めてきたが、今回はさらに一歩踏み込み、これまで主軸を担っていたベテラン選手たちを一挙に放出したのだ。
B初年度から主力だった川村卓也、細谷将司、高島一貴が退団。湊谷安玲久司朱は現役引退。彼らに比べると実績では見劣りする若手が主力を占めるチームとなった。この改革には懐疑的な声もあったが、いざ出港してみれば開幕節でレバンガ北海道に2つ続けて接戦を落とす厳しい出だしから踏ん張って5勝6敗。内容を見ても、近年では最も良いスタートとなっている。
横浜の改革はどのようにして行われたのか。チーム編成の責任者である河内敏光GMに聞いた。かつて選手と監督の両方で日本代表に携わった河内は、その後に日本初のプロバスケチームである新潟アルビレックスを立ち上げ、さらに日本初のプロバスケットボールリーグであるbjリーグのコミッショナーを務めている、まさに日本プロバスケ界の礎を築いたパイオニアだ。
Bリーグ誕生に伴いbjリーグがその歴史に幕を下ろした後は、Bリーグのテクニカルアドバイザーを務めていた。その河内が横浜のGMに就任したのは昨年の9月。しかし、この時には昨シーズンの編成は終了しており、イチからチーム作りを行ったのは今オフが始めてだ。
河内GMはまず、次のコンセプトで選手獲得に動いたと言う。「オフェンス、ディフェンスの両方に優れた選手を取れるかと言われたら難しい。では、どちらを選ぶなら今年はディフェンスができて、足が動く選手にフォーカスしました。今までは点数を取ってディフェンスを頑張っていましたが、今シーズンは得点はさておきディフェンスを頑張り、相手を70点以下に抑えることで勝機が出てくる。そんなチーム作りです」
「フォア・ザ・チームに徹することができる選手を」
この守備重視は、指揮官トーマス・ウィスマンのスタイルとも合致している。もともと、ウィスマンは栃木ブレックスでリーグ随一の堅守を武器に初代Bリーグ王者となった実績を持ち、「ディフェンシブな選手の方がコーチのやりたいバスケットボールに向いている。昨シーズンの反省を踏まえて私を中心に選手の選考をしました」と河内は振り返る。
このとにかく足を動かして激しいディフェンスを続ける。この大きな芯ができたことで、チームの戦いにブレがなくなった。「80点以上をコンスタントに取れるチームではない。そうなると、相手をどうやって70点以下に抑えるのか。そこにフォーカスすることが各選手に浸透してきています」
実際、横浜がここまで勝った5試合のうち4試合は71失点以下。10月23日に勝利した新潟アルビレックスBB戦のスコアは91-85だったが、これは再延長までもつれた結果で、第4クォーター終了時点は71-71と、守って勝つことが結果として出ている。
このディフェンスファーストの基準は、外国籍選手の獲得でも変わらなかった。「ボールを持ったら離さないけど1試合40点取れる選手は、ウチのピースとしては合いません。ディフェンスで汗をかき、フォア・ザ・チームに徹することができる選手を取りました」
チェンバースへの口説き文句は「すべての面で期待」
オフの補強で最大のインパクトとなったのがアキ・チェンバースの加入だ。「ベテラン選手はいなくなりましたが、ガードには田渡(凌)が中心として残ってくれていました。あとはスモールフォワード、インサイドのポジションでも外国人選手を含めて日本のバスケを分かっているキープレイヤーが必要なところに、彼を獲得できるチャンスが来て、ウチとしては絶対に欲しいと声をかけました」
それでも強豪の千葉ジェッツで過去2シーズンに渡って主力を務めた実績があるチェンバースだけに、移籍先の選択肢は複数あったはず。その彼を口説き落とすために横浜が積極的にアピールしたのは、チームの柱として迎えることだった。
「強いチームにいてチャンピオンになることも絶対に必要ですが、弱かったチームに入ってそこをステップアップさせていくことも、今後のバスケ人生においてすごく良い経験になります。彼には外国人選手を含めて中心になってもらいたい。ディフェンスでは相手のエースについてもらうし、得点も頼む。すべての面で期待しているからチームを上昇気流に乗せてほしいと伝えました。そこに心意気、やりがいを感じてくれたのかもしれないです」
結果的にこの熱意が届いて、チャンバースは横浜を選択する。千葉では1試合平均20分前後だったプレータイムが横浜では30分以上に伸び、平均2桁得点(10.3)を記録。もちろん、得意のディフェンスも十分に披露し、攻守に渡ってチームを支えている。まさに首脳陣の期待通りのパフォーマンスで、ここまでの横浜の奮闘に大きく寄与している。
ベースとなるのは「日々の練習の充実」
ここまでの成績について、「理想は北海道に1勝1敗、名古屋に1勝1敗で貯金1、を頭の中では描いていました。ただ、想定していた最低限のところには来ている感じです」と河内は言う。
このように語るのは、オフシーズンの練習からチームの変化に手応えがあったからだった。「ウチの練習場はエアコンがないので、夏場には室内が40度近くになります。その中で昨シーズンの反省を踏まえてファンダメンタルとかいろいろと体力的にキツい練習をしました。それでも選手たちは暑すぎるとか、汗ですべるといったネガティブな雰囲気を出さなかった。まだまだ大丈夫、もっと頑張れるという姿勢でハードに練習してくれました」
「8月の一番暑くて苦しい時でも前向きでした。今日もよく頑張った、明日はもっと頑張れると良い練習の終わり方をしていました。こうして日々の練習が充実していたことで、波があってもこれまでのようにズルズルと崩れはしないという確信がありました」
シーズンが始まった今も河内は、良い内容の練習を継続できていると手応えを得ている。「試合以上に日々の練習で若い選手が毎日どんどん成長しているのを感じています。上手でないかもしれないですが、選手たちは自分たちがチャレンジャーであることを意識して一生懸命に取り組んでいる。練習に行くとワクワクしますよ」
蒸し暑い体育館の中でハードワークを積み重ねた成果は、シーズンが深まり体力的により厳しくなった時にこそ最も発揮されるもの。これから12月にかけ、横浜は川崎と3試合、アルバルク東京、千葉とそれぞれ2試合など強豪との戦いが増えていく。その中でも今の勝率5割付近の成績をキープできるのか大きな踏ん張りところとなる。ただ、ここまでと同じタフなディフェンスを継続できれば、そのチャンスは十分にある。
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— バスケット・カウント (@basket_count) November 6, 2019
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