当初の5年計画を凌駕する創設2年目での快挙

現地10月31日にWNBAファイナルのGAME7が開催された。ゴールデンステート・ヴァルキリーズがホームのチェイス・センターでアトランタ・ドリームを68-63で下し、球団創設わずか2年目にして初のWNBAチャンピオンに輝いた。

試合は終始激しいディフェンスの応酬となり、最後まで両者一歩も譲らない展開が続いた。第3クォーターに15得点を挙げていたギャビー・ウィリアムズが、同点で迎えた第4クォーター残り2分18秒にディープスリーを決めて抜け出し、猛追するドリームを振り切って栄冠を勝ち取った。この試合でウィリアムズは、30得点2スティール4ブロックと攻守に渡って活躍してMVPに輝いた。

ヴァルキリーズは2025年にWNBAに参入した新興チームで、NBAのウォリアーズと同じオーナーグループが運営し、サンフランシスコのベイエリアを本拠地としている。今オフには、田中こころをドラフト指名して日本でも注目度が上がった。新規参入のチームは、既存チームから選手を獲得するエクスパンションドラフトやフリーエージェント市場を通じて戦力を整えるため、他のチームと比較して戦力面で不利になりやすい傾向にあるが、ヴァルキリーズは初年度から23勝21敗を記録して、WNBA史上初めて創設初年度にプレーオフ進出を達成した。2年目となる今シーズンは32勝12敗で西カンファレンス2位という結果を残すと、プレーオフでは昨シーズンの王者であるエーシズを破るなど、快進撃を続けて頂点に立った。

この快挙を実現したのが、初代ヘッドコーチであるナタリー・ナカセだ。日系アメリカ人3世のナカセヘッドコーチは、NCAAディビジョン1のUCLAや海外リーグで活躍したのちに指導者へ転身。日本では2011年11月に、女性初の国内男子プロチームのヘッドコーチとしてbjリーグ埼玉ブロンコス(現・さいたまブロンコス)を指揮した。その後は、NBAのクリッパーズでインターンを経て女性初のベンチ入りアシスタントコーチへと昇格し、エーシズのアシスタントコーチとして2度のWNBA制覇に貢献。昨シーズンは創設1年目のチームで最優秀コーチ賞を受賞するなど、様々な分野で前例を打ち破ってきたパイオニアだ。

ナカセヘッドコーチは優勝後のスピーチで、エクスパンションドラフトでプロテクトされなかったり他のチームで結果を残せなかった選手たちで構成された自チームの選手に向けてこう力強く語った。

「この優勝は、過小評価され、誤解されてきたすべての人々のためのモノで、今まさに(そういった認識が間違いであることが)証明されました。心と魂をすべて込めて戦えば王者になれるんです」

そして、ウィリアムズもこう語った。「昨シーズンに私たちは『スターがいない』『タレントが足りない』とさんざん言われました。……でも今は、私たちが勝者です」

ヴァルキリーズの選手たちは、周囲からの低評価を原動力に変え、チームとしての結束を強めてきた。2022年にドラフト7位でダラス・ウィングスに指名されたヴェロニカ・バートンはこれを象徴する選手だ。彼女はチームにフィットすることができず2024年のシーズン開幕前にウェイブされた。その後コネチカット・サンと契約を結び、同年12月のエクスパンションドラフトでヴァルキリーズに加入。ウィングスでプレーした2シーズンの平均2.5得点、2.1アシストから一転、2025年には平均11.9得点、6.0アシストを記録し、最も成長した選手に贈られるMIPを受賞した。今シーズンのプレーオフでも全試合に先発出場し、平均31.6分のプレータイムで9.2得点、3.8アシストを記録。チームの優勝に大きく貢献し、これまでの評価を覆した。

ウォリアーズとヴァルキリーズの共同会長兼CEOのジョー・ラコブは2023年のチーム創設発表時に「5年以内にWNBAチャンピオンシップを獲得する」と明言していた。そしてその目標は予定を大幅に前倒しして実現された。選手たちがキャリアの苦難を乗り越えて培ってきた反骨心と、ナカセヘッドコーチの下で築き上げた団結力が、創設2年目での快挙に繋がった。

様々な不可能を可能にしてきたナカセヘッドコーチの喜びは誰よりも大きかったであろう。ビールを片手に記者会見に登壇したナカセヘッドコーチはそれを早く切り上げたい様子で上機嫌にこう言った。「ねえ! 今夜はただ酔っ払いたいだけなの! 今この瞬間を楽しもうよ!!」