島田慎二

2016年に開幕して日本バスケ界を再構築したBリーグは、10年後の今年秋に『B.革新』と銘打ったリニューアルを行った。経営力を基準としたカテゴリー再編、競技力強化のための新レギュレーション導入、今まで以上に社会性を重視する姿勢という3つが、今後のBリーグの成否を左右する。それと同時に、次の10年に向けた「2036年の目標」と2050年を見据えた長期ビジョン「感動立国」をすでに発表している。一連の改革を主導した島田慎二コミッショナーと『B.革新』を振り返るとともに、Bリーグの今後について語ってもらった。

「決めたものを答えに、責任を負えるのはリーダーだけ」

──『B.革新』のシーズンがスタートしました。『B.革新』に向けた重要な決断の一つが、B.PREMIERのクラブ上限数の撤廃でした。仮に18としていた上限を2023年12月に撤廃した結果、B.PREMIERは26クラブでスタートすることになりました。

あれは一つのターニングポイントでした。そもそもスポーツビジネスの日本的な成功モデルとされるプロ野球は「12球団だから強い」、「クラブ数が増えたらバリューが薄まる」、「だから増やすよりも絞るほうが価値がある」です。しかし私には、「本当にそうなのかな?」という疑問がありました。プロ野球とJリーグに続く新たな第三勢力として、我々はリーグのバリューをどう最大化するのか。そう考えた時に、希少性の逆張りで、相対的な価値を大きくしていく戦略が日本のマーケットに合うんじゃないかと考えました。

ライセンスの審査対象となる2シーズンの1年目で、すごく良い感触がありました。ここで18クラブという上限を設けたままなら、「ウチは条件を満たしてもB.PREMIERから漏れそうだ」と、手を止めてしまうクラブが複数出てきたはずです。そうでなくとも、何百億も投資してバスケを盛り上げようとしているクラブの努力、自治体の意思決定を、リーグが踏みにじることになります。その状況を見た時、上限を撤廃することがみんなの幸せになるという確信をもって決断しました。

──B.PREMIERが26クラブになったことで『プレミア』という特別感は薄れ、B.ONEが25チーム、B.NEXTが4チームと、カテゴリー構成は結果的に逆ピラミッド型になりました。

そうですね。それだけ多くのクラブが短期間で想像を超える覚悟と成長を見せてくれた証でもあります。一方でB.ONEとB.NEXTを含めたリーグ全体のバランスをどう取っていくかという構造的な課題も連鎖して生じています。ただ、それは18クラブという上限を撤廃する成長戦略の副作用でしかなくて、5年10年かけて修正していけばいいと思っています。

──島田さんは千葉ジェッツの代表として、低迷していたクラブをV字回復させました。ただ、船橋は東京都に隣接する都市で、過疎化が進む地域とはマーケットの条件が異なります。当時掲げていた「地域愛着」の考え方は、「地域創生リーグ」にも繋がるのでしょうか?

完全に繋がっていると思います。首都圏か、船橋や川崎のような中核都市か、あるいは地方かでクラブの立ち位置は変わりますが、私は千葉ジェッツの経営者として、潰れそうなクラブが立ち直り、成長するプロセスにかかわりました。その私の生きてきた道は、Bリーグの55クラブすべてを内包しています。クラブごとにいろんな成長の段階にいますが、そのどこであっても「自分にとってのあの時期だな」と受け止められます。

ずっと「クラブの成長なくしてバスケ界の発展なし。リーグの発展なくしてバスケ界の繁栄なし」と言ってきました。「B.革新」もクラブ経営の強化、日本代表の強化、社会への貢献が三原則ですが、まずクラブ経営が良くならない限りサステナブルではありません。地域愛着、地域密着、地域の皆さんにハッピーになってもらう状況を作ることを経験したジェッツでの経験がなければ、「B.革新」の難しい舵取りの中で、55クラブの意見は集約できなかったと思います。

──B.PREMIERがこれだけ大きくなったことで今後出てくる構造的な問題として、リーグを引っ張るであろう有力クラブの成長が阻害されそうです。サラリーキャップ一つを見ても、昨シーズンで人件費を20億使っていたクラブは、戦力を大幅に削っていて、「上限を引き上げてほしい」と思うはずです。一方で、経営規模の小さなクラブや、今後のB.PREMIER入りを目指すクラブからは「それはウチには難しい」という反発も出てきそうです。いわゆる『護送船団方式』がトップクラブの成長を阻害し、クラブ間の競争力の差を埋めることが、かえってリーグ全体の成長を妨げる可能性はありませんか?

選手はサラリーキャップを引き上げてほしいだろうし、ファンもチームは強くあってほしいと思うものです。オーナーによっては選手年俸をもっと出したい人もいれば、今が適正だと考えている人もいます。とにかく賛否はありますが、決めたものを答えにするしかなく、その責任を負えるのはリーダーだけです。サラリーキャップについては、私は今も妥当だと思っているんですよね。

島田慎二

「この予算でどう戦うか、本気で取り組んでほしい」

──サラリーキャップにおける「妥当」はどういう考え方ですか?

サラリーキャップの導入でBリーグにいる外国籍選手のレベルが下がった、日本人選手のサラリーが下がったというマイナスのイメージがあるかもしれませんが、チーム数が増えているし、実際はほとんど下がっていないはずです。Bリーグになって、選手の年俸は人気や実力以上にインフレが続いてきました。選手の頑張りがお金で報われるのは良いことですが、それがいわゆる「ミルクマネー」、オーナーの補填で成り立っている状況は好ましくありません。

特に外国籍選手について言えば、これまでの日本のマーケットは適正な相場形成や交渉のノウハウが十分に蓄積されていなかった側面があります。日本は欧米の主要リーグに比べてプロとしての歴史が浅く、海外から良い選手を呼ぶにはお金を積むしかない。その結果、過度なインフレが起きてきたのがこの10年です。私はこれを是正したかったんですが、頑張って交渉しようと呼び掛けても変わりませんでした。ですが、サラリーキャップを導入したことで変わらざるを得なくなります。

「優れた外国籍選手がみんな出て行ってしまう」と言われていましたが、例えば外国籍選手の年俸が1億円から7000万円に下がったとしても、他のリーグより高いのだとしたら、そう簡単にはBリーグから離れない。私にはそういう確信がありましたし、実際ほとんど残っていますよね。

──今後1~2年でサラリーキャップの上限を引き上げる考えはありませんか?

今すぐにでも上限を引き上げることは可能でしょう。ただ、今それをやると多くのクラブがまたミルクマネーに頼ることになります。現場は目標を達成するために頑張っているのに、最後の最後でオーナーの補填に頼ってしまう構造が定着すると、現場には達成感が生まれないし、「どうせ最後はお金が出るから」と頑張るモチベーションを失います。それではクラブはいつまでたっても自分で稼ぐ力を身に着けられない。スポーツビジネスで傑出した存在になろうとしているクラブを、まず足元から蝕んでいく。それがミルクマネーです。だから今はサラリーキャップの上限8億円にこだわりたいです。一回この予算でどう戦うか、各クラブにはその工夫に本気で取り組んでほしいですね。

──お金の話のように見えますが、実際は競技力の話ですね。

変な話、「もうちょっとで勝てるので」と追加の予算に頼る手法はGMの手腕ではないですよね。サラリーキャップ導入で同じ土俵に立ち、そこで常に勝てるチームを作れたら、本当にすごいことです。そんな優秀なGMは社長よりも給料をもらって良いと思っています。日本人選手が外国籍選手とマッチアップできなければプレータイムを得られないのと同じで、GMも同じ土俵で競争に晒される切磋琢磨が、本当の意味でのプロフェッショナルを作っていく。

経営の話で言えば、上場企業がスポーツに投資するとなれば、今は株主への説明責任を求められます。そういう時代だからこそ、私は「Bリーグは黒字化できるメジャーなスポーツリーグです」という触れ込みで投資を呼び込んできました。そこで最も重要なのは、Bクラブに損益分岐点がしっかり存在することです。

今の決算の数字は、サラリーキャップの上限を10数億に引き上げてもいいレベルにはあります。ただ、ミルクマネーが減っていくプロセスで実体経済が少しずつ上がっていく。経営の強化とバスケの品質向上を両方追い掛けていきますとずっと言い続けて、みんなを説得してきたつもりです。

島田慎二

「生き方はクラブが自分で見つけ出さなきゃいけない」

──『地域創生リーグ』として全国に広がっていくにはB.ONEやB.NEXTのクラブで成功モデルを作ることが重要だと思います。ただ、地方ではTOYOTA ARENA TOKYOのようなアリーナの作り方はできず、自治体が200億から300億円という公金を投じて建てることになります。クラブはもちろん、その地域にとってその投資が成功と言えるモデルを作る必要がありますね。

まさにその通りですが、私はどこにでも「アリーナを作るべきです」と言っているわけではないんです。サジェスチョンはしますが、「皆さんで決めてください」という立場です。クラブのことも、アリーナのことも、成長戦略のことも話しますが、各地域のライフスタイルに応じた戦略を組み立ててくださいと言っています。それは「10年後にB.PREMIERに行きましょう」かもしれない。知事や市長、クラブのオーナーや社長、市民の皆さんが、自分たちの未来をどう描くかを語り合って決めるものであって、だから公共財なんです。

そして、その結論がB.PREMIERでなければいけないとも思っていません。仮にB.PREMIERの経済効果が50億、B.ONEが20億、B.NEXTが3億だとしたら、アグレッシブに行くなら300億円のアリーナを作ってB.PREMIERを目指せば良いし、地元に負荷を掛けることなく一定の効果と地元の盛り上げをB.ONEで作るのも良いです。それが自分たちの身の丈に合った、地域性に合った選択ならば、B.PREMIERを目指さず、B.ONEでずっとやっていく戦略があっても良いです。

だからこそ、「B.PREMIERに行く必要はないな」と思えるB.ONEを作ることも私の使命です。B.PREMIERは圧倒的な盛り上がりを作るマーケットにする、B.ONEはB.ONEで、10分の1の投資でも地元のシンボリックな存在になれる。東京に住むのが幸せで、地方に住むことが不幸せではないように、クラブそれぞれのライフスタイル、生き方が選べるのが理想です。

──ですが、Bリーグができてからの10年間、お金の面でも人気でもB1が『跳ねた』一方で、B2への恩恵は限られたものでした。だから、B.PREMIERに行ける可能性があるチームは何が何でも乗り遅れまいとした。下位カテゴリでもファンや地元が誇らしくあれるB.ONEクラブの姿が、正直想像できないところがあります。

16チームがPLAYOFFに出られるとか、優勝賞金を引き上げるとか、地区制の構造とか、B.ONEを盛り上げるために手はいろいろ打ちました。今はB.PREMIERが始まったタイミングなので、プロモーションの効果も出ていませんが、まだこれからです。ただ、勝てば昇格できる、だから資金を投入する、でもそんなに簡単には勝てない、だから赤字になる、無茶な投資はできなくなる、万年下位で希望がない、という状況はもうありません。2400人入れましょうというライセンスのルールがあることで、入場者数を増やそうという企業努力の意識が以前より増したはずです。

そこから5年後、10年後に、B.PREMIERを目指すのか、あるいはB.ONEのチームとしてクラブの存在価値を再定義して地元に問うのか。どんな道をクラブが選ぶとしても、リーグはライセンス担当を付けて経営の相談を受け、ナレッジシェアをしてフォローしていきます。ただ、生き方は誰かに決められるものではなく、クラブが自分で見つけ出さなきゃいけないと思っています。

──ちなみに、島田さんのコミッショナーの任期はいつまでですか?

来年9月下旬の総会までなので、厳密に言うとあと11カ月ですが、一つの区切りは今シーズンの「B.LEAGUE AWARD SHOW」ですね。

──ただ、レームダック(任期終盤に影響力や遂行力が低下した状態)になるタイプでもないと思います。任期があるうちにやり遂げたいことは何ですか?

あと1年で辞めます、と言うとレームダックになってしまうから、普通はあまり辞めることには触れないんですが(笑)、私は「今のうちから備えてくれ」と一早く言っています。今のB.LEAGUEのメンバーは優秀だから、そこは心配していません。

すでに中期経営計画を作り、「2036年に1500億円」というビジョンを掲げました。その時点で「それは島田さんの仕事ですか?」と言われましたし、確かに次の人が掲げるものかもしれません。ですが、「B.革新」に向かって頑張ってきて、クラブもリーグもみんな疲れていて、でも満足しちゃダメだと目線を上に向けたかったんです。あとは次のコミッショナーが思うようにやってくれれば良いですが、そういうアイデンティティを残すことは大事だとの思いで決めました。私は経営者なので、最後の最後までマーケットを作ることをやっていくつもりです。