NHLハリケーンズの成功をポートランドで再現できるか
ポートランド市議会は、トレイルブレイザーズの本拠地モダ・センターの改修費として1億2000万ドル(約180億円)の拠出を承認した。すでに承認済みの州予算3億6500万ドル(約550億円)に、マルトノマ郡が承認した1億160万ドル(約170億円)と市の拠出分を合わせると、6億ドル(約900億円)規模の改修費用をほぼ公的資金で賄う枠組みが固まった。
ポートランド市が所有するモダ・センターは1995年開業で、老朽化が進んでいる。ブレイザーズの新オーナー、トム・ダンドンは現在のリース契約が満了を迎える2030年より前の大規模改修を望んでいるが、改修費用については一切負担しない方針だ。
昨年夏にブレイザーズの新オーナーとなったダンドンは、アリーナの改修費用をどこが負担するかの駆け引きの中で、自身がオーナーを務めるNHLハリケーンズの本拠地、ノースカロライナ州ローリーへのチーム移転をちらつかせながら州や市に圧力を掛けてきた。
これで公的資金によるアリーナ改修に目処が立ち、ポートランドのファンは愛するNBAチームがなくなる不安から解放されたかと思いきや、まだ問題は残っている。市はブレイザーズ側に、賃料と固定資産税相当額の年間620万ドル(約9億3000万円)と改修費用の予算超過分を負担するよう求めているが、これらの協議でまたひと悶着あることは容易に想像できる。またマルトノマ郡議会では、拠出する資金の具体的な財源が決まらないまま採決が行われたとの異議が出ており、その背景にはダンドンの強硬姿勢への反発がある。
一方で、ダンドンの『フランチャイズ移転』という圧力には疑問符も付く。現在のリース契約では2030年までダンドンが他都市と移転交渉を行うこと自体が禁じられている。しかも移転先がローリーであれば、近隣のシャーロットにホーネッツがあるため、理事会の承認を得るハードルは高い。すでにラスベガスとシアトルで新規チーム参入の動きがある今、他に魅力的な移転先を見いだすのは簡単ではない。
他にアメリカ4大スポーツのチームがないポートランドはブレイザーズを失う懸念から、ダンドンの要求を受け入れざるを得ない。しかし、資産家であるダンドンが一切の自己負担をしないまま巨額の改修費用の大半を地元の納税者に負担させ、なおも過度な要求が続くとなれば、今は静かに積み重なっている不満が爆発しかねない。
それでも、ダンドンにとってこれは賭けだ。彼は自分のやり方で成功を収めることを求めており、NHLハリケーンズで大成功をつかんだだけに、それは可能だと信じている。ハリケーンズを運営し始めた2018年、彼が最初に行った人事の一つがロッド・ブリンダムールをヘッドコーチにしたことだ。最後に優勝した2005-06シーズンにキャプテンを務め、永久欠番にもなったブリンダムールは、引退後は別のチームでアシスタントコーチをしていた。ダンドンは『負け癖』の染み付いたチームに、勝利の文化を持ち込むためにブリンダムールを抜擢した。
THE CAROLINA HURRICANES ARE EASTERN CONFERENCE CHAMPIONS pic.twitter.com/eqI7L4LF4n
— Carolina Hurricanes (@Canes) May 30, 2026
レジェンドではあってもヘッドコーチ経験のない彼の抜擢は、今まさにNBAでのヘッドコーチ経験のないマイカ・ノリの起用と同じく「実績のないコーチは安く雇えるから」と見なされたが、2006年の優勝以降プレーオフに1度しか進出できなかったハリケーンズは、それから毎年プレーオフに進出。今年はついに2006年以来の優勝を勝ち取った。
また、勝利した試合後には『ストーム・サージ』という氷上でお祝いのパフォーマンスが定番になった。ファンは勝つことだけでなくストーム・サージ目当てで試合に足を運ぶようになった。ダンドンはファンを喜ばせるために、アリーナの駐車場や飲食の価格を引き下げてもいる。2018年時点でアリーナの収容人数1万8000人に対してシーズンチケットが4000枚しか売れておらず、ずっとリーグ下位だったハリケーンズの観客増員は大幅に増え、今ではホームゲームで160試合連続の完売を記録する人気チームとなった。
さらにダンドンは、近隣のカーター・フィンリー・スタジアムにNHLの試合を誘致した。NHLは長らく大都市圏の屋外スタジアムを使って試合を開催してきたが、ダンドンはローリーにこの試合を誘致し、2023年に行われた試合には5万6000人の観客を集めている。
ハリケーンズのオーナーになった当初、ダンドンは本拠地レノボ・センターの改修資金についてローリー市から3億ドル(約450億円)を引き出した上で、20年間のリース契約を結んでいる。今まさにポートランドで行っている駆け引きは、そのまま8年前に行われたものだ。巨額の公的資金投入に見合ったリターンがあるかどうかは、もっと長いスパンで見て判断しなければならないが、少なくとも今のところハリケーンズは地元にとってなくてはならない存在になっている。そして『ケチ』とされるダンドンは、アリーナの改修費用は頑なに負担しなかったが、今はアリーナ周辺の開発に自分の資金を投じている。
ダンドンがポートランドでも同じやり方を貫く以上、最終的に問われるのは「いくら払ったか」ではなく「何を残したか」になる。ハリケーンズでは強硬な交渉の末にアリーナを維持し、チームを勝てる集団へと変え、ファンを呼び戻した。ブレイザーズでも同じ結果を出せるのであれば、今の反感はやがて結果によって覆されるだろう。逆にコート上で結果が出なければ『地元に負担を押し付けるオーナー』という評価だけが残る。ポートランドでのダンドンの賭けは、まだ始まったばかりだ。
