エース不在の状況をプラスに変えた東芝神奈川
NBLファイナル第4戦、バスケットボールファンで満員となった代々木競技場第二体育館。
試合開始から1分少々、辻直人が早々に2回ファウルしてベンチに下がるという思わぬ立ち上がりとなった。いきなりエースを使えなくなった東芝神奈川にとっては大きなピンチだったが、長谷川技、藤井祐眞、山下泰弘といった選手たちが「自分がやらなくては」と自覚し、これまで以上に積極性が出た点で、このトラブルがプラスに転じた。
逆にニック・ファジーカスと辻を徹底的にケアするつもりだったアイシン三河は、気持ちに緩みが出てしまう。外を見せつつファジーカスをうまく使ってイージーシュートを決めていく東芝神奈川へと、試合の流れは次第に傾いていった。
長谷川は試合後に「辻はこういうことがたまにありますから(笑)」と振り返る。「それでニックにだけ負担を掛けるわけにはいかないので。個人としてやろうとしたプレーや、勝ちたい気持ちはこれまでの3戦と変わりませんが、チームとして良いバスケットができました」
アイシン三河は比江島慎を起点に攻めるが、相手の激しいディフェンスを破れず、不十分な体勢からシュートを打たされる場面が目立った。それでもオフェンスリバウンドからのセカンドチャンスを決め、終了間際に比江島が3ポイントシュートを沈めたことで点差は開かなかったが、アイシン三河としては本来のバスケットができない第1ピリオドとなった。
そして第2ピリオド。セカンドチーム主体の東芝神奈川が完璧なディフェンスで失点を4で切り抜ける。アイシン三河のインサイドの強さを支えるアイザック・バッツ、ギャビン・エドワーズにボールを入れさせず、入れられても簡単には振り向かせない。こうして相手のオフェンスの軸となる形を作らせないまま、激しいディフェンスで相手のミスを誘い、ターンオーバーからの鋭い速攻、スクリーンを使ってのミドルシュートを主体に、第2ピリオド開始から9-0のランで34-21とリードを広げた。
第3ピリオド、全く疲弊していない状態でコートに戻って来た辻が攻撃の起点となる。3ポイントシュートを警戒されている裏を突き、打つと見せかけてのトリッキーなパスを連発し、オフェンスをさらに勢い付ける。このピリオドで25得点。インサイドの攻撃がそれなりに機能し始めたアイシン三河よりもハイペースに得点を重ね、第3ピリオド終了までに点差を20にまで広げ、相手の士気を断ち切った。
最終スコアは82-60。東芝神奈川が快勝し、対戦成績を2勝2敗のタイに戻している。こうしてNBLファイナルは最終戦までもつれることになった。
30得点のファジーカス「大事なのは80点以上取ったこと」
試合後、東芝神奈川の北卓也ヘッドコーチはこう語る。「辻とファジーカスには中心選手として頑張ってもらわなければいけませんが、チームスポーツなので、誰かがトラブルを起こせば、別の誰かがカバーすると。序盤に辻がいなくなったところで、残ったメンバーがしっかり点を取ったことで、相手は的を絞れなくなった。あとはスペースを使ってボールを動かし、良い攻撃ができたと思います」
アイシン三河の鈴木貴美一ヘッドコーチはメンタルの問題についてコメントした。「選手はサボってるわけじゃないけど、違うところで頑張ってしまった。勝ちたい気持ちはディフェンスで出る分にはいいのですが、オフェンスで頑張りすぎてしまった。焦りもあって、ドリブルで何とかしようとして疲れてしまった。そしてディフェンスで頑張れない。もう一度、明日は冷静にやりたいです」
ファジーカスは30得点を挙げただけでなく、ディフェンス面でもバッツを抑え込む大活躍。「第2ピリオドで相手を4点に抑えて勢いに乗ることができた。そして第3ピリオドで突き放すことができた。ディフェンスも素晴らしいと思うが、大事なのは80点以上取ったこと。80点以上取れば勝てる。明日もイージーな得点を取れるよう頑張りたい」
また、ファジーカスは満員の観客が集まった中でプレーできたことを喜んだ。「選手としてとても楽しくプレーできる環境でした。ファンからエネルギーをもらって、とても楽しくプレーできた。観客の声援で勢いに乗れた。素晴らしかったです」
明日はいよいよ最終戦。連勝の後に連敗を喫したアイシン三河だが、エースの比江島は決戦に向けて気持ちを切り替えている。「最後なので、自分が持てる力すべてを出し切りたい。明日までにきっちり修正して、全部出し切って勝ちたいと思います。お互いを信じてやれば勝てます」