
県立長崎工業(長崎県)の吉田颯志選手はこの日、不安な気持ちを抱えながらコートに立っていました。「昨日と一昨日が就職試験で、2日間練習できませんでした。そのまま今日の試合だったので、最初はちょっと心配でした」
県立長崎工業はほとんどの生徒が進学ではなく、就職の道に進みます。今年の高校生の採用選考が解禁されたのは、慶誠(熊本県)戦の10日前でした。そのため、3年生の多くが試験に臨んでいました。寺田祥コーチは「練習できたのは4日くらいです。この試合で勘を取り戻してほしい」と話します。
試合が始まると、吉田選手は不安をかき消すかのようにアグレッシブに3Pシュートを打っていきます。1本目は外しましたが、直後に2本目を決めたことで肩の力が抜けました。チームで徹底している「空いたら打つ、リズムが良かったら打つ」をそのままに、わずかな隙も見逃さずにリングを狙い続けます。そんなエースの姿に引っ張られてチーム全体のオフェンスが活性化していきました。
県立長崎工業の勢いをさらに後押ししたのが、赤いハチマキを頭に巻いた5人の応援団です。今年のインターハイ予選をもって部活を引退した3年生で、応援のために佐賀まで駆けつけました。試合中は大きな声で仲間たちを盛り立て、クォーター間やタイムアウトになると選手たちを団扇であおいでサポートします。
「この代は本当に仲が良くて、いつも一緒にいます。B.LEAGUEの試合を見にいった次の日には会場でもらった記念Tシャツを全員着てくるんですよ」と寺田コーチも笑う仲良しぶり。高校生活最後の夏休みは総勢20人近くで五島に旅行するなど、プライベートでも多くの時間を過ごしてきました。
それでもコートに一歩入れば、甘えや馴れ合いはありません。3年生の変化を、寺田コーチはこう語ります。「顔色をうかがいながらプレーすることがなくなりました。最初は叱られるのが怖くて、平均点のプレーしかできなかった。メンタルが成長したと思います」。本気で強くなるために、時には厳しい言葉を互いに掛けながら、ここまで高め合ってきました。そんな仲間のエールに応えないわけにはいきません。
吉田選手は持ち前の身体能力を存分に発揮します。慶誠の長身留学生を狙ったロブパスに鋭く反応し、176cmというサイズを感じさせない跳躍力で鮮やかにカットしてみせました。チームも攻守にダイナミックに動き回り、慶誠の留学生プレーヤーをファウルトラブルに追い込んで、103-70の大勝を収めました。
吉田選手は「やっぱりシュートタッチがちょっと悪かったです。結構リングに嫌われてしまいました」と思うように得点は伸びませんでした。それでも自分で無理やりこじ開けるのではなく、調子の良かった野上大輝選手や堀内悠稀選手にパスを回してオフェンスを動かし、ディフェンスやリバウンドにエネルギーを注ぎ込みました。
こうした周囲との連係やディフェンスの重要性をあらためて感じたのは、左手の骨折で約1カ月の戦線離脱を余儀なくされ、コートの外からチームを見つめる時間があったからでした。これほどの大ケガは初めてで、チームに迷惑をかけてしまう申し訳なさはありましたが、「コートの外からでもみんなにアドバイスできる」とすぐに気持ちを切り替えました。
チームを客観視できたことで、どんなプレーでチームに貢献できるかの具体的なイメージが持てたと言います。「速いオフェンスに繋げるためには、やっぱりリバウンドが良い状態で取れないといけません。自分の身体能力を生かして、リバウンドをもっと頑張ろうと思いました」
もちろん、エースとしての自覚も変わらず胸にあります。エースになれば、相手のマークが厳しくなるのは当然です。ダブルチームで囲まれようが、体勢を崩されようが、自力でシュートを打ち切って決めなければなりません。そんなプレッシャーと戦い抜くことが、エースの役割でもあります。吉田選手はしっかりとした口調で「自分がチームを絶対勝たせるという思いで、いつも打っています」と語ります。
普段あまり練習試合をしない県立長崎工業にとって、「U18日清食品トップリーグ2026」は貴重な実戦の場です。中部大学第一(愛知県)や興南(沖縄県)といった強豪との対戦に、吉田選手は目を輝かせます。「強いチームを相手にしても、自分のプレーがしっかりできるかを確かめたいです。チームとしては、全国上位のレベルに対して自分たちのディフェンスや速いオフェンスがどこまで通用するかを試したいです」
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