女子日本代表

トランジションバスケに自信、『女王』の意地

堂々のアジア4連覇だった。勝負となった準決勝のオーストラリアに76-64、決勝の中国には71-68で勝利。どちらも序盤は相手の高さの前に重い展開となったが、粘り強いディフェンスが次第に効いてくると連続3ポイントシュートでリズムをつかみ、相手の足が止まったところで走って突き放した。優勝を遂げてトム・ホーバスヘッドコーチは「ウチの選手たちは気持ちが強い。ネバーギブアップでヘッドダウンしなかった」と選手たちの頑張りを何よりも称えた。

「日本は4月から集まって練習をしてきた」とホーバスヘッドコーチが言うように、今大会は準備の勝利だった。その差が顕著に現れたのが大一番となった準決勝だ。オーストラリアは昨年のワールドカップ準優勝メンバーを半数も擁する強豪だが、WNBA参戦のために合流できなかった205cmのセンター、エリザベス・キャンベージの不在を含め、チーム作りが遅れていた。日本としては地道に強化を図り、勝負の試合に準備してきたことを出すチャレンジをするのみ。今回はディフェンスの組織力とスタミナで上回ったのだ。

また今大会は、昨年のワールドカップのベスト8決定戦で敗れた中国を倒すことを何よりの目標としており、中国を倒してつかんだチャンピオンの座は格別だったと言える。リオ五輪後の中国は世代交代に成功し、従来の高さだけでなく走力もつけている。そんなライバル心むき出しの決戦を前にキャプテンの髙田真希は「日本がトランジションゲームで負けるわけにはいかない」と発言しており、アジアのトランジション女王の意地を見せ、走り合いを制した。

狙ってつかんだアジア4連覇。そのプロセスと結果についてホーバスヘッドコーチは言う。「ウチの目標はオリンピックの金メダルなので、この優勝は何よりも経験になる。目標に向かって努力することで一人ひとりがレベルアップしてチームは上達する。このアジア制覇はオリンピックのためにも、本当に大事で必要なものです」

本橋菜子

本橋菜子に赤穂ひまわりがキーマンへと成長

今大会、目を見張る活躍を見せたのが、得点王とアシスト王、さらにはMVPまで受賞した司令塔の本橋菜子だ。本人も「ゾーンに入っていた」という決勝第4クォーターでの11得点(試合を通じて24点8アシスト)は『ナコタイム』と呼ばれるほどのインパクトだったが、彼女が点を取ることは驚くことではない。本橋はワールドカップの中国戦でもチームハイの25得点を叩き出している選手だからだ。

ホーバスヘッドコーチはワールドカップの大会中、初代表で迷いがあった本橋に「ナコの仕事は目の前が空いたら点を取ること」と告げている。この時から本橋は「日本代表では司令塔として周りを生かすことを考えていたけれど、得点を取っていいと気付くことができました」と自分の良さを再確認している。Wリーグで点を取りながらゲームメークする姿を見て日本代表に選出したのはホーバスヘッドコーチ自身。スピードとキラーパスが持ち味の町田瑠唯とはタイプの違う司令塔を欲していたのだ。

赤穂ひまわりも代表でブレイクした選手だ。184cmで機動力のある赤穂の先発起用はサイズアップにつながった。本橋と赤穂に代表されるように、昨年のワールドカップから2年がかりでホーバスヘッドコーチの下で鍛えられた選手たちがキーマンに成長したのだ。こうした選手個々の成長に対して、今大会シックスマンとして貢献した本川紗奈生は言う。「リオの時も良いチームだったけど、今のチームも全員が自分の役割を果たすことができるチームになりました」

渡嘉敷来夢

ディフェンス面で効果が出た、渡嘉敷来夢の代表復帰

そして何より、優勝できた要因は崩れなかったディフェンスにある。7月から合流した渡嘉敷来夢は身体を張ったディフェンスで相手センターを1対1で守り切り、強烈なブロックショットを何本も浴びせた。

今までの日本はサイズ不足からダブルチームで相手センターを抑えに行っては体力を消耗していたのだから、数字に現れない渡嘉敷の貢献は計り知れない。準決勝のオーストラリアに勝利したあと渡嘉敷は「やっぱり日本代表で勝つことは楽しい!」と興奮冷めやらぬ声で喜びを語っていた。

また、髙田と渡嘉敷、長岡萌映子らインサイド陣が状況を判断して何度もスクリーンをかけることによって日本のチャンスは生まれ、インサイド陣がコンタクトの競り合いの中でボックスアウトをすることにより、宮澤や赤穂がリバウンドに跳び込むことができた。

オーストラリア戦では52-45本でリバウンド数は上回り、中国戦では36-37本で1本差だったが、オフェンスリバウンドでは13-9本で上回っている。インサイドのディフェンスにおいては、間違いなく昨年よりも徹底度が増してレベルアップしている。

吉田亜沙美

ポイントガード、オリンピックに向けた熾烈な争い

アジアを制した日本だが、東京オリンピックでメダルを取るためには、まだまだ乗り越えなければならない課題はある。

まず、渡嘉敷はディフェンスでは機能したが、国際大会から3年離れていたせいか、オフェンス力を取り戻すまでにはいかず、優勝には喜びながらも、「個人の出来としては満足していない」と悔しさをあらわにした。世界に出れば渡嘉敷の得点力が必要になるため、ポイントガードとの呼吸をさらに合わせなければならない。これは渡嘉敷だけの問題ではなく、チームのシステムとしてバージョンアップしなくてはならない課題だ。

ポイントガードについては熾烈な争いとなる。アジアカップでMVPを受賞した本橋を筆頭に、オリンピックの経験と卓越したパス能力がある町田がいる。得点力とパスセンス、そしてサイズがある藤岡麻菜美のケガからの復帰も待たれるところ。

そして最大の注目は「東京オリンピックを目指す」と公言して現役復帰を決めた吉田亜沙美の存在だ。ただし経験豊富な吉田とはいえ、代表に選ばれることは簡単なことではない。「吉田は誰をどの場面で生かせるか熟知しているので、その経験はチームにとってプラスになります。ただ、今は良いポイントガードがたくさんいるので競争です」とホーバスヘッドコーチは話す。

女子日本代表

開催国枠を持つ日本も2度の予選に参加、チーム強化へ

今回から五輪予選のシステム変更に伴い、今後は変則的なスケジュールで強化をしていくことになる。11月にはアジアカップ上位8チームによる『五輪プレ予選』が行われ、日本を含めた4チームが年明け2月の『五輪最終予選』に進む。この両予選には開催国枠を得ている日本と、ワールドカップ優勝で出場権を獲得したアメリカも出場する。日本とアメリカはたとえ予選で敗れたとしても五輪に出場できるため、日本としてはこの2つの予選をチーム強化のために使うことができる。シーズン中の代表活動になるが、渡嘉敷は「Wリーグでは自分より高い選手と対戦ができないので、出ることになれば良い強化になる」とやる気をみなぎらせている。

11月と2月のメンバー選考についてトム・ホーバスヘッドコーチは「まずはアジアカップに出たメンバーとは一人ずつ話をして意向を聞き、それから人選を決めたい」とアジアカップ終了時に話をしていた。11月に関しては若手を試して底上げを図る機会にもできるだろうし、シーズン中だけにコンディションも考慮された選考となるだろう。11月から再び代表合宿が始まる時にその方針は明かされる。

今後は選手選考を兼ねながら、さらにチームとしての経験を積み上げていく段階に入った。11月の五輪プレ予選のアジアラウンドはニュージーランドとマレーシアの2会場にて、11月14日~17日の期間内に行われる予定だ。日本はマレーシア会場へ参戦。オーストラリア、チャイニーズ・タイペイ、インドと同じグループに入った。