フリオ・ラマス

効率の悪い2ポイントシュートをあえて攻撃のメインに

ワールドカップに向けた日本代表のテストマッチ。2勝3敗と結果的には負け越したものの、強豪ドイツに勝利しただけでなく、負けた試合でも接戦を繰り広げ、強豪国にも引けを取らない実力を発揮したことで、大きな期待を抱いてしまいます。

「史上最強」と評されるようにロスターにはNBAプレイヤーが2人もいて、選手の質の高さが際立っていますが、世界の強豪国に比べればまだまだ劣っているのも事実。それをヘッドコーチのフリオ・ラマスによる絶妙な試合運びが補っていました。

テストマッチのどの試合でも、日本代表は一方的にやられてもおかしくない苦しい時間帯がありながら、ギリギリのところで点差を保ち、自分たちの時間帯になって一気に追い上げる展開が多くありました。振り返ればアジア予選から「接戦になったことが信じられない」ような試合が多く、偶然とは思えないほどに続くため『ラマスマジック』と呼びたくなります。

テストマッチの中で日本代表は多くの3ポイントシュートを打たれてきた一方で、自分たちのオフェンスではミドルシュートが目立ちました。現在のNBAではミドルシュートの非効率性と3ポイントシュートの優位性が、統計的にも実践でも示されており、2ポイントシュートよりも3ポイントシュートを多く打つチームがあるくらいです。

日本代表のように3ポイントシュートが少ないチームの特徴は「負けにくいチーム」であり「接戦に持ち込むことが多い」という点が挙げられます。効率は悪くても堅実なシュートを増やすことで、大量リードを得ることが難しい反面、大量ビハインドになることを防いでもいます。

昨シーズンのNBAで3ポイントシュートのアテンプトが少なかった上位3チームはスパーズ、ペイサーズ、クリッパーズですが、3チームとも48勝32敗と好成績を挙げており、特にクリッパーズは得失点差が+0.9点しかないにもかかわらず、14試合も勝ち越しています。3ポイントシュートを減らした堅実なスタイルが、接戦での勝利を増やせた要因の一つだったといえます。

NBAに比べるとBリーグ全体が3ポイントシュートが少なく、ラマスもその流れに乗った形ではありますが、日本代表がテストマッチにおいて苦しい展開になっても接戦に持ち込んでいったことと、NBA全体での特徴は重なり合います。

竹内譲次

苦しい時間にこそ時間をかけてリズムを整える

また八村塁の大活躍が目立つ中で、その八村がベンチに下がった時間帯の多くで日本は明らかな劣勢に立たされるものの、印象ほどには点差が開かないことが多くあります。

予選から苦しい時間帯にラマスが起用していたのがベテランの竹内譲次です。自分自身が得点を取ることは少ないものの、ビッグマンながら組み立てに参加してボールタッチすることが多くパスの連続でリズムを作り、ボールを持たなくても味方のドライブコースを空けるためのスクリーンなどで地味ながら高い貢献度で『チームの潤滑油』になっていました。

チュニジア戦では双子の兄である竹内公輔と同時出場。彼らがスクリーンやリバウンドといったハードワークで支えることで、日本代表は攻守の切り替えが非常に早くなり、活性化していきました。

ラマスは苦しい展開になると竹内兄弟に代表される『リズムを整えてくれる選手』を起用してきます。オフェンスでは得点を取る能力よりもパスを繋いでチーム全体を連動させ、ディフェンスではハードワークで支えてくれる選手を好んで起用しました。

その結果、攻守に一つのシュートまで時間がかかることになり、試合の印象としては劣勢でも点差はそこまで開かない展開に持ち込むことになりました。そして次第に自分たちのリズムを整えたところで、より得点力のある選手をコートに送り込み反撃に転じる作戦を好んで使います。

男子日本代表

世界の舞台で勝利するために必要なプラスアルファ

ラマスの巧みな采配は、試合展開に応じた柔軟な選手起用によって生み出されるため、選手交代のローテーションは試合によってバラバラになります。後半に反撃する試合が続いているのも、前半で得た情報から適切な選手の組み合わせを判断した結果であることが多く、試合中の優れた分析力も光っています。

ラマスの戦術が浸透し、八村と渡邊雄太、ニック・ファジーカスが加わったことでアジア予選で勝利を重ねた日本代表でしたが、テストマッチでは接戦を繰り広げながらも、もう一押しが足りずに3試合を落としました。

勝利したドイツ戦では86点中51点を八村と渡邊の2人で奪いましたが、試合終盤の残り2分を切ってからはファジーカス、馬場、篠山の得点で逆転に成功しています。

2人のNBAプレイヤーとラマスの巧みな采配で接戦に持ち込めるようになった日本代表ですが、勝利をつかむには緊迫した場面でも全員が連動して得点を奪いに行く必要があります。接戦が増えていくほどに、チーム全体のリズムを整え、誰もがアタックしていくことが勝利へのキーポイントになりそうです。