文=丸山素行 写真=鈴木栄一

「ネガティブなことが何も浮かんでこない3試合」

アーリーカップ『関東』地区の決勝で、千葉ジェッツはアルバルク東京に敗れて優勝を逃した。最終盤までもつれる接戦を落としただけに選手たちは悔しがっているかと思いきや、会見場に現れた富樫勇樹は実に晴れやかな表情で「良い試合だったな、というのしかないです。ネガティブなことが何も浮かんでこない3試合だと思っています」

ほぼコールプレーを使わずフリーオフェンスだけで戦った上での惜敗。順調なチームの仕上がりへの手応えと充実感が、悔しさを上回った。

この3試合、富樫は昨シーズン以上に積極的に仕掛ける姿が目立った。アジアカップ終了後にオフを挟んだことを考えると『試運転』でもおかしくないのだが、もうすっかり仕上がっているようにも見えた。「開幕まであと1カ月、個人的に自分のリズムを取り戻すためにできるだけ多くのシュートを打とうと心がけてアグレッシブにいこうと思ってやっていました。もちろん反省点はありますけどすごく良かったと思ってます」

結果、アーリーカップの3試合いずれも2桁得点。決勝ではゲームハイの20得点を挙げた。

「同世代の2人とやるというのは刺激があります」

新体制になってゼロからのチーム作りとなったアルバルク東京に対し、千葉は完成度で優位にあったはず。そして千葉はホームアリーナの開催とあって勝利への意欲が高かったのだが、それでも押し切られた。昨シーズンとは別レベルの勝負強さを発揮したA東京は、東地区における強大なライバルになりそうだ。

そのA東京の指揮を執るのは日本代表で指導を受けたルカ・パヴィチェヴィッチ。代表の時から変わらぬスタイルに「やりながら懐かしかった部分も少しありました」と言う富樫だが、やはり警戒心を抱いた様子。「練習がすごく厳しいと聞いているので、体力面も今までやった2チームよりかなり違います。同じカンファレンスなのでしっかり準備して戦いたいと思います」

そのA東京ではポイントカードが若返っており、安藤誓哉と小島元基という同世代のライバルと激しいマッチアップを繰り広げた。ただそれも「同世代の2人とやるというのは刺激があります」と富樫には楽しむ余裕がある。一方で、A東京が勝ったにもかかわらず安藤は「いつも通り速くて、プルアップスリーなど何回かやられてしまった。どれだけプレッシャーをかけられるかが勝負」と語り、小島は「正直、速いと思いました。自分のところから崩される場面もあってやられました」と悔しがる。

確固たる自信で開幕前からチャンピオンシップを見据える

現役大学生としてA東京に加入した馬場雄大の話題になると、富樫は「あれはマグレの3ポイントシュートだった。以上です、と言っておいてください」とジョーク混じりで辛辣なコメント。「代表ではずっと一緒の部屋で一カ月半くらい生活していたので」と代表活動で交流を深めた富樫ならではの激励だ。

「本人もアウトサイドのシュートを気にしている部分があるので、あの場面で決めたのは自信になるかなと。違うチームですけど、お互い刺激し合いながら頑張っていきたい」。こう続けた言葉からは、富樫の『兄貴分』としての一面がうかがえた。

もっとも、馬場の加入も込みでA東京の急成長は千葉にとっての脅威となる。両者が所属する東地区はただでさえ群雄割拠だが、それでも富樫は「去年それなりの成績を残せたので、優勝というのはチーム全員が目標に持っています」と、相手ではなく自分たちに対する自信を語る。

「個人的にはシュートのセレクションだったり、もうちょっと質の良いバスケットをしたい。しっかりコミュニケーションを取って、プレーオフに向けて良いチームを作っていければと思います」とすでにチャンピオンシップを見据えている。

この1年で『リーグの顔』へと成長を遂げた富樫は、結果に裏付けられた自信を持っている。去年の開幕時にはなかった余裕、頼もしさも感じさせる。同世代の選手たちと切磋琢磨し、刺激しあいながら、この年代を引っ張る存在としてフル回転する姿が期待できそうだ。