スポーツチームが本拠地を移し、名前を変える。そのとき、経営者が期待する成長と、ファンが感じる変化は、必ずしも一致しない。

2026-27シーズン、サンロッカーズ渋谷は『東京サンロッカーズ』へ名称を変更し、ホームタウンを江東区、ホームアリーナをTOYOTA ARENA TOKYOへ移した。「サンロッカーズ」という愛称を継承しながら、「渋谷」から「東京」へ地域ブランドの範囲を広げる選択だ。この変更は成功するのか。

株式会社Groovementは、東京SRの協力を経て、2026/9/24~9/30の期間にてファン心理に関するアンケートを実施した。本稿では1,707人を対象とした単純集計とクロス集計を基に、名称変更の可能性と経営上の論点を考察する。経営課題とそれに対応する専門人材を結び付ける立場から、今回の調査では、ファンの愛着、来場の条件、競合との差別化に注目した。結論からいえば、新名称が受け入れられる土台はある。ただし、来場や収益の拡大まで実現できるかは、調査で見えた課題を具体的な施策に変えられるかにかかっている。

「応援を続けたい」は 96.5%。それでも安心できない理由

名称変更を「非常にポジティブ」「ややポジティブ」と評価した回答は、合計49.6%だった。
否定的な回答は21.2%、「どちらともいえない」は 29.2%である。肯定的評価は否定的評価を上回ったが回答者の過半数が積極的に賛成したわけではない。

経営者がこの数字を読むなら、「支持が優勢であると同時に、理解と共感を深める余地が残っている」と捉えるのが適切だろう。より前向きな兆候は、新名称への将来の愛着である。

「東京サンロッカーズ」に今後愛着を持てそうだとする回答は 70.8%に達した。旧名称に愛着があった回答が83.7%に上る中でも、新しい名前に親しみを持つ可能性を認める人は多い。さらに、今後もサンロッカーズを応援し続けたいという回答は96.5%だった。名称が変わっても、クラブとの関係を続けたいという強い意向が確認できる。

ところが、アリーナ移転後の現地観戦頻度については、増えると見込む回答が39.1%、変わらないが31.4%、減るが29.5%だった。しかも、観戦頻度が減ると回答した503人のうち、93.4%は今後も応援を続けたいと考えている。経営上、見逃せない数字である。クラブへの支持を失わなくても、来場機会を失う可能性があるからだ。愛着が維持されても、観戦回数が減れば、チケットや会場内の飲食・物販への支出は変わり得る。応援継続意向の高さを、そのまま収益基盤の安定と読み替えることはできない。

観戦頻度が減ると見込む人の理由を見ると、対応すべき課題は具体的だ。複数回答で「アクセスが悪くなる」が82.7%、「チケット価格が気になる」が67.0%だった。「渋谷ではなくなることへの寂しさ」は 18.3%である。名称や地域への思いを尊重するとともに、移動の負担と価格への懸念に対応する必要がある。

交通経路や所要時間を分かりやすく伝え、異なる予算で楽しめる座席や観戦プランを用意する。新ブランドの魅力を伝える施策と、実際に来場しやすくする施策を組み合わせることが重要になる。

過去の移転・改称事例から何を学べるか

過去のスポーツチームの事例を見ると、本拠地移転時の名称戦略は一様ではない。日本ハムファイターズは、2004年の北海道移転に伴い、「北海道日本ハムファイターズ」へ改称した。
企業名と愛称を残し、地域名を加えることで、従来のブランドとの連続性と新天地への帰属を示した。その後、球団は「HOKKAIDO PRIDE」というブランドコンセプトの下で地域活動を展開してきた。名称に掲げた地域との関係を、継続的な活動によって具体化してきた事例である。もちろん、支持の形成には成績や選手の魅力なども関わり、名称変更だけの成果とはいえない。

また、米プロバスケットボールのジャズは、1979年にニューオーリンズからソルトレークシティへ移転し、「ユタ・ジャズ」となった。旧本拠地の文化に由来する愛称を、新天地でも引き継いだ。「サンロッカーズ」を残す今回の変更にも、応援対象の連続性を示せるという利点がある。

一方、米プロフットボールのオイラーズは、ヒューストンからテネシー州への移転後、1999 年にタイタンズへ改称した。新名称の検討には、地元住民による諮問委員会が関わった。愛称まで刷新する場合には、名前そのものに加え、地域の人々がその過程に関わることも、関係づくりの手段になる。これらの事例から、成功する名前の形式を一つに絞ることはできない。経営に求められるのは、どの価値を引き継ぎ、どの価値を新たに届けるのかを明確にすることだ。名前を変えた後の活動が、その意味を育てていく。

浴野 真志(えきの まさし / Masashi Ekino)
株式会社Groovement 代表取締役

神戸大学経済学部卒業。デロイトトーマツコンサルティング、フィールドマネージメント(現:FIELD MANAGEMENT STRATEGY)にて、主にグルメサイト/エンタメ/化粧品通販などB2C領域におけるマーケティング戦略、新規事業の検討、各戦略の実行支援に従事。2021年に株式会社Groovementを創業し、フリーランスコンサルタント向けの案件紹介マッチングサービス「Strategy Consultant Bank」「IT Consultant Bank」、ハイクラス×DX特化のコンサル・スタートアップ転職支援「Groovement Agent」などを運営。